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未来の会

医師業が「3K労働」に近づく可能性

医師業が「3K労働」に近づく可能性

新型コロナウイルス感染症は、私達の生活の津々浦々にまで大きな影響を与えた。特に医療機関は、様々なレベルで打撃を受けただろう。

 東京都にある聖路加国際病院は1月下旬から5月下旬まで、感染疑いも含め234人のコロナ感染症の入院患者を受け入れた。毎日新聞のインタビューに答えた同病院の福井次矢院長によると、医療スタッフの緊張や疲弊もさることながら、4月だけでも昨年に比べて約7億円にもなる収入減が深刻だという。

 これは人間ドックの休止、コロナ対応のために病棟を空けたこと、手術の延期、さらには外来患者の減少などが影響しているという。福井院長は「(政府の支援は)全く足りない」「(コロナ感染症の患者)1人当たり1000万円ぐらい補填してもらって、ようやく一息つけるぐらいです」と訴えている。

医療機関・医師が減収・差別を受ける時代

 病院ばかりではない。大学病院に勤務する若手や研修医、大学院に在籍しながら臨床に携わる無給医はもっと大変だ。感染リスクにさらされながら、個人防護具に身を包んでコロナ患者の治療に携わる。

 その結果、外勤(アルバイト先)から「院内感染を防ぐため、しばらくの間、内部スタッフだけでやり繰りします」と告げられ、生活の手段にも事欠く医師が出てきた。

 あるいは、その前に外勤先の病院で院内感染が発生してしまい、外来休診に伴って自分も行けなくなった、という人もいた。

 欧米ではそういう医療従事者達に感謝を伝えようという動きが広がり、住民がマンションのバルコニーや路上から拍手を送ったり、様々な企業が無償で物資を提供したりした。医療従事者は一気に社会のヒーローとなったのである。

 日本でも同様の動きはいくつかあり、5月29日には医療従事者に感謝の意を表すために、東京上空を航空自衛隊のブルーインパルスが展示飛行を行った。

 しかし一方で、コロナ感染症患者を受け入れる医療機関のスタッフに対して、心ない差別をする動きもあった。看護師の子どもが保育園での預かりを拒絶されたり、医師がタクシー乗車を断られたりしたケースもあったようだ。

 また、冒頭に記したような減収から、再起不能と判断して早々に閉鎖に踏み切る診療所なども出てきている。

 さて、日本では幸いにしてコロナ第1波は欧米のようなおびただしい数の感染者、犠牲者を出さずに収束しつつあるが、今後はどうなるのだろうか。

 第2波は数カ月以内に到来するともいわれており、ワクチンが開発されて一般の人達も接種が可能になるまでは、油断のできない状況が続く。

 病院や診療所は今後も感染源の1つと見られ、「不要不急の受診は控えよう」という動きは当分、なくならないだろう。

 そして、コロナの小さな波が生じるたびに、医療機関はその対応や検査に追われ、医療スタッフが疲弊するという状況が、今後もしばらくは続くのではないか。検査から治療に至るまでの何か画期的なシステムが早期に整えられるとは、とても思えないからだ。

 これは私の憶測にしかすぎないのだが、これから特に医師業は「多くの人の尊敬を集められ、収入も高い安定した仕事」ではなくなるかもしれない。

 「ヒーロー」と敬意を表される時期もそのうちすぎるだろうし、コロナの波により収入は不安定化し、「感染のリスクがあるのでは」という偏見やそれに基づく差別はなかなかなくならないだろう。

 つまり、医師業が「危険が多い、尊敬もされない、収入もそこそこ」といういわゆる3K労働に近づく可能性がある、ということだ。

 これはまったく割に合わない話である。大学の医学部はいまだに入試の“狭き門”であり、入学後は厳しい勉強が待っている。いまは途中でもOSCEなどの関門が待っており、さらに卒業試験、国家試験と多くのハードルを乗り越えないと医師免許が手に入らない。

 その上、2年間の初期研修、そして後期試験や専門医試験など、いったいいつまで努力を続ければ一人前になれるのか、と息切れする人も少なくない。

 ただ、これまではそうやってなんとか医師として独り立ちできるようになれば、勤務医をするにせよ、開業するにせよ、ある程度の収入を手にすることはできた。「医者です」と名乗れば、世間の人達は「すごいですね」と敬意のまなざしを向けてくれた。

 しかし、これからはそれすらなくなり、「年収300万のフリーター医師」なども出てくるのではないか。

 また、「コロナも診ている医者なんですか。悪いけど宿泊はお断りします」など、露骨な差別を受ける場面もさらに増えるかもしれない。

 さて、そうなっても自分は医師を続けるか。あるいは子弟を医学部に進ませるか。大きな決断を私達はしなければならない時が来そうだ。

「ひとの命を救いたいか」

 社会的なメリットが少なくなった時、それでも医師の仕事を続けるのはなぜか。その時、問われるのは、「ひとの命を救いたいか」というとてもシンプルな使命感なのではないだろうか。

 もともと、医学部を目指す多くの若者は、「どうして医者になりたいの?」と問われて、「病気の子どもを治してあげたいから」といった素朴な人助け願望を理由として挙げていたはずだ。

 それが、実際に医学部に行き、医師として仕事をし始めると、いつの間にか最初の動機を忘れ、先進医療の研究に打ち込む人もいれば、ビジネスとしての医業に夢中になる人も出てくる。医院や病院の経営者となると「スタッフを食わせていかなければ」という使命感も強くなる。

 しかし、今こそもう一度、自分に問い直すべきだ。「収入が減っても、世間から尊敬されなくなっても、私は医師の仕事を続けたいだろうか。それはなぜ?」。

 「そのうちまた元に戻るさ」では、この仕事を続けるモチベーションも失い、もしかして路頭に迷う日がやって来るかもしれない。それだけは言っておきたい。 

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