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第163回 経営に活かす 法律の知恵袋 ◉「デジ田」の一環としての継続的出産ケア条例を提言

第163回 経営に活かす 法律の知恵袋 ◉「デジ田」の一環としての継続的出産ケア条例を提言
デジタル田園都市国家構想(デジ田)  

 2022年12月23日、「デジタル田園都市国家構想総合戦略」が閣議決定された。略称は、「デジ田(デジデン)」というらしい。もともとは「地方創生」であり、その後の「まち・ひと・しごと創生」へと続き、さらに昨年末にバージョンアップされて、様々な分野が取り込まれた。特に着目したいのが、「結婚・出産・子育ての希望をかなえる」という分野である。「年々深刻さを増す人口減少・少子化」に注目して、「結婚・出産・子育てへの支援」(同総合戦略14〜15頁)に努めるため、「市区町村における『こども家庭センター』の設置を推進し、全ての妊産婦・子育て世帯・子供に対する包括的な相談支援を行」い、「産科医の地域偏在等に起因する地方の周産期医療の体制不足を補完し、安全・安心に妊娠・出産ができ、妊産婦本人の居住地にかかわらず適切な医療や保健サービスが受けられる環境を全国で実現するため、……都道府県及び市町村が実施する分娩を取り扱う医療機関へのアクセスの確保等を通じて、関係者が連携して妊産婦の希望に寄り添って継続的な支援を行う体制の整備を図る」(同15頁、同114頁も同様)ことを目指す。また、助産所や助産師を想定しつつ、「地域における分娩を扱う施設の確保、地域における助産師の活用に関して、地域医療介護総合確保基金等を通じて支援する。助産師について、助産師の就業場所の偏在を是正する施策や正常妊娠・正常分娩における助産師の活用を推進する」ことも明示している(同114頁)。

妊娠・出産・産後を通じた継続ケア

 「産みたくない人」には「産まない権利」があるのと同様に、「また産みたい人」には「また産む権利」があると言ってよい。そして、「また産みたい人」(次子の出産意欲がある妊産婦)がまた産むこと(多子化)によって、少子化の幾ばくかの改善に繋がるとも言い得よう。この点を出産ケア政策会議・共同代表の古宇田千恵氏は、丹波新聞の「知ってる?『My助産師』(2) お産は本来『気持ちいい』 妊婦支える“伴走者”」という記事(20年2月16日付)で、「お産や子育ては本来、『気持ちのいい』もの。そうでなければ、人類は繁栄しない。なのに、バーストラウマなど、さまざまな要因で『気持ちよくない』ものになることが多い」とし、「私たちはお母さんに『産むって楽しい』と思ってもらいたい。そして、『また産みたい』と思えれば、少子化の改善にもつながるはず」と呼びかけている。確かに「気持ちのいい」お産であれば、「産むって楽しい」と感じられるであろうし、「次子の出産意欲」にも繋がるであろう。ただ、そのような効果をもたらすには、何人もの医師・助産師・看護師らがローテーションで対応していたのでは必ずしも十分ではなく、1人の助産師による妊娠・出産・産後を一貫させた継続ケアの方が有効適切と考えられる。病院、診療所、助産所、自宅(出張)での分娩といった場所は問わず、重要なのは1人の助産師の継続性と言ってよい。この点を押さえた上で、さらに、各地域への分散型の助産所開設(増設)を推し進めるならば、デジタル田園都市国家構想にも沿うものとなっていくであろう。

「デジ田」の一環としての条例制定の提言

 以上のことに関連した法律としては、すでに、まち・ひと・しごと創生法、こども基本法、成育基本法などが制定された。そこで、「妊産婦への支援」を「デジ田」の一環として、さらに具体的に推進していくためには、各都道府県で「継続的な出産ケア等推進条例」を制定していくことが適切であろう。

 筆者の条例私案を以下に抜粋する(なお、「道」「道民」は「県」「県民」などに代えれば、各都道府県でそのまま使える)。

デジタル田園都市国家構想の一環として助産所を増設して妊産婦に対する継続的な出産ケア等の提供をし活性化した地域作りを推進する北海道条例

第1章 総則

第1条(目的) 「この条例は、道における急速な少子化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、都市部への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある道を維持していくためには、道民一人一人が夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営むことができる地域コミュニティーの形成が重要となっていることに鑑み、その一の方途として助産所を増設すること及び妊産婦の選定した同一の助産師に妊娠・出産・産後のケアを継続的に提供させること(以下「出産ケア等」という。)を充実させることについて、デジタル田園都市国家構想の一環として位置付け、基本理念、道等の責務、道が講ずべき施策を総合的かつ計画的に実施するための計画(以下「出産ケア等総合戦略」という。)の作成等について定めるとともに、出産ケア等本部を設置することにより、妊産婦に対し必要な出産ケア等を切れ目なく提供するための施策を総合的に推進することを目的とする。」

第2条(基本理念) 「継続的な出産ケア等は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない。

1 道民が個性豊かで魅力ある地域社会において潤いのある豊かな生活を営むことができるよう、それぞれの地域の実情に応じて、助産所増設及び妊産婦の選定した同一の助産師による妊娠・出産・産後のケアの継続的な提供等の出産ケア等の環境の整備を図ること。

2 妊娠や出産は個人の決定に基づくものであることを基本としつつ、妊娠、出産又は産後についての幸福感を持つことができる地域社会が形成されるよう環境の整備を図ること。

3 出産ケア等の提供に関する施策は、道における急速な少子化の進展、出産ケア等を取り巻く環境の変化等に即応するとともに、需要に適確に対応した出産ケア等が切れ目なく提供されるよう、当該施策相互間の連携及びこれと関連する施策との連携を図りつつ、総合的に推進されること。」(以下、略)

第3条(道の責務) 「道は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、出産ケア等に関する施策を総合的かつ計画的に策定し、及び実施する責務を有する。」(以下、略)

第4条(市区町村の責務) (略)

第5条(医療関係者等の責務) 「医師、歯科医師、薬剤師、保健師、助産師、看護師その他の医療関係者は、道及び市区町村が講ずる出産ケア等の提供に関する施策に協力し、妊産婦の健康の保持及び増進に寄与するよう努めるとともに、出産ケア等を必要とする者の置かれている状況を深く認識し、良質かつ適切な出産ケア等を提供するよう努めなければならない。

2 産婦人科医師及び小児科医師並びにこれ らの者が従事する医療機関は、道及び市区町村並びに助産所が講ずる出産ケア等の提供に関する施策に協力し、特に助産所の嘱託の委嘱を受けるなどして妊産婦の健康の保持及び増進に寄与するよう努めなければならない。」

第6条(関係者相互の連携及び協力) 「道、市区町村及び医療関係者等は、基本理念の実現を図るため、相互に連携を図りながら協力するよう努めなければならない。」

第7条(道民の努力) 「道民は、出産ケア等についての関心と理解を深めるとともに、道・市区町村・助産所及び医療関係者等が実施する出産ケア等に関する施策に協力するよう努めるものとする。」

第8条(法制上の措置等) (略)
第2章 出産ケア等総合戦略 (略)
第3章 市区町村出産ケア等総合戦略 (略)
第4章 出産ケア等本部 (略)
附則 (略)

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