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第121回 ピロリ除菌で食道癌と脳卒中増

第121回 ピロリ除菌で食道癌と脳卒中増

 ヘリコバクター・ピロリ(略してH.ピロリ)は、胃潰瘍・十二指腸潰瘍や胃がんとの関係が指摘され、H.ピロリの保菌者を対象に抗生物質とプロトンポンプ阻害剤(PPI)を組み合わせた除菌療法が盛んになってきている。2013年に、H.ピロリ感染胃炎への除菌療法が健康保険の適用となったことが、この傾向に拍車をかけている。さらには、中学生の集団検査と、陽性者への除菌が行政単位で進められるようになるほどの過熱ぶりだが、根拠はあるのか。長期効果と安全性はどうなのか。薬のチェックでは、87号(2020年1月号)1)で詳しく取り上げた。その概略を紹介する。

小児関連学会は「行わない」

 ピロリ除菌のガイドラインは2種類ある。一つは日本ヘリコバクター学会が2016年に発表した中学生以上の青少年と成人向けのガイドライン(成人GLと略)、もう一つは日本小児栄養消化器肝臓学会による小児向けのガイドライン(2018年、小児GLと略)である。

 成人GLでは、「胃がん予防の中でも核となりうる施策であり,H. pylori感染の根絶が可能」と位置づけ「中学生は義務教育であるため…高い受診率を期待できるので」、検査して「感染が確診された場合は…できるだけ早期の除菌治療が望ましい」と推奨している。

 一方、小児GLでは、海外のGLを参考に、無症状の小児を検査して陽性ならピロリ除菌をする“test and treat”は「行わないことを提案する」としている(下線は原文のまま)。

 利益相反の記載なども小児GLのほうが明瞭であり、成人GLよりも、小児GLのほうが信頼できるガイドラインである。

H.ピロリ保菌率は10%未満に低下

 そもそも、日本人の胃がん死亡率は、急激に低下してきた。これは、以前は人口の半数以上いたH.ピロリ保菌者が除菌療法とは無関係に、10%未満に低下してきたからである。

除菌で食道がんと脳卒中が増える

 無症状のH.ピロリ陽性者を対象に除菌し、4年以上追跡したプラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)6件をメタ解析したコクラン・レビューでは、胃がん発生を有意に約3分の2に減少したが、死亡全体を減らすことはできなかった。最大規模で最長追跡したRCTでは、統計学的に有意でないが、15年後までは、むしろ死亡率が14%増える可能性が示唆された。死因別にみると、胃がん死が減った分(24→17)、食道がん死が増加し(7→12)、その上、脳卒中死が13人増え(18→31、p=0.06)、総死亡は15人増えた(142→157)。なお、対象者数はプラセボ群1128人、除菌群1130人であった。

 脳卒中の増加はPPI単独使用したRCTや疫学調査でも報告されている。抗生物質とPPIのために腸内の細菌叢が変化し、他の感染症や自己免疫疾患、喘息を起こしやすくなり、脳卒中死亡など、他の病気にかかることがかえって多くなる。

実地診療では

 H.ピロリ除菌は胃がんを減らすが、食道がんや脳卒中を増やし、寿命を短縮させる可能性があるため、無症状の人の除菌は行わないこと。まして、中学生など小児には危険であり中止すべきである。


参考文献
1) 薬のチェック編集委員会、ピロリ除菌は寿命短縮の可能性あり、薬のチェック2020:20(87):8-11

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