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日本の民主主義はこのまま年老いて行くのか

日本の民主主義はこのまま年老いて行くのか

若年層の政治不信とシンクロする「もしトラ」期待

2024年通常国会の前半論戦は、新年度予算の審議より自民党の派閥裏金事件を巡る与野党の駆け引き一色の様相を呈した。事件の真相解明が進む訳もなく、渦中の派閥幹部等は知らぬ、存ぜぬの繰り返し。全ての責任を派閥の事務方と自身の秘書に押し付けて逃げ切りを図る政治家達の姿は国民の政治不信を極限まで高めて行く。日本の民主主義はこれから何処へ向かうのだろう。

 立憲民主党等の野党は国会審議で派閥幹部等の主張の矛盾を白日の下にさらし、政治抗争の面では一定の成果を挙げた。しかし、「国民を代表する政治リーダー達が自己保身の為に平気で嘘をつく」というイメージが国民の間に定着すれば、批判の矛先は与党のみならず政治全体へ向けられる。

低投票率を当て込む「4分の1政権」勝利の方程式

 埼玉大学に本社を置く調査会社「社会調査研究センター」がインターネットを通じて2月17、18日に実施した全国世論調査によると、日本の政治を「信頼している」との回答は「大いに」の2%と「ある程度」の23%を合わせて25%に留まり、「信頼していない」が「あまり」の43%と「全く」の31%と合わせて74%に上った。国民を主権者とし、国民の投票によって選ばれた議員達で構成されるのが国権の最高機関たる立法府(国会)である。国民自らが選出した代表者達が執行する政治を国民の4人に3人が信頼していないのだとしたら、民主主義国家としての正統性が揺らぎ兼ねない。

 社会調査研究センターの世論調査では、日本の政治を「全く信頼していない」「あまり信頼していない」と答えた人に「あなたの政治不信が向けられているのは」と尋ねている。その結果は「全ての政党・政治家」が54%(回答者全体の40%)、「自民党」が32%(同24%)、「野党」が2%(同1%)だった。「主権者である国民」と答えた人も4%(同3%)居た。野党がどれだけ厳しく与党の不祥事を追及しても野党への期待感は高まらない。国民の大きな期待を背に09年に誕生した旧民主党政権が僅か3年で自壊した「失望の記憶」はその後の政治不信と投票率の低下という形で日本の民主主義を蝕み続ける。

 現在の与党である自民、公明両党にとっては、実はそれが好都合だったりする。12年衆院選で政権を奪還して以降、自公政権は国政選挙での「全勝」を誇って来たが、投票率を見ると12年衆院選こそ60%近かったものの、その後の衆院選3回(14、17、21年)と参院選4回(13、16、19、22年)は50%台半ばから50%前後の低投票率で推移し、安倍政権下の最後の全国選挙となった19年参院選は50%を割り込んだ。その間、選挙区選挙に於ける自民党の得票率は一貫して5割に届かず、参院選では4割前後で推移している。つまり、有権者の約半数が棄権し、有権者の4人に1人からの得票に支えられた「4分の1政権」。これが「安倍一強」を謳歌した長期政権の実態だったのである。

  12年衆院選以降の第2次安倍政権を振り返ると、前半は集団的自衛権の行使を可能とする安全保障関連法の制定を推し進め、リベラル勢力から激しい批判を浴びた。国民に不人気な政策であっても信念を持って実現させた事は政治のリーダーシップの在り方として理解出来る。だが、第2次安倍政権の後半は「森友学園」「加計学園」「桜を見る会」等々、政権スキャンダルの連続だった。その為に政治不信が広がって投票率が下がっても、いや、投票率が下がってくれた方が自民、公明両党の組織戦が効果を発揮する。当時のマスメディアは保守層を中核とした「安倍岩盤支持層」の存在を指摘したが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)等も組み込んだ組織選挙の実態が後に明らかになった。

「禊」選挙に勝てば裏金事件はリセット出来る?

