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未来の会

「医療費窓口負担割合の見直し」議論本格化

「医療費窓口負担割合の見直し」議論本格化

所得基準の見直しや対象者拡大で高齢者の負担増

昨秋の連立政権合意書に基づき、自民党と日本維新の会は13項目に上る社会保障改革案を今年度内に纏めるべく、議論を本格化させている。中でも最大の焦点となるのが70歳以上の医療費窓口負担割合の見直しだ。「現役世代の保険料軽減」に向け、維新は70歳以上も69歳以下と同じ「原則一律3割負担」の導入を求める。一方、維新案を「非現実的」と見做す自民は3割負担の対象者拡大等で落着させたい考えで、この先、一悶着有りそうだ。

 現在、70歳以上の医療費の窓口負担割合は原則、70〜74歳が2割、75歳以上の後期高齢者が1割となっている。但し70歳以上でも「現役並み所得」が有る人は3割となる。「現役並み所得」とは、住民税課税所得が145万円以上で、年収基準で言うと単身者は383万円以上、2人以上の世帯なら520万円以上——の人が該当する(70〜74歳と75歳以上では所得区分判定の仕組みが少し異なる。75歳以上で「現役並み」の水準には届かなくとも一定以上の所得が有る人は2割負担)。

 1人当たりの医療費は年齢が上がるに連れて増えていく。厚生労働省が調べた2023年度のデータによると、50〜54歳では年間25万円だったのに対し、70〜74歳63万1000円、80〜84歳93万7000円という具合だ。15〜69歳の1人当たり医療費を1とすると、70〜74歳は2・7倍、80〜84歳は3・8倍、85〜89歳は4・6倍に膨らむ。

 その半面、1人当たりの窓口負担は働き盛りの45〜49歳が4万4000円なのに対し、70〜74歳7万3000円、80〜84歳8万円、85歳以上8万7000円となっている。窓口負担割合が低い分、現役世代との格差は医療費程ではない。

 高齢期になると医療機関に掛かる機会が増え、一般的には現役時より収入が下がる。だからこそ、高齢者の窓口負担は長らく低く抑えられてきた。それが現役世代の保険料負担の重さに焦点が当てられる様になり、近年は「70歳以上」等と年齢で負担割合を区切る事への異論が強まり始めた。この流れを受け、19年9月に発足した第4次の安倍晋三第2次改造内閣は、「支払い能力の有る人には年齢を問わず負担してもらう」事を基調とした「全世代型社会保障」を打ち出す。その後の菅義偉、岸田文雄、石破茂の歴代政権もこの方針を引き継いできた。

 そして今の高市早苗政権で「まだまだ高齢者優遇が続いている」と考える維新が政権入りした事で、高齢者に負担増を求める路線は一層鮮明になった。維新は衆参両院共過半数割れの状況で政権に就いた高市氏の弱みを突く格好で、「現役世代の保険料軽減」を条件に与党入りした。両党の連立政権合意書には「年齢によらない真に公平な応能負担の実現」と明記された。

維新案には自民も厚労省も否定的 

 それでも、維新の急進的な手法には自民側に根強い抵抗感が有る。合意書を受け、維新は社会保障改革の第一弾としてOTC類似薬の公的保険からの除外を求めた。だが、自民党の慎重論に抑え込まれ、OTC類似薬に関しては部分的な負担増に止まった。医療費の窓口負担に上限額を設定している高額療養費制度の見直しも当初案よりは緩やかな内容に納まった。その後の衆院選で自民党が圧勝し、存在感の低下に焦る維新は高齢者の医療費窓口負担割合を増やす事による巻き返しを狙う。片や自民党は「一律3割にするなら今の1割から3倍の負担増になる。ありえないよ」(厚労族幹部)と維新案を一蹴する。

 自民党同様、維新案に否定的な厚労省は昨年末、同省の諮問機関、社会保障審議会医療保険部会の場で1〜2割負担の年齢区分を引き上げる考えをたたき台として示した。更に、所得基準を見直して2〜3割負担の対象者を拡大したり、「1・5割」「2・5割」等、負担割合を細分化したりする案も例示した。この他、収入は無くとも、株式等一定の金融資産を持つ人については負担能力を判定する仕組みを導入する事も議論の対象としている。

