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メディカルシステムネットワーク

メディカルシステムネットワーク
調薬局事テコ役が主導した
集中率操

 「二度あることは三度ある」という諺通りだ。クオール、アイセイ薬局と続いた付け替え請求事件が、医薬品流通支援会社「メディカルシステムネットワーク(メディシス)」(東証一部上場、本社・札幌市)の中核事業である調剤薬局を展開する子会社「シー・アール・メディカル」(本社・名古屋市、10月1日付で「なの花中部」に商号変更)でも起こっていた。

 同社の取締役が社員とその家族から「欲しい薬」を募り、知り合いのクリニックに無診察で処方箋を書かせて自社の薬局に持ち込んでいたというのである。処方箋を書いた医師が「もうやめたい」というまで1年も続けていたという悪質さだった。

 メディシスは9月16日、「子会社のシー・アール・メディカルの事業部長が医師に頼み、従業員とその家族の処方箋を無診察で公布してもらい、自社の調剤薬局『なの花薬局』で調剤していた」と発表した。

医師にも無診察処方を唆す

 事件は、薬剤師である取締役事業部長が従業員とその家族に「欲しい医薬品はないか」と希望を募って13人からの要望と保険証のコピーを集め、薬局長時代に勤務していた薬局の側で、自らが受診したこともある三重県鈴鹿市のクリニックに持ち込み、無診察で処方箋を書いてもらい、東海エリア内の自社の薬局5店舗に振り分けて医薬品を調剤させ、従業員に渡していたという内容だ。

 13人は薬剤師2人を含む従業員10人と家族3人で、そのうち9人は処方箋を書いたクリニックでの受診履歴があるが、残り4人は本人が直接受診したことはなかったという。

 調剤された医薬品は花粉症向けアレルギー薬や点鼻薬、風邪薬、目薬、胃腸薬、漢方薬などで、不正は2016年2月から約1年間続き、その間に無診察で発行された処方箋は80枚。この処方箋に基づいて得た調剤報酬36万円については保険請求を取り下げ、返済した、という。

 メディシスは「事業部長は『仕事が忙しくて受診出来ない従業員を思いやって軽率な行為を行ってしまった』と語っているが、医師との個人的な関係に甘え、無診察医療行為を依頼していたのは言い訳出来ない軽率な行為と言わざるを得ない」と陳謝した。

 だが、この話を素直に受け取れるだろうか。

 まず、主導した取締役事業部長は薬剤師である。クリニックから受け取った処方箋を自社の薬局5店舗に割り振りしたという。しかも、13人分の診察料金、調剤料金は全て取締役が立て替え、従業員に薬を渡した時に受け取っている。これは「付け替え請求」そのものだ。

 第二に、仕事が忙しいのは薬局だけではない。一般のサラリーマンも事業主も忙しいが、身体の具合が悪ければ、クリニックに行く。医療人である薬剤師は無診察で処方箋を受け取る特権があるとでも思っていたのだろうか。

 第一、調剤した5店の薬局は薬歴記載、処方箋に基づいた薬学的管理指導、服薬状況の確認をしていない。これは薬剤師法、薬担規則(保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則)に違反している。

 加えて、親しい医師に頼んだというが、医師にとって無診察処方は医師法で禁止されている行為だ。医師法違反をせた行為でもある。

 クオールとアイセイ薬局の付け替え請求では、従業員に受診させ、クリニックが処方した処方箋を集めて付け替えしていたのと比べ、より一層悪質だ。

80枚の処方箋を5店舗に分散

 さらに、何よりも利益を上げるために「処方箋集中率操作」をした疑惑が濃厚だ。医療費抑制のために、また調剤チェーンの儲け過ぎに対する批判から、16年度調剤報酬改定で新たに「調剤基本料3(20点)」が新設された。

 それまでの調剤報酬は41点の「基本料1」と25点の「基本料2」だったが、グループ全体で処方箋応需枚数が月4万枚を超える調剤チェーン傘下の調剤薬局で1医療機関からの処方箋集中率が95%以上の場合は新設された「調剤基本料3(20点)」が適用されることになった。医療機関の門前に調剤薬局を構えるチェーン薬局では多くの薬局が「基本料3」に該当し、売り上げ減少を招いている。

 その売り上げ減少を回避する手っ取り早い手法が処方箋集中率を低くする方法だ。他の医療機関の処方箋をより多く集めて処方箋集中率を低くすれば、「基本料1」になり、倍の41点を稼げる。クオールとアイセイ薬局が行ったのが、この集中率操作という不正だった。メディシスも同様の不正操作を行った疑惑が濃厚なのである。

 事実、処方箋が持ち込まれた調剤薬局5店舗のうち、3店舗で集中率が低下し、今年4月から1店舗は「基本料2」から「基本料1」になり、2店舗では「基本料3」から一気に「基本料1」に上昇していた。

