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未来の会

病院経営専門職を養成する大学院への期待

病院経営専門職を養成する大学院への期待
MBA流の演習活用即戦力人材の輩出目指す

医療法では、病院の管理者、つまり病院長は医師でなくてはならないと定められている。医療法人の理事長についても原則として医師または歯科医師でなくてはならない(都道府県知事の認可を受けた場合は医師・歯科医師でなくても可)。

病院経営のトップは、医療全体が俯瞰出来る医師である必要があるにも拘わらず、一般に医師は病院経営について体系的に学ぶ機会がないままに舵取りを委ねられる事が多い。事務長や顧問税理士、コンサルタント等に丸投げしている例も有るという。しかしお飾りのトップでは、これからの荒波を乗り切っていく事は難しい。

キャリアを中断せずに病院経営を学ぶ

「医師主導の病院経営を実践できる専門職人材を輩出」を第一の目標に掲げ、日本初の病院経営専門職大学院と銘打って、藤田医科大学(本部・愛知県豊明市)大学院はMHHA(Master of Hospital & Health Administration)コースを立ち上げ、この4月に1期生が入学した。

出願者には、医師免許や10年以上の実務経験、地域に於いて中核的な役割を担う病院や地域を支える病院の病院経営・管理の実務に取り組み、地域を支えるリーダーを志す、といった要件のいずれかが求められる。現場で即戦力となる院長・副院長等の病院経営幹部が、病院経営学を学ぶ大学院であり、週2日、1.5年間の履修で病院経営学・管理学修士(専門職)の学位が取得出来る。

学納金は、入学金が15万円、1年次が前期・後期で各45万円、2年次は75万円である。定員10人と少人数での実践教育を旨としており、医師がキャリアを中断せずに職場や自宅でも学べるよう、オンラインを積極的に活用した授業形態となっている。平日の夜間(週1日)のオンライン講義と週末(原則土曜日)の集中型授業によって教育課程を完結させる。カリキュラムは、病院経営者・幹部職員に必要な病院経営学や病院管理学といった科目で構成されている。後半の課程では、病院で実際に起こった具体的な出来事に基づき、教員と学生同士が議論する演習型授業を行う。

実在する企業の事例を題材に、自分が経営者ならどうするかという視点で分析や討議を繰り返すのは、ハーバードビジネススクール(経営大学院=MBA)に端を発する「ケースメソッド」の手法で、その病院版とも言える実践的な授業を展開する。そして修了に必要な課題研究に於いても、オンラインによって指導教員との綿密なやり取りを重ねるという。

病院経営に特化した学びで現場を大きく改善

これ迄病院経営を学ぶ必要性を感じて一般のMBAを検討したり、実際に学位を得たりした医師もいる。しかしMBAでは企業経営がメインであるのに対して、MHHAでは病院経営に特化している事が大きな特徴だ。教える講師陣は、医師免許を有する病院経営の専門家が中心となっている。

その1人が、藤田医科大学の特命教授で、足利赤十字病院(栃木県足利市)の名誉院長である小松本悟氏だ。小松本氏は慶應義塾大学の神経内科の出身で、1990年に関連病院である足利赤十字病院に入職し、94年に副院長になった。当時の病院は経営的に行き詰まっており、山の裾野に立つ建物は度重なる増改築で動線が複雑で使い勝手も悪く、移転計画が浮上していた。小松本氏は独学で病院経営や病院建築を学んでいたが、2004年に東京医科歯科大学大学院に医療管理政策学(MMA)コースが開学されると知り、1期生として入学した。

MMAの講義は、平日夜間に実施される。小松本氏は勤務先の協力もあって毎日足利から通学し、1日も休む事なく最前列の席で受講したという。08年には足利赤十字病院の院長に就任して移転計画を指揮し、11年には、540床の全室が個室という画期的な新病院への移転を実現した。

病棟は診療科毎の縦割りを排し、1病棟に7〜8の診療科の患者が入る混合病棟を導入して35床を1看護単位とした。旧病院の病床稼働率は90%がせいぜいだったが、大きく改善して常に100%となり、医業収益が上向く結果になった。SDGsにも配慮して、当時としては最新のエネルギー・システムも導入した。建物は患者と職員でエリアを分け、エレベーターや通路を別にした。コロナの重症患者も受け入れながらクラスターを発生させる事もなく、病床はフル稼働を維持している。もちろん、経営数字を読む術も身に着けており、DPC/PDPS(診断群分類別包括評価支払制度)対象病院として、地域に最適化した選択と集中を図った事も経営にプラスに働いたと言える。

15年には国際的な医療機能の評価を行う米国の非営利機関「JCI(Joint Commission International)」の認証を、赤十字病院として日本で初めて受けた。環境への配慮も評価され、建築設備技術者協会のカーボンニュートラル大賞(13年)、日本医療福祉建築協会の医療福祉建築賞(14年)、経済産業大臣賞(15年)、国際病院設備学会の国際医療福祉建築賞最優秀賞(16年)等、多くの賞に輝いた。

小松本氏自身はMMA在学中、通学の為に会議を朝7時や15時迄に設定してもらう等、大きな配慮が得られていた。しかし現実にはそうした対応は難しい事が多い為、藤田医科大学のMHHAでは、多忙な医師がタイムマネジメントをしながら受講しやすい体制になっている。

オンライン重視による履修のしやすさで差別化

藤田医科大学のMHHAは病院経営専門職大学院として日本初であると謳うが、病院経営を学べる大学院は東京医科歯科大学のMMAコースを含めていくつかある。九州大学大学院には、01年に設置された医療経営・管理学専攻の専門職大学院が在る。慶應義塾大学大学院の医療マネジメント学専攻(神奈川県藤沢市)では、病院のマネジメントも学ぶ事が出来、医師も在学している。又、「文部科学省2017年度課題解決型高度医療人材養成プログラム」の病院経営支援に関する領域で、同専攻と経営管理研究科、大学病院が中心となり、「ケースとデータに基づく病院経営人材育成」事業の1つとして病院経営イノベーションコースを立ち上げた。こちらは3年以内に5科目(10単位)の履修を完了すると修了証が授与される。

千葉大学医学部附属病院(千葉県千葉市)には「ちば医経塾−病院経営スペシャリスト養成プログラム−」が有り、こちらでも医師が学んでいる。約1年間、土曜日と日曜日、月2回4日程度の通学で履修証明書が授与される。千葉大学では都内墨田区にサテライトキャンパスを設けており、通学の便を考え、このプログラムをそちらに移す事も検討されているという話も有る。

医療経営を学べる短期・長期セミナーは各所で開催されており、専門職の学位が無ければ病院経営が出来ない訳ではない。ただ、藤田医科大学のMHHAは多くの科目でオンライン授業が提供されている為履修しやすく、学位も出るのがセールスポイントだ。

米国では1949年、病院経営学修士課程の認定・教育改善の組織として医療経営学大学プログラム協会(Association of University Programs in Health Administration: AUPHA)が発足した。AUPHAの主導によって、多くの病院経営大学院(MHA)が誕生し、同時に教育の質の向上が図られる事になった。日本でも病院経営の学びの場を増やすと共に、教育の質を担保しながらカリキュラムの足並み等を揃えていく必要が有るかも知れない。

コロナ禍では補助金が給付されて一時的に経営が好調だった医療機関も有る筈だ。社会がウィズコロナへとシフトし、未曾有の少子高齢化を迎えた今、優れた病院経営が求められる時代が到来している。病院経営の学び直し、又、優秀な経営幹部の育成の為に投資する事も必要になって来るだろう。

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