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女性開業医の3割が出産前でも休めない!

女性開業医の3割が出産前でも休めない!

8割が産後の休暇も十分に取れていない  女性開業医のうち、3割近くが出産前に一切休めず、約8割が産後8週間の休暇を取れていないことが全国保険医団体連合会(保団連)の調査結果で明らかになった。出産後の休暇がゼロという回答も5%近くあった。女性医師・歯科医師の割合は年々増加し、医療を支える上で役割が重要になっているが、仕事と出産・育児との両立のために過酷な就労環境下にあることが浮き彫りになった。保団連では代診医師の紹介制度や事業主の出産・育児休業補償制度の創設などを厚生労働省に求めていく。

 調査は昨年7〜9月に保団連の開業女性会員を無作為抽出して行い、644人が回答した。そのうち、開業後に出産した経験のある35歳以上の医科58人、歯科65人の計123人、出産数210件の休暇取得状況をまとめた。

 年齢別にみると、開業後1人目の子供のための産前休暇は「0日」が25.2%に上り、「1〜10日」の25.2%と合わせると半数を超えた。2人目、3人目の出産を合わせると「0日」が27.1%で、約3割が出産直前まで診療していたことが分かった。

 産後の休暇については、1人目では「0日」(4.9%)を含めて「30日以内」が64.2%に上った。2人目、3人目でも同様の傾向がみられた。

 産前産後の休暇について、労働基準法では事業主は従業員から休暇の求めがあれば出産前6週間、産後は原則として8週間の休みを与えなければならないが、開業医は自らが事業主なので法律の対象外。自分で自分を管理することになるが、代診医師を確保できなかったり、患者との関係を継続する必要があったりで産前産後でも休めない現実がある。今回の調査で、その状況が数字で裏付けられたわけだ。

 女性医師が開業医となった年齢は30歳代がピークで、出産年齢と重なる。そのため、自由記述では「開業医になると出産が経営リスクになるので2人出産した後に開業した」(内科・40歳)、「不妊に悩み、諦めて開業したら妊娠した。早く妊娠していたら勤務医を続けたのに」(歯科・49歳)などという厳しい状況がつづられていた。

公的サービスがニーズに応えていない  子育て支援に関する質問では、支援が「あった」との回答が70.0%。「なかった」の大半は仕事を「縮小」したり「休業」したりしていた。勤務医時代の出産経験者を含め、支援者となったのは「親族」が75.8%でトップ。次いで「配偶者」(41 .9%)、「民間サービス」(36.6%)が続く。「公的サービス」は21.5%にとどまっており、保育園などの公的サービスが女性開業医のニーズに答えていない実態が浮き彫りになった。支援策として、病児・休日・延長保育の充実や院内保育、経済的支援などを求める声が寄せられた。

 野島まこと・パール歯科院長(福岡県)は今回の記者発表の場に出席し、自らの体験を語った。野島院長は大学院卒業後、大型ショッピングセンターのテナントとして開業を持ち掛けられた。出産適齢期も気になったが、早く開業してキャリアアップを図りたかったので、開業に踏み切った。「ショッピングセンターの営業時間内は閉めない」という条件があり、医師を雇いながら7年間、午前9時から午後10時まで無休で働いた。

 そのころ、第1子を妊娠。産前休暇を取りたくても、高いテナント料や雇っている医師の給料を払わなければならないし、休診中に患者が離れるかもしれないという不安があり、休めなかった。その上、野島院長の出産前に治療を終えたいという患者で来院数は倍増したという。

 妊娠で臭いに敏感になる中、患者の口臭をつらく感じたり、おなかが大きくなったことで、治療時の前かがみの姿勢が厳しかったりした。それでも、歯科医の力量は個人の手技によるところが大きく、代診の医師はその点が未知なため任せられなかった。

 2人目を妊娠したときは、ショッピングセンターを出て、医院を移転。診療時間は午前9時半から午後7時までにして、子供を幼稚園に送ってから診療に臨めるようにした。休みも水曜と日曜・祝日に増やした。幼稚園に預けている以外の時間帯は、実家の母親が通いで面倒を見てくれているという。

 野島院長は「事業主には補償がありません。休んだときの補償があればいいと思いますが、民間保険会社でつくってほしいと思っても、利益にならないので無理でしょう。辞めるに辞められない環境の女医の1人として、国への働き掛けで力になれればと思います」と述べた。

 勤務医については、厚生労働省の委託で、日本医師会女性医師バンク(女性医師バンク)という女性医師のライフステージに配慮した就労事業が2007年に日医の事業として始まった。保団連女性部長の板井八重子・くわみず病院附属くすのきクリニック院長は「開業医についての施策はいまだ取られていない。整備が必要」と述べる。

新専門医制度は女性医師に逆風  さらに、女性医師のライフ設計に新専門医制度も影響してくる。同制度では専門医を取得するのに最短でも30歳を過ぎてしまい、サブスペシャリティの専門医を取得しようとすれば、33歳を超えることになり、出産適齢期と重なるのだ。

 東京保険医協会の成瀬清子・サルビア会・就労環境部長は「娘は医学部6年生で、医局回りをしていますが、子供を産みにくいムードの科がいっぱいだと言います。神経内科を志望しているのですが、新専門医制度の下で内科のキャリアを積みながら子供も産むとなると『内科医はもう諦める』と言って他科の入局先を探しています。1人の女性の医師としての将来が変わってしまった」と身近な例を引いて制度の不備を訴えた。

 同協会には「新専門医制度で女性医師が結婚、出産など家庭を持つことを諦めざるを得ない状況に追い込まれる」「キャリア優先なら男性医師も育児休暇を取りにくくなる」という声が寄せられており、厚労省に制度設計の変更などを求める要望書を4月に提出している。

 保団連の宇佐美宏副会長は、「女性患者から『嫁が医師で、出産後すぐに仕事を始めてしまうので育児負担が自分に振りかかってくる』という話を時々聞く。男性はというと、我関せずというケースが多い。女性医師問題を解決しなければ、1億総活躍社会は実現できない。就労環境を改善して、女性医師が仕事と家庭を両立できるようにならないと地域包括ケアはつぶれる。この問題は女性問題だけでなく、男性の問題であり、医療全体の問題でもある」とコメントした。

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