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未来の会

病院でのChatGPT利用の可能性を探る

病院でのChatGPT利用の可能性を探る
医師の「働き方改革」の助力となり得るか

2022年11月、米国のOpenAI(オープンエーアイ)社が、対話型生成AI(人工知能)である「ChatGPT」を無料で公開して半年余りが経過。世界のユーザー数は、公開後5日で100万人、2カ月で1億人を突破し、その後も爆発的に普及している。医療界でもAIの利用が進む中、安全を担保しつつChatGPTを利活用する方向性を考えたい。

第3次AIブーム以降の潮流

AIの萌芽は20世紀半ばに遡る。その後たびたび注目を集めたが、00年代からの第3次AIブームでは、深層学習(ディープラーニング)技術により精度が高まり、社会実装が進みつつある。AIがヒトの知覚を肩代わりし、工場の自動化や自動車の運転をアシストする機能等を担える様になった。

ChatGPTは「対話型AI」とされるもので、最大の特徴は、自然言語、つまり人間が普段話す言葉による自動応答システムである事だ。ChatGPTに問い掛けると、会話する様な自然な回答が返される。ChatGPTは、インターネット上の大量のテキストデータを学習して構成された大規模な言語モデル(LLM)である。LLMは18年にGoogleが先ずBERTを開発、次いで20年にOpenAIがGPT-3を発表してChatGPTに繋げた。何れも文章の分類、感情分析、情報抽出や要約、生成、質問応答、翻訳、プログラミングのコード作成等はお手の物だ。米国では既に、医療現場に於いて診断書、紹介状、医療保険請求書の作成といった事務作業にChatGPTを活用する試みが始まっている。クラークに任せる様に事務作業を迅速化する事が出来、患者と向き合う時間が増えるといった利点が確認されている。 

ChatGPTの学習能力は高く、米国の医師資格試験(USMLE)の問題を解かせたところ、特別な訓練や強化学習を行わずとも合格ラインに達する正答率を出し、高い臨床的推論能力を示したと報告された。医学学習の支援に活用する可能性も示唆されている。

想定される医療現場での活用法

ChatGPTは高いポテンシャルを持つツールだが、医療現場への導入には法的な規制や倫理的なガイドラインを遵守し、患者のプライバシーと安全性の確保を最優先に考えるべきだ。その使い道には、先ず医学を進歩させ知識を拡充するという目的の医学研究に於ける活用が有り、以下の様な場面が想定出来る。

先ず、文献レビューと情報抽出で、ChatGPTは大量の医学文献を参照して、関連する情報を抽出するのに役立つ可能性が有る。特定のテーマや疾患に関する文献検索で、重要な情報や知見を収集出来る筈だ。又、自然言語処理によるデータ解析も強みとなり、医療記録や臨床データを解析し、病状や治療効果、薬物相互作用等に関する知識を抽出出来るかも知れない。更に、病態解明と予測モデルの構築を期待して、ChatGPTを用いて病態や疾患のメカニズムを解明する研究も進んでいる。

次に、病院経営にChatGPTを活用する場合、どの様な方向が有るだろうか。先ず、患者対応と情報提供である。ChatGPTは、患者からの問い合わせに迅速かつ効率的に応答出来る可能性が有る。例えば、予約の確認やキャンセル、病院のサービスや診療時間などに関する質問等で、対話しながら情報を提供して、受付業務の負担を軽減してスムーズな患者対応が出来るかも知れない。又、医療情報の整理と分析に利用する道も有る。病院では日々、大量の医療データや患者情報が生成される。ChatGPTは大量のデータを処理して分析する能力に長け、傾向を分析する事で、効率的な経営戦略や意思決定を支援出来る可能性が有る。更に、スタッフ教育の為の利用で、医学的知識や教育コンテンツを提供して、教育プログラムの充実を図れる可能性が有る。新しいスキルやガイドラインに関する情報を提供すれば、スタッフの知識向上に有用だ。加えて、ChatGPTはデータ分析や予測モデリングも得意とするので、病院経営に於ける需要予測やリソース管理の最適化に寄与する可能性が有る。患者数予測や手術室の予約管理等について、データ解析や予測モデリングをサポート出来るかも知れない。

