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トウモロコシ「大量買い」で米国に媚び売る安倍首相

トウモロコシ「大量買い」で米国に媚び売る安倍首相

トランプ再選戦略に応じ日本車高関税化を回避する策か

 「日本はそのうちすぐに、米国の農産物を大量に買うだろう。彼らは以前、言ったんだ。『我が国は米国の農家から大量の農産物を買うことになるでしょう』とね」。

 トランプ米大統領は6月11日、米アイオワ州南西部のカウンシルブラフスで演説した際、このように述べた。アイオワ州は、米大統領選挙で民主・共和両党が拮抗し、勝利する候補者の党がよく変動する「スィング・ステイト」の1つ。再選を目指す大統領にとっては、絶対に落とせない選挙区だ。そのため演説は来年の選挙戦を意識し、農業州アイオワの農民層の歓心を買う姿勢が露骨で、そこで飛び出したのが冒頭の「日本による大量買い」の一節だった。

 無論、当の日本ではこの時期、政府から「大量買い」の情報が伝えられた形跡はない。参議院選挙を目前にして、この種の情報は農村部の票が相対的に多い1人区の選挙事情に与党不利の影響を及ぼすからだが、自身の選挙事情のため口から出たトランプの「内輪話」は、首相の安倍晋三以下の自民党幹部にとって迷惑だったのは疑いない。

「トウモロコシ供給不足」は作り話

 実際、それから約2カ月半後の8月25日、フランス南西部・ビアリッツでのG7(先進7カ国)首脳会議におけるトランプ・安倍会談後に突然、「日本の飼料用トウモロコシ275万㌧の輸入」という驚くべき発表が飛び出した。トランプのアイオワ演説との関連性は明白で、とうに日米間では決定済みだったはずだ。もしこれが参議院選挙前に公にされていれば、与党にとって「32の改選1人区で10敗」程度では済まなかったのではないか。何しろ、内容があまりにデタラメ過ぎるからだ。

 そもそも、年間輸入量の3カ月分に相当する275万㌧もの新たな需要は存在しない。である以上、輸入すべき根拠がないのだ。批判を恐れてか、官房長官の菅義偉は8月27日の記者会見で次のように述べている。「本年7月から蛾の幼虫がトウモロコシを食い荒らす被害が広がっており、現在11県で確認され全国的に拡大する可能性があるとのことです。このため飼料用のトウモロコシの供給が不足する可能性があることから、農水省において海外のトウモロコシの前倒し購入することを既に8月8日に公表しております」——。

 だが農水省の植物防疫課によると、「被害はわずか」という。飼料用トウモロコシの国内生産は約450万㌧程度で、275万㌧もの輸入が必要なほどの「供給が不足する可能性」などというのは、菅の作り話にすぎない。

 米国はトランプ自らが引き起こした中国との貿易戦争で、かつて輸入トウモロコシのほぼ100%を米国に頼っていた中国の市場を経済摩擦などで失い、余剰農産物の処理に頭を抱えていた。選挙事情もあり、早い段階で日本に買い取りを促していたのは間違いないだろう。会談後の記者会見でトランプが上機嫌だったのに対し、安倍は終始落ち着かない表情で、トウモロコシについては「買うのは民間で、政府ではない」などといつもの虚言癖を見せつけたのは、少しは後ろめたさを感じていたということか。

 需要もないのに「民間」が大損覚悟で275万㌧も買い込むはずがなく、政府が関与するから共同記者会見で発表したのだ。政府が輸入支援措置として数百億円規模の補助金を出し、商社に買わせるしか方法はない。しかも、中国は一時期、500万㌧ものトウモロコシを米国から輸入していたから、今後この水準で済むかどうか不明だろう。

 健康への悪影響が懸念されている遺伝子組み換えのトウモロコシを大量に輸入した後、どうやって処理するつもりか。しかも安倍がこれほど卑屈にトランプの言いなりを続けるなら、今後同じように余っている同じ遺伝子組み換えの小麦や大豆についても押し付けられるのは避けられそうにもない。

 さらに問題はこのトウモロコシ輸入が、共同記者会見で「大枠合意した」とされて9月の首脳会談で協定案の署名がスケジュールにのぼっている日米貿易交渉とは、「別枠」であるという点。本命は日米貿易交渉であり、米国側は本来協定案署名を5月と見込んでいたが、安倍が「参議院選挙後に」と泣きついてズルズルと引き延ばしていた。無論、内容が理不尽にも日本に不利だからだ。

理不尽な譲歩強いられる日米貿易交渉

 ビアリッツでの首脳会議でも農産物を中心に「個別品目の具体的な関税引き下げ幅は明らかにしておらず、今後の焦点となる」(『東京新聞』8月26日付)などと報道されているが、大方結論は決まっている。日本が米国の言いなりに不利を押し付けられる内容であるのは、トウモロコシの一件からも容易に予想がつく。

 既にロビイスト上がりのライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、貿易交渉で「70億㌦以上の市場開放に繋がる」と述べているが、言い換えれば今後、数百億円どころか数千億円分の余分な買い物を日本は強いられかねない。日本の米国農産物の輸入は年間約140億㌦(約1兆5000億円)に達しているが、その半分をさらに上乗せすることになるのだ。

 日本が関税撤廃の例外にしようとした「聖域5品目」(コメ、麦、牛・豚肉、乳製品、甘味資源作物)がなし崩しにされるなど、農業の存立基盤を狭めた環太平洋経済連携協定(TPP)が本来大問題で、日本の農畜産業に大きな打撃を与える。ところが、メディアの報道で日米貿易交渉がその「TPPの水準にとどまった」から評価できるかのような向きもあるが、明らかにおかしい。

 トランプは一方的にTPPから離脱したが、11カ国が参加するTPPによって牛肉の関税は38・5%から9%にまで下げられ、豚肉の高価製品は4・3%からゼロになり、これが遅れた分不利にならぬよう、米国産製品には段階的ではなく一挙に適用される。また、コメや乳製品の輸入枠も再協議されるだろう。

 そもそも、米国の対日貿易赤字の8割以上は、自動車から由来する。日本向けの農産物輸出を1・5倍拡大したからといって、赤字削減効果はささやかでしかない。それでも、トランプ流の「日本車への関税を25%かける」といった無理筋の脅しがいつ現実になるか分からないからか、安倍はひたすら米国の要求を呑み続ける構えのようだ。食料自給という国益など、眼中にはあるまい。

 日本の輸入車の関税はゼロであり、TPPの日米合意でようやく米国の普通自動車の関税2・5%を25年後、大型車の関税25%は30年後(それも日本が安全基準の緩和を履行するという条件付き)にそれぞれ撤廃することが決まっていた。それもつかの間、今回の日米貿易交渉で消滅が避けられなくなった。これで、どうして「TPPの水準」なのか。

 テレビが扇動し国を挙げて狂ったように隣国への罵声に興じている現在、かくも米国に媚びを売る安倍への批判の声は乏しい。もうこの国に、「外交」を求めるのは無理なのか。(敬称略)

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