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未来の会

コロナ禍で問われる医師としての生き方

コロナ禍で問われる医師としての生き方

新型コロナウイルス感染症は、医療の世界のみならず、社会のすべての領域、そこで暮らす人達に大きな影響を与えている。

 経済、教育、文化や芸術など、どの分野もこの世界的に流行している感染症と直接、間接的に向き合い、ときに悲鳴を上げることになったのである。

 私は大学教員も務めているが、前期はすべてオンライン授業となり、入試をパスして入学した新入生は未だ一度もキャンパスに来ることができないままだ。北海道や中国からオンライン授業に参加している学生もいる。

 医師や看護師も、世界中でかつてないほどの注目を集めることになった。コロナ最前線で治療に取り組み、ときに自分も感染して命を落とす欧米の医療従事者の様子がテレビなどで取り上げられた。

 世界の各国で、外出自粛中の自宅前から拍手を送ったりタワーをライトアップしたりして、病院で奮闘する人達への感謝の表明があとを絶たない。

 ニューヨークではコロナ病棟で働く医療従事者にホテルが無料で部屋を提供しており、日本でもそれに続く動きが起きている。

かつてない状況に身を置く医療従事者

 一方で、コロナ感染のリスクを恐れ、医療従事者への差別も報告されている。タクシーへの乗車を断られた、保育園が子どもの預かりを拒んだなど、考えられないようなことが起きている。

 また、「高齢の親に万が一、感染させたら」と実家に顔を出すのを控えたり、小さい子どものいる自宅に帰らず院内の当直室で寝泊まりを続けたりしている医師もいると聞いた。

 さらに深刻な問題に直面しているのは、かかりつけ医として人々の健康を日常的に支えているクリニックだ。多くのクリニックで、患者さんの「受診控え」が起きている。

 「今までが多忙過ぎたので、余裕を持って診療できるようになった」という程度ならまだよいのだが、中には経営が難しくなるほどの深刻な影響が出ているところもある。高齢のドクターの中には、この機会に閉院を決める人も少なくないようである。

 ただ、そういったかかりつけ医の中には、「もっとPCR検査を」と立ち上がり、地元の医師会が設置したPCRセンターでの業務を買って出ているドクターもいる。

 テレビのニュースを見ていたら、整形外科医が「こういう状況ですから専門が違う、などと言ってはおられない」と個人防護具の講習を受けて、センターでのPCR検査業務に備えていた。本当に頭が下がる。

 いずれにしても、医療従事者はかつてない状況に身を置くことになった。それだけは確かだ。

 今回の新型コロナウイルスに関しては、幸いにして日本では欧米のような感染爆発は起きておらず、流行は時間とともに収束していくのかもしれない。

 しかし、次の秋や冬に第2波が来ることも予測され、また新たな感染症が広がらないとも限らない。「こんなことは何百年に一度なんだから、しばらくはないだろう」とは誰にも言いきれないのだ。

 この感染症は、私達医療従事者に「あなたは何のためにこの仕事を選んだのか」という問いを突き付けていると思う。

 もちろん誰もが「患者さんの健康を守るため」と答えるはずだが、それでもさらに「自分の健康や命とも引き換えにできるほどの使命感はあるのか、あるいは最優先は家族との生活で、それが損なわれない限りで仕事をしたいのか」など、問いは続く。

 「お金を求めるのか、それともやりがいか」といった問いもありそうだ。

 他の仕事であれば、「バランスよくやりたい」という答えもある。

 しかし、医療従事者は今回のような非常事態となれば、「バランスよく」などと言ってはいられない状況に追い込まれる。

 そういう意味で、やはり「外資系の投資会社で働くこと」と「医師として患者さんの命を守る仕事をすること」は決定的に異なるということに、私達は気づかざるを得ないのではないか。

 そして、社会が医療従事者に対して「最後に頼りになるのはあなた達」と大いなる期待を抱いている、ということもわかったはずだ。

日本に欠けている医師兼ジャーナリスト

 さて、その中で自分は医師として、あるいはナースやその他の医療従事者として、これからどのような働き方をしていくか。自分がこの仕事を通して一番やりたいことはなんなのか。ぜひ読者の方々にもこの機会にじっくり考えてみてほしい、と思う。

 私自身は、長くこうしてメディアで発言する場を与えられていながら、今回、専門家の話をわかりやすく一般の人に伝えるコミュニケーターの役割を十分、果たせずにいることを反省している。

 CNNなど海外のメディアを見ていると、医師の資格と経験を持った人達が「ジャーナリスト」という肩書きも併せ持って、正しくわかりやすくいま起きていることを視聴者に解説している。

 煽情的でもなければ楽観的過ぎもせず、「事実はこうです。いまの問題点はこれです」と落ち着いた口調で語る“医師兼ジャーナリスト”達を見て、「日本にはこうした存在が欠けている」と実感した。

 日本ではテレビの情報番組に出る医師は、時として「本当の専門家なら出演の時間もないはずだ」などと批判されるが、「私の専門は、医学や医療と一般の方々をつなげる医学・医療コミュニケーションです」という医師がもっといてもいいし、その人達が世間から評価されるべきだろう。

 私も遅ればせながら、総合診療医の徳田安春氏と今回の新型コロナウイルス感染症やそれへの対策の問題点についてオンラインで対談し、そこで得た知見をさらにわかりやすい言葉にかみ砕いて発信する、という試みを始めた。

 これからは「コロナ後時代のメンタルヘルス」についても、専門家の分析や提案する対策を一般の人がすんなりわかる言葉に置き換える、という役割を果たしていきたいと考えている。

 さて、あなたはこれから医師として、何をどのようにしていくつもりか。

 今度はあなたが答える番だ。

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