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未来の会

第97回 シャイアー買収問う株主総会で曖昧答弁に終始

第97回 シャイアー買収問う株主総会で曖昧答弁に終始
虚妄の巨城
武田薬品工業の品行

 6月28日、大阪市内の大阪府立体育会館で、武田薬品の定時株主総会が開催された。上場企業(3月期決算)の31%に相当する約730社の株主総会開催日となったこの日、やはり一番の注目は武田であったのは疑いない。

 アイルランドの製薬大手・シャイアーの約7兆円という、日本企業による過去最大の買収について今春から懐疑的な報道が集中した上に、武田のOBや株主ら約130人からなる「武田薬品の将来を考える会」のメンバーが、総会当日に買収について異議を申し立てることが明らかだったからだ。

 「考える会」は開催前に、「今後1兆円を超える企業買収にあたっては、買収目的や資金調達の方法を説明し、株主総会で事前に決議する」という点を義務づけ、取締役会の買収権限にある程度の歯止めをかける株主提案を行なっていた。これが、どの程度、株主の賛同を集めることができるかについても関心の的となった。

 武田は、シャイアーを買収するために今後、時価総額を上回る新株の発行が必要となるが、半年後に予定されている臨時株主総会で、それについての特別決議を3分の2以上で賛成を得ねばならない。その場が買収の是非を問う最大の場となるが、今回の誰が見ても危うい買収劇を仕掛けた武田社長のクリストフ・ウェバーにとっては、定時株主総会で何としてでも圧倒的支持を得ておきたいところだった。

次の株主総会は無難には乗り切れない

 武田の株主構成は18年3月末時点で国内外の機関投資家が66%を占めており、基本的に10%程度の武田薬品創業家が有する株のうちの何割かにすぎない「考える会」は、力関係で最初から勝負にならない。その発言が定時株主総会の席上、熱い拍手を集めた場面もあったが、結果的に今回の定時株主総会でその株主提案はさほどの議論もないまま否決された。だが賛成が約10%あったとされ、評価は難しいが、必ずしもウェバーの思惑通りに、次の臨時株主総会を困難なく乗り切れるという展望ではなくなっているのは確かだろう。

 何よりも一般株主ならずとも、定時株主総会でのウェバーの答弁には具体性がなさ過ぎたと思われても仕方がない内容だった。「武田の展望や変革に自信がある。シャイアー買収でより強い企業になる」などと胸を張られても、約7兆円という巨額買収に伴うリスク回避のための何らかの具体策がなければ意味をなさない。

 挙げ句の果てに、「『武田イズム』という強い価値観、伝統に基づき進めていく」などとウェバーは口にしたが、これではもう、「日本的」な精神論ではないか。国際舞台で生きるか死ぬかの熾烈な巨額企業買収に手を出しておいて、今さら「イズム」も「伝統」もあるまい。そんな程度で乗り切れるのなら、現相談役の長谷川閑史が、大枚をはたいてグラクソ・スミスクラインからウェバーをわざわざ引き抜く必要もなかっただろう。

 既に、シャイアーの買収発表前に6000円台だった武田の株価は低迷を始め、定時株主総会終了後に4500円台にまで下落した。時価総額が業界2位のアステラス製薬を下回る日もあるほどで、反転材料の乏しさを市場に読み切られているはずだ。

 当然だろう。何しろ武田は今後、シャイアーの買収費を銀行からの協調つなぎ融資で調達する3・3兆円に加え、さらに繰り返すように現在の発行株数にほぼ匹敵する新株の発行で賄うというが、6兆円を超す有利子負債に加え、買収後の無形資産とのれんの合計額は、実に11兆円にまで膨張すると予測されている。

経営側にない悲観論覆す有力な反論

 その結果、のれんの減損損失で経営危機に陥った東芝の姿が、武田と二重写しになりつつある。前述の「考える会」は、海外企業の買収自体に反対しているのではない。シャイアー買収に伴う巨大なリスク発生への対処について武田経営陣の説明が抽象的で、曖昧な点を問題にしている。今後も臨時株主総会前の半年間、シャイアー買収の可否を巡る論議は続くだろうが、決してためにする論議とはならないはずだ。

 それどころか、「考える会」の指摘は傾聴に値する。その主張はホームページで読めるが、定時株主総会におけるウェバーの説明よりも根拠のない楽観主義を排したリアリズムに富み、はるかに説得力に満ちている。

 「シャイアーは3年前(2015年)までは売上高7000億円程度の中堅企業でしたが、過去2年間にバクスターの血液事業子会社バクスアルタや希少病の家族性血管浮腫(HAE)で成功したバイオベンチャーなどを買収して、売上高を1兆7000億円へと2・4倍にしました。その結果、原価率が急上昇して粗利率が低下、さらに急増した無形固定資産の償却費によって営業利益率は大幅に低下しています。合併シナジー(おもにコスト削減)が期待通りに実現せず、利益率の回復に時間がかかっている状況です。そこへロシュ(中外製薬)が開発した二重特異性抗体の血友病治療薬が承認され、主力とする血友病治療薬の売上が大幅に減少する見通しとなりました」

 「武田薬品の昨年12月末時点の借入金は1・1兆円でしたが統合後は6兆円を上回ります。合併会社の売上高2年分に相当する借入れとなり、返済不能となるリスクが大きくなりますが返済計画については未だに説明がありません」(ホームページより一部抜粋)

 その結果、「考える会」は統合後の新会社について「毎年3500億円の追加負担」が発生し、「純利益はほぼゼロ(20億円程度)」まで落ち込む見通しです」と予測している。寡聞にして、こうした悲観論を覆す武田側の有力な反論を知らない。

 しかもウェバーは今になって突然、「買収を繰り返して拡大してきたシャイアーは研究開発に力を入れて来なかったことから統合にあたっては摩擦を伴う重複の解消は必要ない」(6月13日付ブルームバーグ配信記事)などと言い出している。だが、「考える会」も批判しているが、今回の巨大買収が必要な理由として、シャイアーが希少病や遺伝子治療などの「研究開発型」に秀でているからと説明してきたのは、ウェバー自身ではないのか。我々は今後、長谷川閑史が進めてきた「グローバル経営」の究極の惨状を目撃することになるのだろうか。           (敬称略)

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