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第171回 厚労省ウォッチング 「創薬先進国」を目標に掲げる日本だがその現状は……

第171回 厚労省ウォッチング 「創薬先進国」を目標に掲げる日本だがその現状は……

厚生労働省が2002年4月に医薬品産業ビジョン「『生命の世紀』を支える医薬品産業の国際競争力強化に向けて」をぶち上げてから20年。同ビジョンは10年後の将来像として製薬産業の国際競争力を高める事を掲げ、また後発医薬品の安定供給、品質確保を進める事を高らかに謳っていた。

しかし10年はおろか20年経った今も国際競争力は一向に育たず、国内メーカーは新型コロナウイルス感染症のワクチンや治療薬の開発で欧米勢に先行されている。後発品メーカーでは不祥事が相次ぎ、供給不足を招いて薬を命綱とする患者や家族を悲嘆させた。厚労省幹部は「結果的に絵に描いた餅だったと言われても仕方ない」と項垂れる。

同ビジョンの狙いは「長期収載品」で生き永らえる新薬メーカーを淘汰し、世界に通用するメガファーマを2〜3社育成すると共に、後発薬の市場育成による社会保障費抑制を主眼としていた。「遺伝子組み換え技術の開発を超える」ゲノム創薬で世界をリードするかの様な大風呂敷を広げていた。

ところが現状はどうか。11年、世界の医薬品売上高上位20社の内、日本勢は武田薬品工業、第一三共等の4社が名を連ねていた。それが21年は武田1社だけに。ゲノム創薬どころか、遺伝子組み換え技術を用いたコロナワクチンの開発でも世界1位を維持し続けるファイザー等、外資の後塵を拝し続けている。治療薬も塩野義製薬が予定していた承認申請は予定がずれ込み、海外製に頼らざるを得ない状態が続く。

一方、後発品も普及率こそ8割を超えたものの、「品質確保」「安定供給」にはほど遠い。20年12月には、小林化工の水虫治療薬に睡眠導入剤の成分が混入している事が発覚、その直後には、沢井製薬、東和薬品と並ぶ大手3社の1つ、日医工が不正な再加工に手を染めていた事等も判明した。行政処分によって長期間製造停止となり、空前の規模での医薬品の供給不足を招いて患者や医療機関を混乱に陥れた。

ライバルがこけた格好の沢井・東和両社も安泰とは言い難い。最先端化する技術で開発された薬品の特許が切れた時に、同じ効能の薬を開発出来る技術を保持していない可能性を否定出来ないからだ。

「ビジョン」の中には「承認審査の迅速化」など一定程度、実現した項目も有る。今年5月には医薬品を迅速に使える様にする「緊急承認制度」の創設を盛り込んだ改正医薬品医療機器法が成立した。ただ、コロナ禍において海外ワクチンに頼らざるを得なかった事で半ば泥縄式に導入されたものでもある。

昨年9月、厚労省は過去の反省もそこそこに「医薬品産業ビジョン2021」を策定、「世界有数の創薬先進国として、革新的創薬により我が国の健康寿命の延伸に寄与する」等と踏み込んだ。これ迄の低迷の原因について、「創薬環境の変化」等を挙げながらも、「国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の設立等に取り組んできた」と自賛している。岸田文雄首相は国内に世界最高水準の研究開発拠点を作る考えを示しているが、欧米メガファーマの背中は遠いのが現状だ。

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