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治療・創薬で足踏み続く「アルツハイマー型認知症」

治療・創薬で足踏み続く「アルツハイマー型認知症」
発症原因が分からず、新薬開発に大きなリスク

認知症の7割近くを占めるとも言われる、アルツハイマー型認知症の治療に手詰まり感が出ている。発症のメカニズムが解明されておらず、薬の開発も難航気味。エーザイは3月21日、期待を集めていた新薬候補「アデュカヌマブ」の治験中止を発表した。安倍政権は新薬の開発とともに予防にも力を入れる方針だが、こちらもまだ手探りの段階だ。

 認知症はまず、記憶障害が起こり、徐々に認知機能が低下していく。症状は様々だが、時計を見ることができなくなったり、服を着ることができなくなったりし、日常生活が段々難しくなってくる。

 認知症の中で最も多いアルツハイマー病は、「アミロイドβ」や「タウ」と呼ばれるタンパク質が脳内に蓄積し、神経細胞を変異させることによって認知症が進行する、との仮説が有力視されている。

 ただ、まだはっきり分かっていないことも多い。現在、ドネペジル(商品名アリセプトなど)をはじめ4種類の薬が承認され保険適用となっているが、脳内神経伝達物質を分解する酵素の働きを抑えることなどによって、認知機能の低下を遅らせる効果しかない。根治薬はないのが現状だ。

 フランスはこの4種の薬について昨年、「費用対効果が低い」として保険の対象外とした。日本の厚生労働省は「フランスとは事情が違う」(幹部)として、当面保険適用をやめることはないようだ。それでも下痢や幻覚といった副作用が出た場合には、医師に処方中止を求めるよう、都道府県に通知をすることにしている。

 その点、エーザイが米バイオジェンと共同で国際的な治験を進めていたアデュカヌマブは、アミロイドβが脳に蓄積する直前や直後に作用し、除去することを目指した薬だった。認知症薬の希望とされていただけに、開発中止の報は多くの関係者を落胆させた。

失敗の原因に「投与時期の遅さ」

 中止の理由は「十分な治療の効果が見通せない」というもの。投資家の失望も呼び、3月22日の東京株式市場ではエーザイ株がストップ安水準となる前営業日比17%安(7565円)まで急落した。

 実際この10年来、アミロイドβを標的とした認知症治療薬の開発を巡っては、失敗に次ぐ失敗というのが実情だ。米ファイザー、米イーライ・リリーや米メルク、スイスのロシュが次々と開発中止に踏み切った。

 失敗の原因の1つと考えられているのが、「投与の時期が遅い」というもの。アミロイドβは15〜20年かけて脳に溜まっていくことが分かっている。溜まってしまった後に除去しても、アミロイドβが引き金となって神経細胞を変異させた後なら間に合わないというわけだ。

 そこで近年の治験は、アミロイドβが脳に沈着する前の集合体の段階で働き掛ける薬の開発が主流となってきている。ターゲットは認知症になった人ではなく、アミロイドβがこれから溜まっていくことが想定される、認知症発症リスクの高い人である。

 エーザイも、アミロイドβが脳に蓄積する前段階の物質に作用することを目指す「BAN2401」(開発コード)など2種類の薬の開発は続けており、同社の内藤晴夫CEO(最高経営責任者)は「最後の胸突き八丁あたりに来ている」と強調している。開発を中止したアデュカヌマブも、認知機能に影響が出る前段階で投与する治験については検討を進めるという。

 とはいえ、発症の原因が分かっていないだけに、アルツハイマー型認知症の新薬開発にはリスクが付きまとう。内藤社長も「リスクテイクしなければ薬屋である資格はない」と開発に意欲を示しつつも、リスクの大きさは認めている。「アミロイドβはアルツハイマーの原因ではない」と主張する医師も出てきており、万一それが真実なら開発中の治療法は根底から覆される。

 著名な認知症専門医の1人は「アミロイドβ仮説に基づく認知症研究は行き着くところまで来た。当面、画期的な研究がなされる可能性は低い」と述べ、「精神医療の世界では、医師の関心の的が認知症から発達障害などにシフトしている」と漏らす。

 日本では認知症の人は2012年時点で462万人とされ、25年時点では約700万人に急増すると推計されている。高齢者の5人に1人は認知症という時代が訪れる。認知症の前段階、軽度認知障害(MCI)の人も25年には600万人になるとみられ、双方を合わせた数は約1300万人と予測されている。

 世界保健機関(WHO)によると、全世界では約5000万人が認知症と推測され、介護費などのコストは約92兆円に上る。また、50年には世界で患者数が1億5000万人を超すとの予測もある。米アルツハイマー病協会によると、50年時点で発症を5年遅らせることに成功すれば、米国の患者数は4割減となり、コストを約40兆円節約できるという。

「予防」巡り経産・厚労に微妙なズレ

 認知症薬の開発が進まない中、日本政府は昨年12月、関係閣僚会議を発足させた。6月中にも認知症施策に関する大綱を策定することにしている。新薬開発を促すとともに、運動や社会参加などによる認知症予防の強化に取り組む意向だ。

 日本でも認知症患者への「ケア」(介護)には格段の進歩が見られ、適切な支援や交流があれば、相当期間、その人らしく暮らすことが可能となっている。

 一方で「キュア」(治療)面では足踏み状態が続く。そうした状況下では予防に力点を置かざるを得ない面もあり、政府は次の介護保険制度改革でも認知症予防を前面に出そうとしている。

 17年7月、英医学誌「ランセット」に発表された国際チームの論文では、65歳以上の場合、①孤立②喫煙③運動不足④糖尿病⑤抑うつ——について改善できれば、認知症発症の危険性を抑えられると指摘している。とりわけ、運動に関しては様々な検証で一定の効果が認められている。

 また、画像やバイオマーカーなどの活用により、アルツハイマー病を早期に診断できるようになってきた。発症前診断などに繋がる可能性も高く、早くから発症予防に取り組むこともできるようになりそうだ。

 ただし、運動や食事などに気を付けても、確実に予防できるわけではない。また、予防を強調し過ぎると認知症の人を排除する方向に行きかねない、という問題もある。

 政府内には、関連産業の育成を視野に「予防」を重視する経済産業省と、「認知症の人との共生」にもこだわる厚労省間の微妙なズレがうかがえる。

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