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未来の会

国産手術支援ロボット普及への期待

国産手術支援ロボット普及への期待

シェア9割「ダビンチ」の一強体制を崩せるか 

2023年は、20年に製造・販売の承認を受けた国産初の手術支援ロボット「hinotoriTM」に続き、相次いで2社の国産ロボットが承認された。先行する「da Vinci(ダビンチ)」を追い、市場に新時代が到来しつつある。

「hinotoriTM」は、承認を受けた同年の12月には神戸大学医学部附属病院の分院である国際がん医療・研究センターに於いて初めて前立腺全摘除術に使用された。国内では、泌尿器科、消化器外科、婦人科領域を中心に導入が進められている。

「hinotoriTM」は、兵庫県神戸市に本社があり産業用ロボットメーカーとして半世紀の歴史を数える川崎重工業と、同じく神戸に本社を置く医療機器・試薬メーカーのシスメックスの合弁会社であるメディカロイド(神戸市)により開発された。シスメックスによれば、出荷台数は23年3月期末に35台で、26年3月期を最終年度とする中期経営計画では、累計300台という目標が設定されている。内訳は国内225台・海外75台で、海外展開も進み、シンガポールでの販売も始まった。

手術支援ロボットの成り立ちと各社の展開

そもそも手術支援ロボットは、1990年の湾岸戦争の頃に遠隔手術を構想する中で開発がスタートしたとされる。米国インテュイティブサージカルが「ダビンチサージカルシステム」を実用化し、2009年に日本でも承認された。

前述のメディカロイドは、13年に医療用ロボットに特化して設立され、16年に神戸医療産業都市本社移転、国内外の医師の意見や要望を反映しながら試作を繰り返し「hinotoriTM」を上市した。日本は、産業用ロボットでのシェアは世界トップで、約半数を占める。川崎重工業は産業用ロボットで世界7位にランクされ、そこで培った技術が「hinotoriTM」にも応用されている。片やシスメックスは、血液分析・血液凝固測定・尿検査等、医療機器に於ける世界のリーディングカンパニーで、医療業界に幅広いネットワークを持つ。

手術支援ロボットの開発から販売迄には、コンセプト設定、市場調査、試作、知的財産、非臨床試験、臨床試験、市販後の管理……等、多段階の専門的なプロセスが必要となる。加えて人命に関わる製品には、安全面は勿論、製造・供給の責任が課される。こうした複雑さから、日本企業は手術支援ロボットの開発に二の足を踏んでいた。先行する「ダビンチ」が、要素技術で多くの特許を有していた事も参入の障壁だった。しかし、19年に特許が期限切れを迎え、新規参入を後押しする事になった。メディカロイドは、18年に内視鏡のトップメーカーである独カールストルツと業務提携し、技術提供を受けている。19年にはソフトウェア開発会社のオプティムとも提携し、術前データと手術データの統合によるナビゲーションを組み入れた「hinotoriTM」は、承認当初は、泌尿器科領域に於ける内視鏡手術操作を支援するものだったが、その後消化器外科領域、婦人科領域に迄対象診療科が拡大されている。

一方、「ダビンチ」は、最初に承認された「S」が既に保守期限を迎えており、現在多くの施設が採用しているのは「Si」ないし「Xi」である。続く最新モデルの「SP」は、アクセスに制限の有る術野にアプローチ出来る様、アームを1本にしたシングルポート(単孔式)で設計された。複数のアームで構成するマルチポート(多孔式)でない事で切開創を最少1カ所で済ませる事が出来、管腔臓器も対象に出来る。こうした改良により、適応範囲も広がっている。「ダビンチ」の発売後、日本は米国に次いで世界第2位の手術支援ロボットの設置・稼働台数を誇るロボット手術大国となった。しかし、シェアの9割以上は依然「ダビンチ」で、なお寡占状態が続いている。

