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飲食店対策で撤回相次いだ西村大臣の「軽挙妄動」

飲食店対策で撤回相次いだ西村大臣の「軽挙妄動」
世の中の緩みを生んでしまった罪深い発言

 新型コロナウイルスの感染拡大で、7月12日に4度目となる緊急事態宣言が発令されたが、感染は下火になるどころか拡大の一途を辿った。政府はウイルスの潜伏期間(2週間程度)を考慮すれば、7月下旬からその効果が現れ始めると考えていた。

 しかし、こうしたシナリオはもろくも崩れ、「誤算」となった。その要因の1つとされたのが、飲食店への休業要請を巡り、規制を強化しようとした新型コロナ担当の西村康稔・経済再生担当大臣の軽はずみな発言だった。

 緊急事態宣言の効果は既に3度目の発令時に限界が見え始めていた。政府は6月20日に宣言を解除したが、その際には既に繁華街等で人出が増え始め、減少傾向にあった感染者数も増加に転じていた。

 閣僚の1人は「伝家の宝刀とされた宣言だが、既に錆び付いている。これ以上、宣言を続けていても効果が見られないだろう。このまま続けていたら、二度と使えないものになってしまう」と指摘していた。

 この時の宣言解除は7月23日に開幕した東京五輪を見据えて政策的に解除した側面が強かったが、感染拡大を阻止するためにもこれ以上、宣言を続ける訳にはいかなかった事情もあった。

 しかし、インドで確認された従来株より感染力が2倍強いとされるデルタ株の影響で、新規感染者は急激に増え始め、解除からわずか3週間ほどで再び緊急事態宣言の発令を余儀なくされた。この際、休業要請に応じない飲食店が多くなっている事から、その対策が急務となっており、西村氏が所管する内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室が中心となり検討していた。

 7月7日夕に首相官邸で関係閣僚らを集めた会議で、この検討されていた施策が報告された。それが休業要請や酒の提供自粛に応じない飲食店に対し、取引先の金融機関から順守を働き掛けるというものだ。

 これに加え、酒類販売事業者に取引停止を求めたり、全国のレストラン情報を口コミで探せるグルメサイト等の利用者に店の感染対策を評価してもらったりするという案もあった。

 その場には菅義偉首相の他、加藤勝信・官房長官、田村憲久・厚生労働相らが参加しており、説明されて大筋は了承された格好になっていた。参加者の1人は「細かくは説明されていなかったが、金融機関から働き掛けるというのはあったはずだ」と証言する。こうした〝お墨付き〟を得て、これらの施策を緊急事態宣言が決定した後、施策を主導した西村氏が記者会見で発表したのだった。

「国家機関による脅迫」等の反発

 特に炎上したのが、酒類提供停止の要請に応じない飲食店に対し、「金融機関から順守を働き掛ける」という内容だ。インターネット上では、「国家機関による脅迫だ」「国民無視の上から目線だ」「五輪を開催しようとしているのに飲食店は締め付けか」等と一斉に反発する声が上がった。

 ある省庁幹部は「政策の方向性としては問題ないものもあった。しかし、わずか3週間で緊急事態宣言が発令され、飲食店にとって死活問題のところに強権的な施策をしようとしたため、一斉に反発する声が上がってしまった。宣言を発令してからしばらくし、それでも従わない飲食店が多い頃合いを見計らって発言しても良かったのでは。タイミングがいかにも悪かった」と指摘する。

 インターネット上での炎上に対し、西村氏は発言の撤回をせざるを得なかったが、自民党のある秘書は「人の気持ちの分からない人。それだけにああいう発言に繋がってしまったのだろうが、政治家としては致命的だ」と吐き捨てる。

 兵庫県明石市出身の西村氏は灘高校から東京大法学部に進み、旧通産省に入省したエリート。学生時代はボクシング部にも所属したスポーツマンで、アメリカ・メリーランド大学大学院に留学した経験もある俊英だ。2003年に初当選して自民党の最大派閥・細田派に所属し、安倍晋三前首相も期待をかける衆院6期のホープでもあるが、大臣就任後は空回りが続く。

 内閣官房幹部は「ワーカホリックな面があり、土日かまわず電話をかけてきては、急な仕事を依頼してくる。その度に職員は出勤せざるを得なくなり、大臣秘書官は体調を崩したり、精神面で病んでしまったりしてすぐに交代するケースが多い。指摘も細かく、資料の見栄えばかりを気にする面もある」と話す。

 実際に今年1月に378時間も残業している職員の存在が明らかになる等、そのマネージメント能力には疑問符が付く。

 コロナ発生当初は、経済再生担当大臣らしく、経済活動重視派だったが、政府の新型コロナウイルス対策分科会を所管し、尾身茂会長と日常的にやり取りするうちに、感染対策重視派に「宗旨替え」したものとみられる。

 大手紙記者は「頭が良いのが影響しているのか、納得がいく話をされると傾倒する傾向がある。尾身さんとも頻繁に話し合いをしているため、尾身さんの代弁者のようになっている時がある」と指摘する。

パンデミックで馬脚を現した政治家

 このため経済活動重視派の菅首相からは次第に疎まれるようになり、政策決定の重要な場面では外される事も出てきている。ある省庁幹部は「菅首相が西村大臣の『金融機関からの働き掛け発言』について知らなかったと発言したのは、このような事情も影響しているとみられる。実際に知らなかった事はないのだから」と苦笑交じりに背景事情を解説する。

 一連の西村氏の発言は政権内の「きしみ」を表面化しただけでなく、世間の「緩み」も生み出した。飲食店への規制強化策を撤回した事により、半ば飲食店での飲酒を伴う会食を認めてしまったような形になった。感染拡大は収まらず、繁華街の人出も思うように下がらない。厚労省職員は「西村大臣の発言により、飲食店への規制強化が難しくなったばかりか、人々の行動変容を促さず、逆に世の中の緩みばかりを生んでしまった。罪深い発言だった」と悔しがる。

 世論は西村氏の更迭を望む声が高まっていたが、更迭してしまえば、これまでのコロナ対策が失敗と受け取られる可能性があるため、首相官邸としてもその決断は難しい。ただ、秋にも実施される解散総選挙で政権の存続が決まれば、西村氏が交代する可能性は高いとみられている。

 あるメディア関係者は「選挙は強いから勝ち上がってくるだろうが、首相官邸が西村大臣を続投させる可能性はないだろう。一時は総裁候補と目されていたが、当分は浮上する事もほぼないと見てよい」と述べるが、「本人がそれに気付いているかどうかは分からない」と付け加える。

 緊急事態宣言中に銀座のクラブで飲み歩いていた元閣僚や事前に説明もせずにワクチンを優先的に打った首長等、今回のパンデミックで馬脚を現した政治家は枚挙にいとまがないが、西村氏もその1人と言えよう。

 10月頃に行われるであろう総選挙は、自民党にとって厳しい結果が待ち受けているかもしれない。

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