SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

自民党の派閥液状化で「上川陽子首相」が急浮上?

自民党の派閥液状化で「上川陽子首相」が急浮上?
岸田首相続投の条件は6月解散、「禊」選挙での勝利

自民党の派閥政治資金パーティーを巡る裏金事件は、岸田文雄・首相の主導する形で岸田派・安倍派・二階派・森山派が解散する事態に発展し、自民党内の権力構造が一気に液状化する中での2024年政局のスタートとなった。

 今年は9月に自民党総裁選が予定され、岸田首相が続投するにしろ、新首相が誕生するにしろ、総裁選前後に衆院解散・総選挙が行われる展開が既定路線の様に永田町界隈では語られていた。しかし、多額のパーティー券収入を裏金化していた安倍派の議員百人近くを政府・党の要職から排除したままで↘政権運営が長続きするのか。裏金を受け取っていた議員達を再び要職に起用するには、改めて選挙で有権者の支持を得る「禊」が必要だ。安倍派幹部や裏金受領者に重い処分が科されれば、党の公認無しの無所属候補として選挙を勝ち抜かなければならない。晴れて禊を済ませた議員達による新しい政権を率いる首相は誰なのかが24年政局の焦点となる。

派閥解消に抗う「麻生─茂木」ラインの憂鬱

 第1候補は岸田首相だ。他派に先んじて岸田派の解散を表明した決断は自民党内で驚きを持って受↘け止められた。最大派閥・安倍派、第2派閥・麻生派、第3派閥・茂木派、第4派閥・岸田派から成る主流派閥連合に支えられて来た岸田首相が派閥の解消に動くとは誰も思っていなかったからだ。野党が手ぐすね引く通常国会に無策のまま突っ込めば、裏金問題で火達磨になって政権が行き詰まり、24年度予算の成立と引き換えに退陣を余儀無くされるのではないかとも囁かれていた。そうなった場合の首相候補に挙がるであろう石破茂・自民党元幹事長や河野太郎・デジタル相、高市早苗・経済安全保障担当相等が派閥解消への言及を避け続けて来たのは、↖国民の支持を失った岸田首相に代わって派閥連合の神輿に担がれる思惑も有ったからだ。

 岸田首相は派閥解消の流れを自ら作り、石破元幹事長等の機先を制する事に成功した。とは言え、それだけで首相続投の流れが出来た訳ではない。岸田首相の下で安倍派議員達の禊を済ませるタイムリミットは、通常国会会期末(6月23日)。派閥解消政局を演出したものの国民の信頼回復には繋がらず、内閣支持率が低迷したまま衆院解散の機を逃す様なら、9月の総裁選では自ら招いた党内の液状化が徒となり、新たな「選挙の顔」を希求する声に「岸田再選」の望みは掻き消される可能性が高まる。

 「新しいスター、新しい人が育ちつつある」。麻生太郎・自民党副総裁が1月末の講演でこう言って褒め上げたのが上川陽子・外相だ。この発言には「そんなに美しい方とは言わんけど」という前置きが付いていた為女性蔑視発言として批判を浴びたが、発言の中核は、流暢な英語を駆使して外国要人との関係を構築し、主張すべきを主張する上川外相を「大したもんだ。あんな事出来た外務大臣は今迄居ません」と評価した部分に有った。

 麻生副総裁はこれ迄「ポスト岸田」の首相候補に茂木敏充・党幹事長を推す構えを見せていたが、茂木幹事長は茂木派の存続に動いて党内外の批判を浴び、しかも、その茂木派は小渕優子・党選対委員長等の退会で分裂含み。この状況で「茂木首相」を模索しても党内の支持が得られる見通しは立たない。しかし、麻生派と茂木派を政策集団に衣替えさせた上で存続させ、麻生副総裁─茂木幹事長のラインで党内の主導権は握り続けたい。仮に岸田首相が退陣に追い込まれる事態に陥っても、旧主流派閥連合の枠組みから後継首相を出す事は出来ないか。その候補者から自身が忌み嫌う石破元幹事長は外しておきたい。そう考えた麻生副総裁の目に適任者として映ったのが、岸田派に所属する上川外相だった。

