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「公立病院改革」の事例に学ぶ

「公立病院改革」の事例に学ぶ

課題「ガバナンスの不在」  公立病院(地方独立行政法人を含む)は、病院数、病床数とも減少の一途にある。2004年には全国に999病院(23万8655床)あったが、14年には881病院で、全国8540ある病院の10.3%を占める。しかし、病床数21万3556床は全国の病床の13.6%と、地域医療で中核的な役割を担っていることは間違いない。

 しかしながら、その収支を見ると、同年度において赤字病院が過半数となっており、極めて厳しい経営環境にある。へき地、救命救急、母子周産期など、採算面で民間病院では手を出しにくい医療分野を支えており、やむを得ない事情もある。とはいえ、重荷に耐えかねて、統廃合が進み、公設民営化、第三セクター、さらには民間に委譲されるケースも少なからず見られる。

 医療スタッフの頭数を満たせず、特定の診療科から撤退したり、診療時間を短縮したりと、存続を懸けて、赤字解消のためのあの手この手の対策が続けられている。

改革に不可欠な「三つの視点」  総務省は、15年3月にまとめた「新公立病院改革ガイドライン」に基づいて、さらなる公立病院改革を推進している。同年6月には「経済財政運営と改革の基本方針2015」が閣議決定されており、「国公立病院の経営改善等について、優良事例の横展開を行う」ことが明記された。それを踏まえて、16年3月に、前ガイドライン(07年)に基づく経営改革の優良事例について、『公立病院経営改革事例集』がまとめられ、公開されている。

 公立病院改革は、三つの視点に立って推進される。①経営効率化②再編・ネットワーク化③経営形態の見直し──である。そのうち、①の経営効率化によって、黒字病院の割合は29.7%(2008年)から46.4%(13年)と、明らかに改善効果が得られている。

 例えば、岩手県立宮古病院(岩手県宮古市、293床)の場合、人口減少や平均在院日数短縮、常勤医不足などにより、08年度以降、入院患者の減少が続いていた(東日本大震災津波関連の入院患者を除く)。

 まず、循環器科の常勤医師を増員できたことで体制が強化され、13年度は患者の減少傾向に歯止めが掛かり、前年度比で1.0%増加した。

 地道な努力も進めた。外来においては、地域のクリニックを訪問して、機能分担の必要性を説き、患者を囲い込むのでなく、病状が安定した場合は逆紹介する旨を伝えた。これが紹介患者の増加につながり、患者数は前年度比2.9%増した。一方で、逆紹介を推進して、検査・X線などが必要な患者の割合を高めたことで、前年度比で患者平均単価は2.4%増となった。

 支出面では、岩手の全県立病院(20病院、6診療診療センター)にSPD(Supply Processing & Distribution、物品・物流管理システム)が導入され、従来、事務職員が行っていた購入事務を業務委託・調達代行した効果が大きい。13年度は全岩手県立病院で、前年度比3.84%、約3億900万円の引き下げにつながった。

 また、消化払い方式も導入された。これは、倉庫に納品された時点で所有権が病院に移転し、倉庫から払い出された分のみを卸が月末に請求する仕組みである。これまでの診療材料の期限切れおよび余剰在庫保有のリスクが大幅に軽減され、岩手県全体で約5億3600万円の材料費の縮減につながっている。

 さまざまな取り組みの結果、経常収支は目標であった11年度黒字化を前倒しして、その前年度以降黒字を計上している。経常収支率は100%を達成し、東日本大震災時には災害救急医療を担い、公立病院としての使命を果たせている。

 また、市立福知山市民病院(京都府福知山市、354床)では、医師確保によって診療科の充実を図り、患者数の大幅な増加などの成果を上げたことで、計画より1年前倒しで経常黒字化を達成、救急医療体制の充実・強化中だ。

 医業収益の向上につながった要因はいくつかある。まず、医療スタッフの増員。そして、医師確保により診療科を19 診療科から 23 診療科に増加させたことは大きい。中でも、総合内科増設による各専門診療科の実績が向上した。

 09年にはDPC(診断群分類包括評価)準備からDPC対象病院になった。入院患者の受け入れ体制も強化され、閉鎖病床34床を順次再開し、入院患者が増加。さらに、透析患者の受け入れも強化され、当初24床だったのが、14年には36床まで増やした。1日当たり外来患者数は810.3人(08年)から935.9人(13年)と、実に125.6人増加、外来診察室使用の効率化が図られた。救急医療の促進、スタッフ確保による分娩件数の増加、人間ドックなど予防検診事業の推進なども患者数増加に貢献している。

 事例集には、赤字体質を克服するために、民間の手法を活用しようという取り組みも少なくない。SPDもそうした一端であるし、もっと直接的にコンサルタント業務委託、民間病院経営経験者を職員として任期付きで雇用といったものもあれば、改革視点③の経営形態の見直しは“民間の病院”になることそのものといってよい。民間の手法の優越性はかなり持ち上げられているが、民間病院もさまざまだ。事例集には逆に民間の病院が学ぶべきノウハウも記載されている。

院長のリーダーシップで病院再編  今なお全国で模索される公立病院改革。経営統合による立て直しの先駆けは、2008年、山形県酒田市で、県立日本海病院と市立酒田病院が、“共倒れ”を回避しつつ、地方独立行政法人の下に再編された事例がある。統合後は、急性期医療を担う日本海総合病院(646床)、医療療養・回復期リハビリテーションを担う酒田医療センター(114床)の2病院となった。

 1998年に旧・酒田病院の院長になった栗谷義樹氏は、厳しい環境下で、職員の雇用を守ることを宣言、患者説明などサービスの充実、多職種のサポートなどにより医師が本来業務に専念できる環境を整備するなど、トップダウンで2000年下期には経常黒字に転じた手腕で、統合を成し遂げた。

 公立病院の最大の課題は「ガバナンスの不在」で、数年おきの人事異動が繰り返される中では、病院経営の専門家が育ちにくく、こうしリーダーシップを発揮できる経営者は少ない。一方民間病院であればトップダウンを発揮しやすいが、独善に陥っていないか耳を傾ける必要がある。官も民も経営改革は避けて通れない時代だ。

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