 これに支払い側の健康保険組合連合会(健保連)等は、「負担能力の有る高齢者には一定の負担を求めるべき」「現役世代が負担するいびつな構造を変える時」と賛同の声を上げ、同部会ではこうした厚労省案への支持派が多数を占めた。一方で、「生活が困難になる」「高齢者の負担増だけで現役の負担を賄うのは無理。公費投入が不可欠だ」といった批判も相次いだ。

 「家を買わずに来ましたので、今も家賃で生活はギリギリ。これ以上医療費の支払いが増えたら、食費を削らないとやっていけません」。神戸市内の賃貸マンションに妻と2人で暮らす男性(74)はこう呟く。中堅企業を定年退職し、今は年金暮らし。糖尿病と高血圧で診療所通いは避けられない。父と兄はがんで亡くなっており、「がん家系」と自覚している。男性の医療費の窓口負担割合は2割で、月々の自己負担は5000円程度。だが、70〜74歳が2割に引き上げられたのは2014年度からだ。これ以上割合が増える事は無いと思っていただけに、もし3割になったらと考えると胃が痛くなる。

 「孫の事を思えば、年寄りも負担が必要という理屈は分かります。でも、物価高の中で年金の価値は下がっているのに、医療費が1・5倍になるなら相当苦しくなる」

 厚労省は75歳以上が加入する後期高齢者医療制度の保険料について、26〜27年度は全国平均で加入者1人当たり月額7989円と見込んでいる。新設された「子ども・子育て支援金」分の194円も上乗せされており、24〜25年度実績に比べると578円(7・8%)増だ。「生活苦」を訴える高齢者の声も踏まえつつ、現役の保険料負担を抑える策として厚労省が示したのが、3割負担となる年齢区分を引き上げたり、所得基準を広げて2〜3割負担の対象者を増やしたりする案だった。

3割負担の対象者増は現役世代の負担増に直結

但し、75歳以上の「現役並み所得」の所得基準を広げて対象者を増やす案には難点が有る。後期高齢者医療の窓口負担を除く費用の分担は公費が全体の約5割を占め、現役世代からの支援金が約4割、高齢者の保険料が約1割となっている。それが3割負担の医療費に関しては公費投入が無く、高齢者本人の窓口負担分を除く全額を現役世代からの支援金で賄っている。3割負担の対象者を増やすだけなら、現役世代の一層の負担増に直結する。この為、健保連は75歳以上の3割負担の対象者拡大に併せて公費の導入を提言している。と言っても、実現には約5200億円の新規財源が必要という。調達は極めて困難なのが実情だ。

 現役の賃金が上昇基調に在る中、「現役並み所得」の基準を広げる事へのハードルも低くない。単身者の今の所得基準「年収383万円以上」を更に下げた時、果たして「現役並み」と呼べるのか、との疑問が指摘され兼ねないからだ。

 今後の見通しについて、厚労省関係者は「『一律3割』は論外」としつつ、「原則として70〜74歳を3割、75歳以上を2割とする案は有力かも知れない」と漏らす。前例に倣い、新制度が始まる前に70歳に到達している人は現状の負担割合を維持するという。

 維新が「一律原則3割」を主張するのは、自己負担が軽過ぎると不必要な受診も増え、医療費を押し上げる、と考えるからだ。財務省も同調している。これに対し、厚労省や自民党厚労族は「高過ぎる自己負担は受診抑制に繋がり、重症化を招き兼ねない」と反論している。

 70〜74歳の負担割合が1割から2割にアップした際の変化として、「医療費抑制効果は認められる一方で健康への悪影響は確認出来ない」との複数の研究結果が示されている。しかし、中長期の影響は未だ分からない。厚労省幹部は「負担増となる人の対象を広げたり、経過措置を設けたりする際は、長い目で見た時の影響も踏まえて慎重にやる必要が有る」と話す。

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