 メディシスは「基本料2から基本料1になった1店舗は無診察の処方箋がなくても、基本料1の要件を満たしている」と言うが、少なくても2店舗は持ち込まれた処方箋で「基本料1」を獲得。クオールやアイセイ薬局では成功しなかった集中率低下操作を成功させていたのである。80枚の処方箋をわざわざ5店舗に分散して調剤させたのは、どう見ても調剤基本料の引き上げ目当ての集中率操作としか見えない。

 メディシスは「集中率を引き下げる努力はかかりつけ機能を高めるためにも日常的に行っている。本事案はあくまで業務多忙な従業員を気遣って行ったもので、結果的に2店舗で調剤基本料に影響が生じたが、決して集中率操作を目的としたわけではない」と、たまたま集中率が下がっただけだと説明する。だが、この話を素直に信じられるだろうか。

 この処方箋集中率操作疑惑では、無診察で処方箋を集めた時期にも注目すべきだ。メディシスによれば、「16年2月から医師が『やめたい』といった時まで約1年間続いた」と説明している。

 処方箋集中率は3月から翌年2月までの実績で判定し、その判定に基づいて4月から調剤基本料が決まる。クオールの場合でも判定の最終月の2月に不正処方箋が集中していたが、2月から約1年間というのは、まさにこの判定に合わせたと見られる。

 メディシスがいかに「従業員を気遣った行為」で「たまたま集中率に影響しただけ」と強調しても説得力はない。調剤薬局部門の利益を上げるための集中率操作と言うしかない。

 それというのも、メディシスでは調剤報酬の改定、高額薬の薬価引き下げで調剤薬局部門は売り上げ減、利益減に見舞われているため、売り上げ増、利益増が必要だった。

主軸の調剤薬局事業の利益が低下

 メディシスの主力事業は、個人薬局や小規模チェーン薬局をネットワーク化し、医薬品の購入価格交渉や受発注・決済の代行、薬局で眠っている不動在庫医薬品の薬局間ネット売買、薬剤師の教育サポートなど、医薬品流通支援事業だ。

 ネットワークの加盟店は1770件(17年3月期)を超え、今年度末には2200件を目指しているが、事業そのものは中小薬局向けのニッチ事業だ。

 もう一つの主力事業は調剤薬局である。393店舗(9月現在)を数え、アインホールディングス、日本調剤、クオール、総合メディカル、メディカル一光などと共に大手調剤薬局に名を連ねている。

 三つ目の事業はサービス付き高齢者向け住宅に調剤薬局やクリニック、介護事業を集積した複合施設で、四つ目の事業は治験施設支援(5月に売却)や訪問介護などだ。

 この4本柱とされる事業で、メディシスを支えているのは、調剤薬局である。メディシスの総売り上げは888億円6500万円(17年3月期)に上るが、本業ともいうべき医薬品流通支援事業の売り上げは32億円3700万円、営業利益は17億1800万円にすぎない。

 一方、調剤薬局部門の売り上げは816億5000万円で同社の総売り上げの92%も占めている。営業利益も23億円に上り、同社の屋台骨を支えているのである。医薬品流通支援事業と称した事業も、実態は調剤薬局事業と言っていい。

 ところが、メディシスを支えている調剤薬局事業は今、苦境に立たされている。

 抗がん剤「オプジーボ」とC型肝炎治療配合剤「ハーボニー」に代表される高額薬が問題になり、オプジーボは薬価を半額にさせられたし、ハーボニーは劇的な効果から患者数が減少し、調剤数量も減少した。

 さらに、医療費抑制が叫ばれる中で調剤薬局チェーンの儲け過ぎが問題視され、大手調剤チェーンを対象にした調剤基本料3の新設という引き下げが行われた。その結果、調剤薬局チェーンは合併や新規出店で売り上げこそ微増しているが、営業利益は減少を余儀なくされている。

 メディシスもその一つで、20店舗増のおかげで処方枚数こそ0・1%増だが、薬剤料は7・3%減、技術料も1・5%減となり、売り上げは0・4%減、営業利益は32・2%もの減少だった。特に技術料の減少は調剤基本料3の新設による引き下げ効果が大きい。

 この減少を食い止める方法が処方箋集中率操作だ。従業員とその家族をクリニックで受診させ、処方箋を集めて、「調剤基本料3」の薬局に付け替えて「基本料1」に格上げさせれば、濡れ手に粟で利益は大幅に上がる。

 クオールもアイセイ薬局も処方箋集中操作を行ったが、枚数不足で成功しなかった。だが、メディシスでは取締役が主導し、それも無診察という手段まで使って成功させた。

 どう見ても、「多忙の従業員を慮って」「たまたま調剤基本料1になった」という言い訳は通用しない。まして知り合いのクリニックの医師を巻き込んで無診察の処方箋を集め、基本料の引き上げを図った行為は許されるものではない。

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