 なぜ上川外相なのか。イスラエルのパレスチナ・ガザ地区攻撃への対応に苦慮する米国のウクライナ支援が揺らぐ中、上川外相は年明けに米欧を歴訪。ロシア軍の攻撃による空襲警報が鳴り響くウクライナの首都キーウの地下シェルターでクレバ外相との共同記者発表を行い、ウクライナを支援する日本政府の確固たる決意を内外に示した。外交舞台に於ける上川外相の評価が高まっているのは確かだ。

「伊東正義になる」首相の覚悟は本物か

国民の間にも日本初の女性首相候補の1人として上川外相の認知がじわり広がっている。朝日新聞が1月に実施した世論調査で「今、誰が首相に相応しいと思うか」と尋ねたのに対し、18%で1位となった石破元幹事長等に続く6位に上川外相が5%で入った。2位から5位は小泉進次郎・元環境相(17%)、河野デジタル相(11%)、岸田首相(7%)、高市経済安保担当相(6%)の順。茂木幹事長との回答は1%に止まった。旧主流派閥連合の枠組みに入る首相候補は岸田首相と上川外相という事になる。麻生副総裁にとっては岸田首相がダメだった場合のスペアという位置付けか。

 年明けの報道各社の世論調査ではもう1つの異変が注目された。それ迄政党支持率で野党第1党の座に在った日本維新の会が失速し、立憲民主党を下回る調査が相次いだ。日本経済新聞の調査では維新が昨年12月の12%から1月は7%に下落し、立憲は9%→8%の横這いで野党第1党に浮上。毎日新聞の調査でも維新の支持率は13%→9%。社会調査研究センターが「仮に今、衆院選が行われたら比例代表でどの政党に投票するか」と尋ねた調査でも自民党(18%)に次ぐ2位立憲(12%)、3位維新(11%)の順となった。維新失速の要因は大阪・関西万博への批判と見られる。次期衆院選へ向け政権与党の自民、公明両党が強く警戒して来た維新の躍進が無いとなれば、通常国会中の衆院解散に政権の命運を懸けたい岸田首相にとって何よりの追い風となる。

 「今の自民党に伊東正義は居ない。私が伊東正義になる」。岸田首相は岸田派(宏池会)の解散を宣言するに当たって同派の幹部達にこう言って政治改革に取り組む決意を示したという。「伊東正義」とは、昭和から平成に掛けて外相や党政調会長等の要職を歴任した宏池会の先人にして、金権腐敗とは無縁のクリーンな政治家として知られた人物だ。1989年にリクルート事件で竹下登・首相(当時)が退陣した際、後継首相に推されたが「本の表紙だけ変えても、中身が変わらなければダメだ」と言って固持したエピソードが残る。「伊東正義になる」とは、首相の地位を守るのに汲々とするのではなく、全派閥を敵に回しても党改革を断行するとの決意表明だ。

 その言を信じるなら、岸田派の解散宣言は未だ序の口。自民党内の派閥解消を更に力強く主導し、政治資金規正法等の改正へ向けた与野党協議を加速させ、通常国会中に衆院解散に踏み切れる環境を整える「6月解散シナリオ」の本番はこれからだ。首相周辺から聞こえて来るのは、4月に企業の賃上げ、6月に定額減税の税額控除が始まれば物価高騰への批判が一息つくとの見立てだ。4月には衆院東京15区、島根1区、長崎3区の補欠選挙が予定され、政治日程としては3補選を吸収する形で衆院選を行う選択肢も有る。しかし、首相周辺は「物価対策の効果が国民に実感されるのは6月。裏金事件が無かったとしても、岸田首相はそこに照準を合わせて『6月解散シナリオ』を描いていた」と明かす。それ迄に政治改革と自民党改革に決着を付けて内閣支持率の回復を図り、「禊」選挙になだれ込む算段だ。

 問題は「伊東正義になる」という岸田首相の覚悟が本物かどうかだ。6月解散を逃せば、9月の自民党総裁選を乗り切る道筋は狭く険しいものとなるだろう。総裁選後の10月解散となった場合、政権を率いるのは「上川首相」か、「石破首相」か。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

Return Top