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未来の会

「最後の砦」として期待される大学病院

「最後の砦」として期待される大学病院

〜コロナ診療での経営負担を乗り越え150周年へ〜

横手 幸太郎(よこて・こうたろう)1963年兵庫県生まれ。88年千葉大学医学部医学科卒業。同第二内科入局。89年東京都老人医療センター医員。92年ルードウィック癌研究所(スウェーデン)客員研究員。96年スウェーデン国立ウプサラ大学大学院博士課程修了(PhD)。98年千葉大学大学院博士課程修了(医学博士)。日本学術振興会特別研究員。99年千葉大学助手。2006年同講師。09年千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科教授。附属病院糖尿病・代謝・内分泌内科科長。11年附属病院副院長併任。15年千葉大学大学院医学研究院副研究院長併任。19年領域名改称に伴い内分泌代謝・血液・老年内科学教授。20年千葉大学医学部附属病院病院長、千葉大学副学長。

——新型コロナウイルス感染症の診療ではご苦労が多かったのでは?

横手 最初は「ダイヤモンド・プリンセス」号の患者さんでした。神奈川、東京で収容しきれない重症の患者さんを、こちらのICU(集中治療室)で受け入れたのが最初です。これまでに60人以上を受け入れています。地域の医療機関の中での役割分担として重症と中等症の患者さんを受け入れるつもりでしたが、軽症者をホテル等に収容するようになる前は軽症者もいました。新型コロナの患者さんを受け入れない病院もあったために、どうしてもそうなってしまったのです。ピークは4月末頃で、多い時で33人が入院していました。退院までの経過が長いので、30人程度でも現場はなかなか大変です。

——未知の病気という難しさもありますね。

横手 最初は診療する側が感染してしまうのではないかという心配もありました。現在は経験と新たな知識が身に付き、落ち着いて対応出来るようになりましたが、最初は大変でした。院内感染を起こさないために、ここは汚染エリア、ここはクリーンエリアと、しっかりゾーニングを行いました。それから患者さんの相互感染を防ぐために、4人部屋でも1人か2人で使う形にしました。当院は1病棟が46床で構成されていて、コロナ用に2つの病棟を使ったのですが、入院出来る人数は、1病棟で最大30人までです。2病棟で計92床あっても、入れられるのは最大で60人ですから、30床以上が使えません。当院の場合、1病床あたりの1日の診療報酬稼働額は9万円程度ですから、病床を空けておけば、1日でそれだけのマイナスになる計算です。

——診療に当たる医師は足りたのですか

横手 最初は感染症の専門家が診療に当たり、次に肺炎の診療に慣れている呼吸器内科や総合診療科の医師も対応するようにしました。それでも患者さんが増えてくると、医師が足りなくなってしまいます。そこで、全ての内科系診療科から数名ずつ医師を出してもらって「COVID診療チーム」を作り、対応するようにしました。

入院患者全員にPCR検査を実施した

——院内感染が出なかったのは素晴らしいですね。

横手 感染が拡大してくると、たまたま当院を受診した患者さんが感染しているという事も考えなければなりません。そこで、入院する患者さん全員にPCR検査を行う事にしました。感染している患者さんが1人でもいて、不用意に処置をしてスタッフが感染してしまったら、その人が患者さんに感染を広げてしまいます。そうした事は何としても防ごうという事で、病院に千葉大学の医学部と附属の真菌医学研究センターの機器や人手を動員し、院内感染予防のためのPCR検査を行いました。徐々に検査出来る数を増やしていき、最終的には1日100以上の検体に対応出来るようになりました。

——研究用の機器を新型コロナ感染の検査に使ったのですか。

横手 研究用の機器も一部活用しています。入院する患者さんを検査して、慶應義塾大学病院では陽性者が見つかったという話ですが、当院では千数百例検査して、幸いにも陽性者は1人もいませんでした。

——病床を空ける事で経営的にマイナスになる話がありましたが、他に経営面でのご苦労は?

横手 コロナの診療を行うとプラスアルファの出費があるわけです。PCR検査の費用がかかりましたし、治療や検査に携わって新型コロナウイルスに直接向き合ったスタッフに危険手当を出す、といった事もあります。そういった出費以外に、行える診療が減ってしまうのも問題でした。例えばICUにコロナの患者さんが5人くらい入ると、その周りを空けなければなりません。本来なら重症の手術を行った場合、病棟に上がる前にICUで回復させるわけですが、コロナの患者さんが入る事でICUの使用に制限がかかり、手術が出来なくなってしまうのです。がんですぐに手術をしなければならないとか、心臓血管外科の手術で今やらなければ命に関わるという場合は、もちろん手術をしますが、ちょっと待てる患者さんには、待ってもらう事になります。辛い症状でも、命に関わらなければ待ってもらうわけです。こうして手術が20%ほど減り、病院の減収にも繋がりました。こうしたマイナスがありながらも、コロナの患者さんを受け入れざるを得なかったのです。

——大学病院は期待されていますからね。

横手 国立大学病院長会議で集計したデータですが、コロナの重症の患者さんの入院先を調べたところ、81%が大学病院だった事が分かったのです。大学病院には最後の砦としての役目があります。大学病院が断ってしまったら、もうその患者さんを診るところはないわけですから。

副病院長を9年経験して病院長に

——診療以外にもコロナの影響はありましたか。

横手 医学部5年生6年生の臨床実習が、一時的に出来なくなりました。お見舞いも制限している状況で、実習生を受け入れるのは難しかったわけです。看護師、薬剤師、臨床検査技師も当院で実習を行いますが、もちろんそこにも影響がありました。文部科学省から通達があり、教育機関で柔軟に判断して卒業させていい事にはなっていますが、やはりしっかりしたスキルを身に付けさせてから卒業させたいという気持ちはあります。

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