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未来の会

総合内科が病院を強くする

総合内科が病院を強くする

貢献の可視化とケアの連続性が経営の土台を変える

超高齢社会の深化と共に、入院患者の構造が変わってきている。80代の患者が複数の慢性疾患を同時に抱えるケースは常態となり、各診療科が縦割りで対応するだけでは、主治医の調整・退院先の確保・ポリファーマシーへの対処等「横断的な問題」が積み残されていく。こうした問題は、共有が進まず診療報酬明細書の行間に埋もれがちだ。だが放置すれば、在院日数の長期化・再入院の増加・病床の非効率な占有として、病院経営に静かに響いてくる。これを院内で引き受け、診療の流れを作るのが、総合内科の本質的な役割である。

高齢多疾患時代に求められる「横断的」存在

2026年4月に開催された第123回日本内科学会総会シンポジウム「総合内科診療へのニーズ」では、その実例が複数の現場から具体的に報告された。市立福知山市民病院総合内科医長の川島篤志氏は、総合内科で担当した入院患者を分析し、「総合内科が有る事で専門の先生方の負担の軽減が視覚化される」と述べた。同氏は、「非常勤医師が外来で診ていて入院になった患者」や「どの専門科領域に属するのか分からない患者」の総数を、当時の常勤専門医の数で割る事で代替負担を算出。専門科医師1人当たり年間65件以上の負担軽減を報告した。

国立病院機構東京医療センター総合内科の山田康博氏も、救急科からの転科が年間240件に上る点を示し、「患者は高齢多疾患で社会的背景も複雑。専門治療だけでなく総合的に診療し、意思決定の支援を担う事が重要」と強調した。

福島県立医科大学総合診療医センターでセンター長を務める濱口杉大氏は、大学病院内での総合内科の診療報酬収入が他科の数%に留まる現実を率直に語り、「人件費に見合った収益の確保」という経営上の圧力を経験として明かした。但しこれに対しては、厚生労働省や文部科学省、福島県等の外部補助金を活用し、人件費を実質的にゼロに近付ける他、総合内科が採用した専攻医が他科のローテーション研修に参加し、内科全体の診療マンパワーとして直接的に貢献する等して整合性を保ってきたという。

だが、より根本的に総合内科を持続させるには、経営者が意図的に数字を見える化する事が重要だ。総合内科の関与によって専門科医師が本来の外来・処置に集中出来た件数の推計、退院調整への関与の有無による在院日数・再入院率の比較、感染対策や入退院支援など横断的関与による安定的な報酬加算への貢献——これらを四半期毎に院内データで追う等して、経営トップが率先して周囲に働き掛ける事が、部門の持続と成長を支える土台になる。

退院後の再入院率を決める「線のケア」という戦略

総合内科の価値は、病棟の内側だけに留まらない。患者が退院した後にこそ、その真価が病院経営に跳ね返ってくる。

急性期病院で治療を終えた患者が短期間で再入院する現象は、医療資源の消耗であると同時に、地域に於ける信頼を損ない兼ねないリスクでもある。その背景に在る「点の医療」——入院・退院・在宅移行の各場面で別々の医療者が関わり、情報と判断が断絶する構造——は、総合内科無しには解消が難しい。

同シンポジウムで、おうちの診療所の綿貫聡氏は、退院後に20種類を超える内服薬が継続されていた患者の事例を紹介した。複数の医療機関・診療科からの処方が積み重なったポリファーマシーであり、薬剤師との連携で薬剤を3分の2に削減したところ、傾眠やふらつきが顕著に改善したという。「地域に於ける信頼を繋ぎ留めるには点での介入だけでなく、線を意識したケアに移行する観点が重要」と綿貫氏は述べる。

同シンポジウムでは、外来領域に於ける総合内科の役割も論点となった。生坂医院副院長の生坂政臣氏は、症状は有るが医学的に説明が付かない患者が増加しており、そうした患者への過剰な検査・処方が繰り返される事で、難治化が進むという構造的な問題を指摘した。「出来高払い制度の下では、医学的根拠が乏しい場合でも医療対応へ陥り易い。この悪循環を回避するには、相当な施策とトレーニングが必須だ」と生坂氏は述べる。