自民党安倍派では、派閥政治資金パーティーの収入を裏金化して所属議員にキックバックする違法行為が長年の慣行として続けられて来たとされる。その流れの中に、安倍元首相の事務所が政府主催行事「桜を見る会」にかこつけて後援会接待を繰り返していた不祥事も位置付けられる様に思えてならない。多少のスキャンダルは選挙に勝てばリセット出来たと強弁して来た安倍長期政権。その成功体験が積み重なり、権力を握り続けていれば何をしても許されるという錯覚と驕りを生む。

 裏金事件を巡っては今後、関係した派閥幹部や議員に自民党執行部がどの様な処分を下すかが焦点となる。3月17日に自民党大会が予定されており、本稿が掲載される頃には何らかの処分が出ているかも知れない。除名や離党迄は行かずとも、次の選挙は自民党が公認しない無所属候補として戦えという処分もあり得る。そうなったとしても、自民党が対立候補を立てなければ事実上は自民党候補。当選して国会に戻って来れば晴れて禊を済ませた事になるという理屈らしい。説明責任を果たさないまま選挙でスキャンダルをリセットする成功体験の再現を狙い、6月23日に会期末を迎える今国会中の衆院解散・総選挙に踏み切るシナリオが現実味を帯びる。

 岸田文雄・首相は、率先して自民党岸田派の解散を宣言したものの、その後は裏金事件の真相解明にも党改革にも及び腰。政治資金の規制強化でもリーダーシップを示せず、内閣支持率の低迷が続く。この状況で衆院解散を打てるのかという見方も有るが、政治不信が広がって投票率が下がった方が有利というのが「4分の1政権」勝利の方程式。逆に今国会中の衆院解散に踏み切れなければ、9月の自民党総裁選で引き摺り下ろされる展開が考えられる事からも「6月解散」の見方が強まる。そこで政権維持に成功すれば、裏金事件の責任は有耶無耶。斯くして政治不信は極まり、日本の民主政治は危機に陥る。

 その兆候は既に現れている。民主主義の破壊因子として今年、世界的に注目されているのが「もしトラ」だ。「もしトランプ・前米大統領が返り咲いたら」の略語として人口に膾炙する。ロシアのウクライナ侵攻や中国の海洋進出が自由と民主主義を基調とする第2次世界大戦後の国際秩序を揺るがす中、権威主義国家に対抗する民主主義国家陣営の結束を破壊し兼ねない「トランプ大統領」の再登場が現実味を帯び、日本政府を含む国際社会が警戒を強める。今こそ、民主主義の価値を世界的に再確認しなければならない時なのに、政治不信の蔓延する国内世論には「もしトラ」へのシンパシーも垣間見える。

 先に紹介した社会調査研究センターの世論調査から再び引用する。「もしトラ」と聞いて59%が「不安」を感じると答えた一方、「期待」が10%、「どちらとも言えない」が31%だった。これを年代別に見ると、70歳以上では79%を占めた「不安」の割合が、年代が下がるにつれて減少。18〜29歳では「不安」が38%で「どちらとも言えない」の40%と拮抗し、「期待」が19%となる。調査では意見の記入欄が設けられ、「なんか変えてくれそう」(山梨県・20代女性)、「アメリカファーストだから、日本も見習って欲しい」(栃木県・20代男性)等、変革やリーダーシップを期待する意見が並ぶ。その背後に感じられるのは民主主義や国際協調への懐疑だ。

 思い返せば、リクルート事件や東京佐川急便事件を受けた1990年代の政治改革で、政権交代可能な2大政党体制を目指して導入されたのが衆院選の小選挙区制だった。今やそれが「4分の1政権」の勝利の方程式を支え、民主主義を疑う若年層を選挙から遠ざける遠因にもなっているのは皮肉な現実だ。選挙権年齢が18歳に引き下げられた後も若年層の低投票率に改善の兆しは見えない。日本の民主主義はこのまま年老いて行くのだろうか。

社会調査研究センター「dサーベイ」による全国世論調査(2024年2月17〜18日)

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