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第126回 新型コロナを巡る「3段構え」は在り得るか

第126回 新型コロナを巡る「3段構え」は在り得るか

 11月に入り、新型コロナウイルスの感染者が再び激増した。12月9日には、全国では2738人の感染が発表され、1日に発表される人数の過去最多を更新。入院している「重症者」は555人となり、3日連続で過去最多を更新した。治療薬への期待が一層高まるのは疑いないが、かつてそうした「期待」を担っていたはずの武田薬品工業の動きは、メディアの報道を追っていくと実に奇怪至極に映る。

血漿製剤最短9カ月開発の行方

 『日経』が「武田薬品、新型コロナ治療薬開発へ 最短9カ月で」という見出しの記事を報じたのは、3月4日のこと。続いて『ブルームバーグ』が同月17日の配信記事で、武田が「開発を進めている血漿(けっしょう)由来製剤について、一番早く当局からの承認を得られる可能性がある」とし、「既存の血漿製剤用の生産設備があるため」、「最短9カ月で承認を得られる可能性がある」と報じたからたまらない。

 『産経』も「最短で9カ月での実用化を目指し」「国内で開発担当者ら10人で構成する対策チームを立ち上げた」(3月27日付)等と景気よくフォロー。誰しも武田が独自でコロナに効く「血漿製剤」を驚異的に短期間で開発してくれるものと考えたに違いないが、ほどなくして話が怪しくなる。

 早くも翌月には、武田が「血漿分画製剤領域や生物学的製剤の開発などに強みを持つ米国、欧州のバイオ企業と提携契約を結んだ」(『日刊工業新聞』電子版4月9日付)という報道が出回り始める。さっそく『産経』が「1企業の収益よりも、製薬会社としての(早期開発の:筆者注)使命を優先させた格好だ」(4月27日付)等と解説に及んだのはご愛嬌だが、なぜかあっという間に「独自開発」が消えたのは間違いない。

 それでも、武田が「世界の製薬13社で開発する新型コロナウイルス感染症治療薬について、最終段階の臨床試験(治験)を始めたと発表した」(『日経』電子版10月9日付)等と報じられたら、血漿製剤の開発に向け進捗を期待する気運が削がれはしないかと思われた。

 だがその裏で、8月の段階で武田が米バイオ医薬品のノババックスが開発中の「新型コロナウイルス感染症ワクチン『NVX‐CoV2373』の日本における開発、製造、流通に向けた提携で基本合意したと発表した」と、『ロイター通信』が8月7日の配信記事で報道。この記事は、既に武田が「(開発に成功した場合)ノババックスからのワクチン製造技術の移転、生産設備の整備及びスケールアップの資金として、厚生労働省から助成金を受ける」という決定がなされるかのような内容になっている。

 単独は論外としても、「13社」が束になっても最短9カ月でコロナに有効な「血漿製剤」を開発出来るのは奇跡的なのに、いつの間にかワクチンに移行し、根本的に「製造技術」が異なるワクチンの「生産設備」を着工して、しかも厚労省からそのための資金の「助成金」までもらうのだという。ならば、「13社」による共同開発はどうなるのか。それ以前に、この「米バイオ医薬品」企業のワクチンがそれほど有望なら「血漿製剤」の開発意義はあるのだろうか。

 このノババックスは、「(開発中の)ワクチン候補が米食品医薬品局(FDA)からファストトラック(優先承認審査制度)指定を受けたと発表した」(『ブルームバーグ』11月10日付配信記事)とか。こちらは期待が持てそうだと思いきや、またも話の理解が追い付かなくなる。今度は、「厚生労働省は10月29日、米モデルナと武田薬品との間で、来年前半から新型コロナウイルス感染症ワクチン5000万回接種分の供給を受ける契約を締結した」(『薬事日報』電子版11月2日付)のだという。そうすると、ノババックスはどうなるのか。

 この記事によると、厚労省は「既に米ファイザー、英アストラゼネカとはワクチンの供給で基本合意していたが、最終契約に至ったのは(モデルナが:筆者注)初めて」という。ならば、「ワクチンの供給」と、報じられていたノババックスのワクチンの「日本における開発、製造、流通に向けた提携」とは、全く別件なのだろうか。

 そうだとしたら、武田は欧米の「13社」と「血漿製剤」を開発する一方でワクチンにも手を出し、米社とワクチンの「日本における開発、製造、流通に向けた提携」をするのに飽き足らず、更に自社が「開発」に関与していない別の米社のワクチンの「供給を受ける」事になる。こんな「3段構え」が、果たして在り得るのか。

 そもそも武田は、最初に「新型コロナウイルス感染症治療薬として開発中の高度免疫グロブリン製剤『TAK‐888』について、年内の国内申請を目指す」(『薬事日報』電子版5月19日付)と伝えられていたはず。肝心の「TAK‐888」の開発状況は、今やどうなっているのだろう。

モデルナとの不可解な契約

 しかも、そうした武田の「3段構え」に劣らぬ不可解さが、モデルナとの契約内容なのだ。

 11月13日に開かれた衆議院厚生労働委員会。立憲民主党の川内博史議員が、ワクチン供給の際、誰がモデルナと武田に契約金を払うのかと質したところ、厚労省の正林督章健康局長が「一般社団法人の新薬・未承認薬等研究開発支援センターを通じてだ」と答弁。「公募して1社だけが応募してきた」と述べたが、川内議員は「公募期間は6月12日から29日なのに、公募の業務を示す『交付要綱』が提示されたのは29日で、『交付要領』は30日だ。これで公募が出来るのか」と追及した。

 回答不能で審議中断後、正林局長は「12日に『要綱』の概略を発表している」と答弁。川内議員は「いかにも苦しい。概略だけ見て、この種の業務に公募出来るはずがない。最初からこのセンターに決めるつもりだったのでは」と詰め寄ったが、局長は否定した。

 同センターの代表理事は日本医学会前会長の髙久史麿・地域医療振興協会会長。専務理事・理事計10人のうち8人は製薬大手の元または現職の役員か日本製薬工業協会元役員だ。理事の中に武田の北澤清・元常務取締役も入っている。「公募」等建前にすぎないのは明白だが、なぜ「資金管理団体」と称し、契約相手のモデルナと武田に契約金を払うのに、武田の役員が〝天下る〟同センターをわざわざ通さねばならないのか不可解だ。

 いずれにせよ、メディアは報道をたれ流すだけで、個々の報道の整合性を気に留める気配がない。それでも、せめて「最短9カ月で承認を得られる」と武田が3月の段階で豪語した「コロナ治療薬」についてぐらい、年内にも検証記事を出してもよさそうだが。     (敬称略)

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