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未来の会

「不足はない」インフルワクチンでまたも厚労省不手際

「不足はない」インフルワクチンでまたも厚労省不手際
ン供給体制を抜本直す

番必要な時期にワクチンがない。それは、ワクチン行政の不手際ではないのか。

 今冬も多くの需要が見込まれたインフルエンザワクチンが、全国の医療機関で不足する事態に陥った。

 「これまでもMR(麻疹、風疹)や日本脳炎、四種混合など、一時的にワクチンの入荷が厳しくなることはあった。でも今回はひどい」と都内の小児科医は顔を曇らせる。

 というのも、小児の定期接種であれば、多少時期をずらして打っても効果は変わらない。しかし、インフルエンザのように季節性のものは、シーズンが終わったら需要はない。

 「必要な時に在庫がないのは致命的。インフルワクチンは重症化を防ぐもので、接種してもかかることはあるとはいえ、一定の効果が認められているワクチンの接種時期をみすみす逃すとは……」と都内の別の開業医も憤る。

ワクチン不足は夏には分かっていた

 厚生労働省の担当記者によると、ワクチンが不足することは、夏には分かっていたという。今回、ワクチンが不足する原因となったのは、ワクチン製造に使う「ワクチン株」の選定が遅れたことにある。

 そもそも、インフルワクチンはその他のワクチンに比べて少し特殊だ。一般的なワクチンは、毎年同じものを作るのが基本。しかし、インフルは毎年、流行するウイルスのタイプが違う。A型、B型といった大きなタイプだけでなく、例えば同じA型であっても、「A香港型」と呼ばれるH3N2、2009年に新型インフルとして流行したH1N1など、様々なタイプがあるのだ。そのため、ワクチンはその年に流行しそうなタイプを予測し、ワクチン株(ウイルス)を選定。ワクチンメーカーに製造を依頼する。

 この作業は例年、春頃には行われ、メーカーはワクチン製造の工程に取りかかる。A型2種、B型2種の計4種類のウイルスを、大量の卵を使って増やすのである。このワクチン製造作業には一定の時間がかかる。ところが、今冬のワクチンは選定したH2N2亜型のワクチン株が思ったように増えなかった。

 そこで、厚労省は実績ある、昨年と同じH3N2の別の亜型に変更したが、既に製造過程に入ってしまっていため、スケジュールに遅れが生じ、結果的にワクチンの完成が後ろにずれ込むことになったのだ。それだけでなく、一部の卵は無駄になってしまったため、ワクチン全体の製造量も当初の見込みより減ることになったのだ。

 厚労省の資料によると、今冬のインフルワクチンの製造量は約2528万本(前年比256万本減)の見込み。昨シーズンの使用量は2642万本で、これを下回っている。インフルの予防接種を受ける人は増加傾向で、昨年の使用量を下回るとあっては医療現場では相当な不足感が出ることは予想出来た。

 こうした現状に、厚労省も無策だったわけではない。まずはワクチンの製造から出荷までに行う検定を縮小し、なるべく早く出荷出来るようにした。さらに、「厚労省は自治体や医師会などに向けて、13歳以上の人は、医師が必要としない限り1回接種を原則とすることや、医療機関は必要以上に早めに、また大量に入荷しないように呼び掛けた」(厚労省担当記者)という。インフルワクチンは、13歳未満の子供は2回接種されることになっており、13歳以上であっても2回接種されることがある。これを出来る限り控え、全体の「使用量」を抑える作戦に出たのだ。

医療機関を脅し、開き直る厚労省

 医療機関のワクチン独り占めを防ぐための対策にも言及した。通知の中には、「厚生労働省は、接種シーズン終盤に返品した医療機関等の名称について情報収集を行い公表することもある」とかなり厳しい書きぶりも出てくる。担当記者によると、「厚労省がこうした強権的な書きぶりの通知を出すのは初めてではない」というが、脅しとも取れるような文面は相当なインパクトがある。

 厚労省のホームページによると、「日本ではインフルエンザは例年月12〜4月頃に流行し、例年1月末〜3月上旬に流行のピークを迎えますので、12月中旬までにワクチン接種を終えることが望ましい」という。医師によると、予防接種を受けてから抗体が出来るまでは2〜3週間必要とされるため、「本来ならば11月中には受けておきたい」ところだ。

 しかし、今年はワクチン全体の供給量が少ない上に、供給時期が遅い。本来ならば憂慮すべき事態なのに、厚労省のホームページは堂々とこんな記述をしているのだ。

 「今年度については、昨年度以前と比較してH3N2亜型株の製造開始が例年よりも遅れたことから、12月中旬以降にも、新たにインフルエンザワクチンが供給される可能性があります。仮に12月中旬までに接種をできなかった場合であっても、引き続き接種の機会があると考えられます」

 この記述を見た都内の内科医は、「予約の電話を受けても断らざるを得ないし、いつ入荷されるかも分からないから、約束出来ない。現場は本当に困っているのに、厚労省は反省がない」と憤る。子供に受けさせようと医療機関に予約を入れたがなかなか受けてもらえず、「5カ所目でようやく予約出来た」と語る母親もいる。感染症に詳しい医師は、「シーズンの間にもインフルウイルスはどんどん変異を繰り返し、シーズン当初と終わりでかなり変わっている。シーズン終盤でもワクチンの効果がないわけではないが、出来れば流行入りより前に受けてほしい」と解説する。

 関係者が固唾を呑んで見守る中、今シーズンのインフルの流行が始まったことが12月1日に発表された。地方によってはもっと早くから流行入りしている地域もあり、やはりワクチンの安定的な供給は流行入りには間に合わなかった。

 関係者によると、厚労省は「ワクチンが不足している」などとホームページに記載した医療機関に直接連絡を取るなどして情報収集を進めていたという。しかし、「一時的に不足していても、その後解消されている」との認識で、「不足が大きな問題になったという意識はないようだ」(担当記者)。

 インフルワクチンを巡っては、新型インフルの流行に備えて出荷までに早くても約半年かかる鶏卵培養法から、動物の細胞を使って効率的にウイルスを増やす「細胞培養法」でのワクチンの製造計画が進められている。海外メーカーでは既に導入しているところもあり、国内でも厚労省が資金を付けるなどしてメーカーに開発を促してきた。しかし、現状では細胞培養法のワクチンで厚労省の承認を受けたメーカーはまだない。

 毎年ワクチン株が変わって手間がかかる上、1年のうちわずか3カ月程度しか需要がないワクチンに大量の在庫を抱えたくないメーカーの事情は分かる。しかし、インフル以外のワクチンでも在庫不足問題は毎年のように起きている。いい加減、厚労省はワクチン供給体制を抜本的に考え直す必要があるのではないか。

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