では、病院側は何を整えるべきか。入院早期から、総合内科医・退院支援看護師・ソーシャルワーカーが連携して再入院リスクを評価し、退院後の選択肢を複数並行して調整する事だ。山田氏が「ソーシャルワーカーと一緒に近隣医療機関を訪問し、顔の見える関係を作りながら各機関の特徴を知る様にしている」と述べた様に、日常的な関係の構築が退院調整の速度と質を決定的に左右する。次に、退院後7日・30日の状態を病院側から確認するフォロー体制を定常化する。そして、地域クリニック・在宅診療所との定期カンファレンスを重ね、綿貫氏の言う「普段から関係と実績を積み上げる」——この3段階が機能する事で、平均在院日数の短縮と再入院率の低下が同時に実現する。

総合内科医を「育てる病院」が地域で選ばれ続ける

こうした取り組みを根付かせるには、総合内科医を「育てる」戦略を経営の中心に据える必要が有る。同シンポジウムで、川島氏は「総合内科で学びたい人は多いが、総合内科を背負いたい人は限られている」と率直に述べた。担い手を確保し続けるには、病院の幹部が総合内科の価値を院内外に語り、温かくサポートする姿勢が不可欠だ。川島氏は「存在意義を教育する事によって医師の確保、若しくは医療従事者の確保に繋がる可能性が有る」とも述べる。又、総合内科が若手医師の採用・育成・配置に於ける中核的な役割を果たす事で、内科全体の人材育成に寄与し、「ここで学べる」という評判が院外への招聘力にもなる。自治医科大学地域医療学センター・センター長の松村正巳氏も、開会に当たり「1人1人の生活の質に配慮し、全身を診る臓器横断的な診療を行える内科医の育成」が超高齢社会の急務であると強調した。

若手の総合内科医の採用だけに頼る必要は無い。日本専門医機構理事長の渡辺毅氏は同シンポジウムで、臓器別専門医が年齢と共に地域のジェネラリストへ移行する為の「リスキリング教育」の検討を機構として進めていると明かした。「或る年齢になれば、地域に戻ってジェネラリストになっていく事が大事」と渡辺氏は述べ、各専門領域に対するリカレント教育体系の整備を訴えた。院内の専門医が総合診療的マインドセットを再獲得するキャリアパスを設計する事は、中長期の医師確保の戦略として、病院単独でも着手出来る取り組みだ。

総合討論でも、総合内科医の役割の広がりは改めて確認された。川島氏は「COPDは呼吸器内科だけでは診られない、心不全も循環器内科だけでは対応し切れないというステートメントが既に出ている。そこで最適な医療を提供出来るのは、実は総合内科である場合が意外と多い」と述べた。シンポジウムの司会を務めた松村氏は、「地域や病院の違いによって総合内科診療が様々な形で実践されている一方で、その根底には、多様なニーズを持つ患者さんと向き合って全体を診るという姿勢と、内科医としてどの様なマインドセットで患者と向き合うかという点が通底している」と総括した。

総合内科医を支え、病院の底力を強化する

総合内科医は、単に診断の難しい患者を引き受ける医師ではない。高齢多疾患患者の全身状態を把握し、複数の診療科の判断を繋ぎ、退院後の生活まで見据えて医療の流れを整える存在でもある。そして病棟と外来、病院と地域を繋ぐのが、総合内科医の本質的な役割である。

その価値は診療報酬では測り切れない。専門科の負担軽減、在院日数の適正化、再入院抑制、医師育成、地域連携という複数の効果で病院全体を底上げする。経営者は総合内科を採算部門ではなく、病院の持続可能性を支える戦略的基盤として位置付けるべきである。

「2040年問題」を見据え、高齢多疾患患者へ体系的に医療を提供出来る病院が、地域で選ばれ続ける。その実現には、総合内科医が力を発揮出来る環境を整え、病院全体の底力を引き上げる取り組みが不可欠である。

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