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第158回 浜六郎の臨床副作用ノート ◉ レカネマブは効果の証拠なし

第158回 浜六郎の臨床副作用ノート ◉ レカネマブは効果の証拠なし

高齢化による認知症患者の増加を予想し薬剤の開発が激しい。アデュカヌマブに続き、レカネマブが米国で2023年1月に緊急承認された。23年1月に第3相試験結果がNEJMで公表されたので、第3相の結果での承認と勘違いする向きがあるが、アデュカヌマブと同様に、PETで検出された脳内アミロイドβ(Aβ)の減少を代理エンドポイントとして仮承認されたにすぎない。EUでは、アデュカヌマブは承認されず、製薬企業は申請を取り下げた。薬のチェックでは107号1)で詳細に検討したので、概略を紹介する。

アミロイドβを減らす治療は失敗の連続

アルツハイマー病の原因としてAβが提唱され、これの蓄積を少なくすればアルツハイマー病が防止できるのではないかとの発想で、Aβを減らすための物質が20種類以上試みられたが、成功したものはない。これは、Aβが認知能に必須のニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)などに結合する神経伝達物質であり、酸化ストレスや感染で血液-脳関門でのAβ排除が低下して脳内に蓄積しnAChRが減少したことが基本にあり、受容体を増やすことは容易でないためと考えられる。

異物排除の過程で炎症反応は必至

レカネマブはAβのモノクローナル抗体で可溶性および不溶性Aβを減少させるとされている。レカネマブがAβに結合して免疫複合体を形成し、それが異物と認識され、免疫機構によって排除される過程で強い炎症を起こすと考えられる。アミロイド関連画像異常(ARIA)としてMRIで認められる浮腫(ARIA-E)やヘモジデリン沈着など出血の兆候(ARIA-H)は、こうして生じた炎症反応とその結果をとらえたものと認識できるので、害反応は必至である。

遮蔽不全・脱落でアウトカム評価にバイアス

第3相試験では、PET検査上Aβが減少し、認知症評価スケールでも対照群に比較して有意に良い結果であったとされている。

しかし、即時型の有害事象としてinfusion reaction(輸注反応)がレカネマブ群の26%(プラセボ群7%)に生じ、ARIA-Eが13%(同2%)、ARIA-Hが14%(同8%)に生じている。このため害反応の起こり方で割付がわかってしまう。

さらに、プロトコールに詳細の記載はないが、主アウトカムである認知症評価スケール(CDR-SBスコア)は、有害事象によって脱落した対象者は含まれない。除去すべきAβが多い人には当然ながら大量のレカネマブ-抗体複合体に対して強い炎症反応を起こしARIAのため試験から脱落しうる。

このようにして、有害事象のために試験から脱落した人のデータが3種類あり、オッズが1.81(p=0.027)、1.87(p=0.0083)、2.48(p=0.00008)であった。どれが本当の脱落かもわからない。試験中断に至った有害事象がプラセボ群2.9%に対しレカネマブ群は6.9%、リスク差は4.0%(NNTH=25)。実に25人に1人は有害事象が強く試験が続行できなかった。

バイアスを修正すれば差はなくなる?

また、レカネマブ群はプラセボ群よりも、主アウトカムで優れたと報告されているが、ベースラインからの差が27%減少であった。到達点数で比較すると8%の差でしかない。脱落した人も検査して比較すると有意の差はなくなる可能性が大である。しかも、認知症の治療で最も重要な指標である「介護の軽減」や「施設入所」などの割合を主アウトカムとして実施されていない。したがって、レカネマブの効果は証明されているとは言えず、害だけは大きい。

参考文献

1) 薬のチェック2023:23 (107):56-59.

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