
菓子折りに潜む札束 医局人事を巡る「謝礼」の闇
大学病院の医局が持つ「人事権」を背景に、関連病院との間で不透明な金銭のやり取りが行われているという。この情報提供者は、或る地方都市の私立医科大学の医局に所属していた内科医だ。「病院から受け取った菓子折りの箱を開けると、中に20〜30万単位の札束が入った封筒が入っていました。驚いて医局長に伝えたが、返せとは言われなかった」。この医師が在籍していた医局では、特定の関連病院から毎年、医局長宛てに「菓子折り」が届いていた。しかし、その中身は菓子ではなかった。
医局長は、教授から人事権の委譲を受け、関連病院への医師派遣を取り仕切る要職だ。「手当の額に応じて派遣する医師の数を決めている、という発言を直接聞きました」と同医師は証言する。つまり、多く「払った」病院には優秀な医師が多く派遣され、そうでない病院は手薄になる構図だ。
更に、利益供与は菓子折りだけではない。医局長を名目上のアルバイトとして招聘し、殆ど勤務実態が無いにも拘らず、他の医師より高額な「報酬」を支払う、「形を変えた謝礼」も存在するという。
こうした慣行が根付いた背景には、医局人事の固定化が在る。この医科大学では、現在の教授に体制が移行する以前、医局長は毎年交代していた。しかし、現体制になって以降、同じ人物が約7年に亘り人事を握り続けた。現在は代替わりしているが、後任も前任者の「右腕」とされ、実質的な人事権は依然として前医局長にあると見られている。「関連病院からすれば、医局への『投資』は経営上の必要経費なのかも知れません。しかし、それは患者が受ける医療の質と直結する問題です」と同医師は指摘する。医師の配置が「金額」で決まるとすれば、患者にとっては深刻な問題だ。医局と民間病院の間に横たわる「慣例」の実態について、厚労省による徹底的な検証が求められる。
従わなければ冷や飯? 医局とMRとの黒い関係
同じく医局に関する未確認情報だ。九州地方の或る大学病院の医局内で、役職を持つ医師がMR(医薬品情報担当者)と癒着し、十分なエビデンスが確立されていない薬剤や医療機器を現場医師に半ば強制的に使用させているという。断れば人事上の不利益を被る、という構造だ。情報提供者の医師によると、医局員が一堂に会する「医局会」の席上で、上長の医師がデータを収集したい新薬や医療機器について「適応患者は原則、全員を大学病院へ紹介する様に」と指示を出すという。患者の希望や副作用への懸念から従来薬を選択した場合も、その動向はMRを通じて漏れなく製薬会社へ把握されていた。
「指示に従わない医師は呼び出しや叱責の対象となります。医局への忠誠心が低いと見なされ、人事上の不利益を受ける事も有った」と同医師は証言する。その「不利益」とは単なる配置転換に留まらない。関連病院の中でも最も労働環境が劣悪とされる遠方の病院への異動、部下として配置される医師数の削減、更には非常勤勤務先の変更や削減に迄及ぶという。大学病院の給与水準は低い場合が多く、非常勤勤務で収入を補填している医師も少なくない。これは実質的な「兵糧攻め」となる。
こうした構造を支えているのが、医局のヒエラルキーに君臨する特定の医師AとMRとの関係だ。「Aに嫌われた場合、そのMRが扱う薬剤は処方しない様、関連病院含め、お達しが出る事がある」という。エリア担当のMRはAに嫌われない様、日々戦々恐々としているというのが実情だ。
教授・准教授・講師といった役職に就く医師は、一定の研究成果を常に求められる。「その為、ほぼ同じスキームで複数の医師が研究を行っており、個人の問題に留まらない」と同医師は指摘する。
自らの実績の為に症例数を稼ぎたい医師、その医師に取り入りたいMR、そしてその狭間で板挟みとなる現場の医師。3者が絡み合う構造の中で、患者は知らぬ間に研究の歯車に組み込まれていく。医師と製薬業界の関係を律するガイドラインは存在するものの、医局内の権力構造に切り込む手立ては今のところ見当たらない。今も「白い巨塔」は存在する。


LEAVE A REPLY