これらは、あくまでも理想的な利用の可能性だが、無料のツールでありながら、上手く使いこなせば、高いポテンシャルを秘めている事は間違いない。但し、“良い側面だけ見れば”という限定付きだ。批判は様々有るが、重要なのは、実はChatGPTは、必ずしも真実だけを回答している訳ではないと認識する事だ。確率的に可能性の高い文章をもっともらしく生成しているだけで、誤りが含まれる事が有り得る。“非常に話し上手な知ったかぶりの人物”と揶揄する向きも有る。ChatGPTを使いこなそうとすれば、ユーザーは勉強や研究を怠ってはならない。

患者へ危害が及ばない様にする為に、医療相談では個別の状況や病状の差異を鑑みて限定的な役割に留め、バックヤードの学習データの情報も正確性を確保しなくてはならない。ChatGPTが患者の質問や症状に対応出来ない、或いは緊急性が有る場合、医師や専門家の適切なフォローアップに繋ぐ仕組みも重要だ。インフォームドコンセントも要るだろう。使用事例が積み重なって来ないと、医療現場での真価は分からない。

安全な実装は可能なのか?

病院にChatGPTを導入しようとすれば、最低でも以下の手順を考慮しなくてはならない。先ずは、導入前にガイドラインやルールを作成する事だ。医療職や患者との対話スタイル等、適切な対応を定義する事は必須だ。又、事前のデータの整備と学習も必要だ。ChatGPTを効果的に運用するには、関連データや情報を収集して学習させなくてならない。情報には、文献、診療ガイドライン、症例データ、治療プロトコル等が有る。データの整備と学習には、専門知識を持つデータサイエンティストやAI専門家の協力を仰がなくてはならないだろう。

何より重要なのは、プライバシーとセキュリティを確実に担保する事だ。医療情報は、個人情報や機密情報の塊だ。ChatGPTを活用するに際し、データ保護とアクセス制御に関して適切なセキュリティ対策を講じなくてはならない。検証と評価のプロセスも欠かせない。試用段階で実際の病院の環境でテストして効果を評価し、スタッフや患者からのフィードバックを収集し、改善や修正が必要なら迅速に対応する。事前の教育とトレーニングで、利用方法や適切な使い方を学習して貰う事も欠かせない。更にChatGPT運用中、システムの監視と定期的なアップデートを行う必要も有る。こちらもIT専門家等の協力を得て、システムのパフォーマンスとセキュリティを維持しなくてはならない。

導入には、準備期間と初期投資が必要になる。規模や活用方法によるが、事前のデータ収集と整備、既存のシステムへの統合、スタッフの教育とトレーニングはマストで、それぞれに費用が掛かるだろう。更には落とし穴が有り、現在のChatGPTは基本的に無料で利用出来るが、それが長続きするかどうかは不透明である。

OpenAIはAIの研究と開発を行う非営利団体で、目的は人類全体に利益をもたらす汎用人工知能を普及・発展させる事だという。同社は、多数の研究者、エンジニア、データサイエンティスト等の専門家チームで構成され、ChatGPTの開発に関与しているが、個々の開発者の情報は公開されていない。OpenAIは利益を追求する企業ではないが、有料でクラウドベースのAPIサービスも展開している。APIとは、異なるシステム間でデータをやり取りする為の技術仕様だ。又、有償でプレミアムなアクセスを追加する機能も有る。企業等とのパートナーシップによる共同研究でも利益が出ている。

ChatGPTは、医師をサポート出来ても、医師の役割を完全に置き換えるものではない。それでも、医師の「働き方改革」を手助けする可能性は高いかも知れない。

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