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医師偏在対策の核心は「管理医療」の導入

医師偏在対策の核心は「管理医療」の導入
地方の医師不足解消を総選の目の一

 「域偏在の解決というのは、入り口にすぎない。政府の本音は管理医療の導入だ。いよいよ本格的に動き始めたということだろう」

 地方医師会の関係者が厳しい顔つきで語った。

 厚生労働省は6月に策定した中間まとめに沿って、年末までに「強力な医師偏在対策」の結論を出す方針である。

「専攻医研修枠」案にいらつく地方医師会
 これを受け、10月6日に行われた「医療従事者の需給に関する検討会」の分科会で、地域医療機能推進機構の尾身茂理事長が2次医療圏ごとに「専攻医研修枠」を設定するよう提案したが、これに目立った反対意見が出なかったことに、この地方医師会関係者はいらだちを示したのだ。

 尾身氏の提案は①診療科別の偏在解消策として、将来の人口予測や疾病構造の変化を織り込み、専攻医の「研修枠」を設定する②保険医登録や保険医療機関の責任者になるためには、過疎地や離島などの医師不足地域への一定期間の勤務を条件として定めようという構想である。

 別の地方医師会幹部も「この検討会には日医(日本医師会)からもメンバーが出ていたが、出席者からは目立った反対はなかったと聞く。日医執行部は、安倍晋三政権が地域偏在の名のもとに管理医療の道を切り開こうとしていることをどこまで理解しているのだろうか」と懸念を募らせる。

 また、「上の指示でへき地に行かされるような仕組みができてしまえば、どんどん拡大解釈されていくだろう。将来的に、政府の意向に従わない医師は開業できないということになるのではないか」と不安を口↖にした。

 一方、厚労官僚OBは「医師が勤務地や診療科を自由に選択できるという現行のルールの下では、医師の偏在はいつまでも解消はしない」と言い切る。

 「これを解消しようとすると、日医の強い抵抗に遭うという歴史の繰り返しであった。だが、地方の人口減少が本格的になってきた以上、医師たちの自主性を尊重した対策を続けるわけにはいかない。一定の規制を含めた対策を行っていくというのが、安倍政権の考えであり、今回は厚労省もかなり明確なミッションを受けて取り組んでいるようだ」と見立てた。

 自民党も外堀を埋め始めている。厚労省内の検討会と並行する形で、議員の勉強会組織を立ち上げたのだ。9月の初会合では出席議員から大学医局の医師派遣機能の再強化を求める声が相次いだ。

 永田町関係者が議員勉強会の設立の経緯について解説した。「解散風が吹き始め、配偶者控除の見直し議論が早々と先送りされたことでも分かるように、年末にかけて国民の負担増となるような改革はできなくなったということだ。それは、医療改革や介護保険改革も例外ではない。高齢者の懐が痛むような政策は、全て先送りか縮小だろう。とはいえ、医療改革で目玉を作らなければならない。そこで、地域の医師不足対策に強く踏み込むことになったのだろう」というのだ。

 さらに続けた。「『医師偏在を解決した』といえば、過疎地を選挙区に抱える地方選出の代議士ほど衆院選で実績としてアピールしやすい。こうした議員心理を利用して、日医の抵抗の強かった管理医療への壁を一挙に突破しようというのだろう。医師の勤務地や診療科を政府がコントロールする管理医療の導入は、医療費抑制策として厚労省だけでなく、財務省も大きな関心を寄せている」との指摘だ。

偏在問題を養成数問題にすり替える策
 これに対し、厚労族議員OBはこの問題を少し異なる観点から見つめる。「日医は管理医療の導入への警戒よりも、医師の需給見通しに関心が向いてしまっている。木を見て森を見ずの議論に陥っている印象だ」との見方を披歴した。

 「10月6日の『医療従事者の需給に関する検討会』の分科会でも、日医の委員は医師不足地域への勤務の義務付けもさることながら、医師の需給推計の手法を問題視した。将来の患者数の見通しが違えば、医師不足や医師偏在の見通しも異なる。このため、日医としてはここが攻め所と考えているとも言えなくはないが、彼らの関心は医師養成数に向いている」と続けた。

 これを引き取るように、医療政策に詳しい自民党関係者が語った。「厚労省の社会保障審議会の部会でも、病院団体が医学部定員の増員を求める中、日医だけは医学部の増員に反対姿勢を貫いた。医師が増えたのでは、自分たち開業医の取り分が減るというのが日医の本音だ。『医師は飽和状態にあり、問題は偏在していること』というのが彼らの立場なので、偏在解消を訴える尾身氏の提案には反対しづらいというのが実情だろう。日医が医師の需給推計にこだわり続ける現状を、厚労省も財務省もむしろ歓迎している」と分析した。

 一方、前出の厚労族議員OBは「現在の日医執行部は、安倍政権の医療政策に基本的には反対しないとの立場でやってきた。医師不足地域への勤務の義務付けも安倍首相と裏で手を握っていることだろう。その代わり、医学部の入学定員を増やさないでほしいと頭を下げたのではないか」と憶測する。

 「医師不足地域への勤務の義務付けといっても、すでに開業医である自分たちが赴任するわけではないからだ。それよりも、偏在対策を名目として、医学部の新設や既存医学部の定員増がどんどん進められる展開だけは是が非でも避けたいということだろう」との冷めた見方だ。

 先の永田町関係者も「日医が騒いで、医師の偏在問題が医師養成数問題にすり替えられていくのは、安倍官邸の思うつぼだ。『開業医は飽和状態であり、足りないのは勤務医』といった開業医と勤務医の立場の違いがはっきりした。それは、『日医は全ての医師を代表する団体ではない』ことを自ら宣言しているようなものだ。今後、医療政策に対する日医の発言力は低下するだろう。厚労省にすれば願ったりかなったりだ」と説明する。

 「しかも、日医が頑張って主張すればするほど『医学部の定員増よりも、自由開業制の見直し』との流れが強まる。自民党の議員勉強会でも医師養成数問題が話題に上ったが、安倍官邸がわざとこの問題が話題になるように仕向けているとすれば大したものだ。管理医療にせよ、医師養成数問題にせよ、結果として日医の弱体化に向けた大仕掛けとなる」との見立てである。

 医師の在り方が大きく変わる管理医療はこのまま定着するのか。それとも、日医が巻き返しを図るのか。当分の間、安倍官邸、厚労省、財務省、日医の駆け引きの行方が注目を集めそうだ。

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