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「新専門医制度の課題」が改めて浮き彫りに

「新専門医制度の課題」が改めて浮き彫りに
専門医機構副理事長と批判派論客がシンポで主張を披露

医療界から批判を浴びてきた新専門医制度。1年の開始延期を経て、2018年4月から新制度による専門研修が始まったが、医療界の中からは新専門医制度と日本専門医機構に対する問題点が未だ指摘されている。

 そのような中、日本専門医機構の前監事で18年7月に副理事長に就いた今村聡・日本医師会副会長と、新専門医制度や日本専門医機構に批判的な遠藤希之・仙台厚生病院医学教育支援室室長と坂根みち子・坂根Mクリニック院長が登壇した珍しいシンポジウムが開かれた。医療ガバナンス学会が事務局を務め、18年11月25日に都内で開かれた「現場からの医療改革推進協議会」の第13回シンポジウムの中で行われた新専門医制度をテーマにした講演だった。

 最初に今村氏が「新専門医制度の現状と課題」を演題に登壇した。まず、新専門医制度のこれまでの経緯を振り返り、一般社団法人の日本専門医機構が地域医療に対して責任を持った仕組みを作れるのかという問題点があったと述べた。

 18年に新専門医制度や新役員体制がスタートしたが、「課題が完全に解消されていない中で、走りながら考えているのが現状だ」と話した。特に妊娠・出産・育児、介護の事情を抱えたり、地域枠で入ったりした医師などには、基本のプログラム制だけでなくカリキュラム制も可能であることをきちんと情報発信できていなかったと改めて感じたという。

 18年度の専門研修では、専攻医の都市部集中を回避するため、5都府県(東京都、大阪府、神奈川県、愛知県、福岡県)にシーリング(専攻医採用数の上限)が掛けられたが、19年度では東京だけ14の基本領域が前年度の約5%減で、他の4府県は前年度と同じだった。東京集中に対する批判がある中で、「5%がギリギリの調整だった」と話した。

広告・更新・サブスペ要件・広報が課題

 専攻医募集の開始時期が18年9月から10月に遅れたことには、医師法・医療法改正により厚労相が都道府県の意見を踏まえた上で、日本専門医機構に意見・要請できるようになった点を一因に挙げた。ただ、厚労相の意見・要請は医療提供体制の確保や専門医研修を受ける機会の確保などの観点に限られると説明。専門医の質に関わるものではないという。

 厚労相からは18年度の意見・要請が16項目あった。日本専門医機構はその回答を基に、専攻医募集スケジュールの早期公表、毎年5月末までに各研修プログラム情報の提供、事務局体制の強化などに取り組む他、①専門医の広告に関する課題(大臣告示の改正)②更新の課題(学会専門医から機構専門医への移行)③サブスペシャルティの認定要件の決定④広報活動(専門医制度の国民への周知)にも取り組んでいくと表明した。その上で、様々な批判・指摘に対しては、真摯にこれを受け止め前向きに努力していくと結んだ。

 続いて、「日本専門医機構と『新』専門医制度がもたらした災厄」をテーマに、遠藤希之・仙台厚生病院医学教育支援室室長が登壇。まず、新専門医制度の地域医療への影響について述べた。岩手県の一関市と平泉町(両市町で両磐医療圏)と奥州市、隣接する宮城県北部に計約35万人が住んでいる。奥州市の岩手県立胆沢病院では産婦人科が閉鎖され、小児科は常勤医が1人。一関市の岩手県立磐井病院がこの35万人のエリアで唯一、産婦人科の入院ができ、小児科ICU施設を持つ病院だという。

「地域医療の崩壊が始まっている」

 遠藤氏は「このエリアの医療人は新専門医制度に期待していた。しかし、18年度の岩手県の産婦人科専攻医は1人、小児科専攻医も1人。これでは循環型研修(大学病院などの基幹施設と連携病院をローテーションする研修)など期待できるわけがない。これが地方の実態だ」と憤る。

 18年度の専門研修に関しては▽小児科=人以下は11県▽産婦人科=3人以下は12県▽内科=20人以下が13県▽外科=6人以下が18県▽四国全体で外科医は15人——である点を指摘、「地域医療の崩壊が始まっている」と訴えた。

 また、日本専門医機構の事務局体制についても言及。「機構から流出した内部資料によると、機構には山ほどの問い合わせや意見が来ている。ところが大部分は、いい加減な回答、もしくは無視」と指摘。47都道府県の医療整備局、基本18領域学会、各学会に属する基幹施設や連携施設、指導医や専攻医などからの多数の問い合わせに対し、事務局の常勤職員は10人以下で、対応できないのは当然と言えば当然と述べた。

  さらに、混乱が起きている例として、都内の大学医局に内定したが、他県への変更を余儀なくされたりした専攻医の事例なども紹介した。これらの「解決の第一歩」として、遠藤氏は「機構は即刻解散。基幹施設のプログラム制を全面的に見直し、循環型研修は廃止」と締めくくった。

 最後に坂根みち子・坂根Mクリニック院長が「専門医制度を止めるべき13の理由」をテーマに登壇した。まず、新専門医制度でカリキュラム制から原則プログラム制に変わった点を問題視。カリキュラム制は何年かかってもカリキュラム基準を充足した時点で専門医試験の受験が可能だったが、プログラム制では年次ごとに定められた一定のプログラムに沿って履修することが求められる。坂根氏は医師をパートナーに持ち、3人の子育てをしながら、循環器専門医を16年かけて取得した経験を踏まえ、働き方改革を伴わないプログラム制では子育てしながらの専門医研修が難しいと述べた。

 これまで可能であった単独施設研修から循環型研修になったことも、子育てをしながらの研修を難しくしたと指摘。未婚率は女性医師が35・9%、男性医師が2・8%というデータ(12年総務省「就業構造基本調査」)を示し、「女性医師は結婚しないで働き続けるか、子供を持った場合、キャリアを諦めるか二者択一になりがち」と述べた。また、米国では90%以上が単独研修施設での研修なのに対し、日本の場合、大学病院が中心であることから「良質な民間の研修病院を潰した」と批判した。

 13年の厚労省「専門医の在り方に関する検討会」報告書には、専門医の質を高めることが新専門医制度の目的に書かれているが、「日本専門医機構には質を担保する能力がなく、学会が提出した資料を追認しているにすぎない」と述べた。また、厚労省が18年に出した資料に「医師の偏在是正」が目的に追加されたことに対して、「さらに融通が利かない制度になり、専門医の奪い合いが始まった。若い人達をがんじがらめにしている」と指摘した。

 日本専門医機構の事務局体制については脆弱性を指摘。役員25人のうち、女性は1人であることから、「決められたスケジュールで各地を転々とし、子育てをしながらキャリアを積むことに、リアリティーを持って対処できるのか」と疑問を呈した。最後に、脚気やハンセン病の歴史を振り返り、エスタブリッシュメントに現場の声が潰されれば、新専門医制度も「同じ轍を踏む」と述べた。

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