第3の手術支援ロボットの台頭

22年12月に日本で販売が開始された第3の手術支援ロボットは、アイルランドの医療機器メーカーであるメドトロニックの「HugoTM RAS System」である。特長は大きく3つで、先ず4本有るアームがそれぞれ独立している点が従来の機器と大きく異なっている。症例や患者に応じて柔軟に配置してスペースを確保し、ポート配置にも多様性を持たせる事が出来る。可動域には制限が有るが、アーム配置の自由度は高い。次に、オープンコンソールで開放型モニターを備えた点である。従来のロボットは術者が没入するタイプで、術野は術者しか見えなかったが、「HugoTM」は、術者の後方から術者と同じ映像を見る事が出来る為、教育に寄与する事が出来る。そして3点目が鉗子を把持するハンドルが指を掛けるピストル型である点で、操作は腹腔鏡手術に近い。又、従来の製品が指先だけで操作するのに対し、「HugoTM」は指と掌で操作する。更に、インスツルメントの先端の回転倍率を変更出来る機能も備わっている為、倍率を上げると、術者はより少ない手首の回転でインスツルメントの操作が可能になる。

追随が期待される国産メーカー

メディカロイドに続き有望視されている国内企業は2社有る。朝日サージカルロボティクス(旧社名A-Traction、千葉県柏市)とリバーフィールド(東京都港区)で、何れも腹腔鏡手術を基に設計を行っている。朝日サージカルロボティクスは、国立がん研究センターの認定ベンチャー企業で、15年に腹腔鏡手術ロボット開発を目的として設立され、21年に医療機器大手の朝日インテックの子会社となった。23年2月に同センターと共に開発した腹腔鏡手術支援ロボット「ANSURサージカルユニット」が、医療機器として承認された。同社の製品は、ロボットが術者にパートナーとして寄り添うというコンセプトの下に開発されている。従来の様に助手がカメラやトラクションを操作するのではなく、執刀医が1人で直感的に、鉗子・内視鏡カメラの両方を手元で操作出来る。マスターコンソールが無い為、他のロボットに比べ省スペース・低コストで、効率的に手術を進めれば手術時間が短縮され、患者の身体的負担が少なくなる可能性も有るという。

リバーフィールドは、東京工業大学と東京医科歯科大学の研究成果の実用化を目指して14年に設立され、空気圧超精密制御技術を活かした世界初の空気圧駆動型手術支援ロボットを開発しており、23年6月には手術支援ロボットシステム「Saroaサージカルシステム」の製造販売承認を取得した。「Saroa」は、鉗子に掛かる力を検出して執刀医に触覚(力覚)をフィードバック出来る為、自分の手で直接手術している様な感覚が得られ、手術の精度がより高くなると期待されている。東工大が開発の視点からコンセプト・機構・制御方法の立案と基礎検討を行い、医科歯科大は医師の視点から手術シミュレーションや安全性の評価を行った。東京医科歯科大学病院を始めとする医療機関で臨床使用を開始しており、胸部外科(心臓外科を除く)・一般消化器外科・泌尿器科・婦人科等で実績を積み、市場への速やかな導入を目指すという。

手術支援ロボット普及を握る鍵

国産の後発2社の価格は未知数だが、普及に当たっては、価格競争力も鍵となる。デファクトスタンダードの「ダビンチ」は、導入・維持共コストは高い。「hinotoriTM」はやや低めの価格設定ながら、消耗品については「ダビンチ」とほぼ変わらない。「HugoTM」は「hinotoriTM」と同等の価格だが、販売するメドトロニックは、糸や針のみならず、腹腔鏡手術用のデバイス等も扱っており、医療界では知名度と営業力が高い事が普及を促進させると見られている。この他、海外では、MedoRoboticsの「Flex® Robotic System」という消化器内視鏡ベースのロボットも実用化され、普及が期待されている。

手術支援ロボットを筆頭に、医療機器の市場は世界で高い成長率が見込まれているが、日本では長らく輸入超過の状態が続いている。経済大国とされた日本の国内総生産(GDP)は23年には3位から4位に転落した。なお下落傾向にあり、その解決策を与えるものとして、国産の手術支援ロボットには期待が掛かる。ウクライナ戦争等国際事変の中で、医療機器の確保や経済安全保障という概念にも気配りしなくてはならないが、日本の技術力が国内外に広がる事を期待したい。

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