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未来の会

「新型肺炎対応」でやる気回復の加藤厚労相

「新型肺炎対応」でやる気回復の加藤厚労相
保守系からの批判で「ポスト安倍」危機も

 「水際対策と蔓延防止対策を徹底し、国民の皆さんの命と健康を守るために全力でやっていく」

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、加藤勝信厚生労働相は2月9日のNHK「日曜討論」に生出演し、政府を挙げて対応に取り組む姿勢を強調した。加藤氏は週末の地元・岡山や地方出張の日程を全てキャンセル。NHKをはじめ3つのテレビ番組出演に加え、厚労省での対策の↘検討や安倍晋三首相への報告等に追われた。

 厚労省は1月16日に国内で初めて新型コロナウイルスの感染者を確認したと発表。感染拡大に合わせて体制を強化し、28日には省内に加藤氏を本部長、全部局長を本部員とする対策推進本部を設置して部局横断で対処する姿勢を整えた。この間、加藤氏は夜の会食日程や週末の地元日程をセーブし、新型コロナウイルス対応に奔走した。

 加藤氏の多忙ぶりに、国会も全閣僚の出席が求められる衆院予算委員会冒頭の基本的質疑に加藤氏の離席を認める異例の対応をとった。「感染症対策は時間との闘いだ。国会に出ていると決裁がうまくいかない事も予想される」(自民党の森山裕・国対委員長)として、答弁を求める予定がない議員が質問に立つ間、加藤氏は国会を離れられる事になった。与野党ともに加藤氏の事務処理能力の高さを認めており、長時間の国会審議に縛り付けるよりも、厚労省で陣頭指揮を執ってもらった方がいいとの判断だった。

 実際、厚労省内では加藤氏に対応の判断を求めるケースが少なくなく、「現場で決めてもいいような細かい決済まで大臣に持ち込まれる」(幹部)という。加藤氏は旧大蔵省のキャリア官僚出身で、保守の理念に↖走りがちな安倍首相の側近議員の中で唯一といっていいほどの政策通であり、首相の知恵袋として信頼も厚い。ミスを恐れて首相官邸の顔色を窺う厚労省の官僚達にとって、加藤氏は官邸からのプレッシャーの〝防波堤〟にもなっている。

 加藤氏は、省内の会議室に急遽設置された対策推進本部の事務局にポケットマネーで軽食などの差し入れも随時行っており、不眠不休で対応にあたる厚労官僚達に気を配る。自身の大蔵官僚時代に徹夜で予算編成作業にあたった際の経験を生かし、手に取りやすいような差し入れを自ら選んでいるともいわれる。

渋々受け入れた厚労相再任

 新型コロナウイルス対応で持てる力をいかんなく発揮しているようにみえる加藤氏も、昨年9月に第4次再改造内閣で2度目の厚労相に再任された時は意欲にやや欠ける面があった。

 自民党で総裁、幹事長に次ぐポストである総務会長を1年間滞りなくこなした事を踏まえ、昨秋の内閣改造・自民党役員人事では「経済関係の重要閣僚に抜擢される」との見方が強まり、経済産業相や経済再生担当相への就任が噂されたが、最終的には1年前まで務めていた厚労相に出戻り。前回の厚労相時代には、毎月勤労統計の不適切データ問題を巡り衆参両院の厚労委等で連日厳しい追及を受け、苦しい答弁ぶりが「ご飯論法」とも揶揄されており、周囲に「もう厚労相はやらなくていい」と繰り返していた中での再任だった。

 次期衆院選を見据え、国民の世論の動向に直結する年金や医療等の厚労省案件で〝炎上〟を避けるための人事ではあったが、永田町界隈では重要閣僚に就かなかった事により「ポスト安倍」から一歩後退したとみられ、一気に加藤氏への関心は薄れた。マスコミで取り上げられることも減り、報道各社の「次期首相候補」の世論調査で加藤氏と回答する人は1%以下に低迷した。

 加藤氏としては、盟友の田村憲久・元厚労相とともに自民党の厚労族議員を実質的に取り仕切る中堅の地位を確立しており、「厚労相にならなくても社会保障マターは動かせる」という自負がある。トラブル対応で評価が下がりがちな厚労相は是非とも避けたい役職だったが、「安倍首相から言われたポストは断らない」主義のため、渋々再任を受け入れたのだった。

 厚労省サイドは手堅い加藤氏が大臣に再任し、一貫して安心ムードが漂う。省内では「大臣レクでの指示は細かいが、説明の飲み込みが早い」「塩崎恭久・元厚労相や根本匠・前厚労相の時のように大臣直属の変な会議やプロジェクトチームを立ち上げたりしないので有り難い」等と評価する声が相次ぐ。

 気乗りしないながらも加藤氏は、昨年末の2020年度診療報酬改定の改定率交渉を巡り、麻生太郎・副総理兼財務相との直接協議で、医師の技術料等にあたる本体部分で前回と同水準の0・55%増を獲得。同時期に取りまとめた政府の全世代型社会保障検討会議の中間報告でも、財務省が画策した外来受診時定額負担等に踏み込んだ医療制度の見直しを突っぱね存在感を発揮した。ただ、これらは「社会保障で国民に過度の負担増は求めない」という政権の大方針があったため実現した部分もあり、加藤氏としては若干やりがいに欠ける仕事だったようだ。

後手の取り組みと判断力に疑念も

 そんな中、飛び込んできた新型コロナウイルス騒動。加藤氏を取り巻く環境は一変し、連日朝から夜まで余裕なく対応に追われる毎日となった。記者会見の様子がテレビで報じられる機会も増えている。厚労省登庁時には10階の大臣室まで階段を使い、64歳とは思えない元気ぶりをアピールする加藤氏も「さすがに疲れがたまっている」(中堅キャリア)という。

 その一方で、政府の新型コロナウイルス対応を巡っては「取り組みが後手に回っているのではないか」との批判が野党だけではなく、与党側からもくすぶる。安倍首相を熱心に支持する保守層には、中国の習近平・国家主席の国賓としての来日を控え、政権に中国への過度の配慮があるとみて「日本政府の緊急事態に対する危機管理能力がない事が露呈した」(作家の百田尚樹氏)といった厳しい批判も出ている。

 こうした不満が政府対応の責任者の一人である加藤氏に向かう可能性がある。現に産経新聞は社説で、加藤氏がクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」での新型コロナウイルスの感染者数を国内感染者数から分けて発表した事に対し、「感染数を抑えたいのかもしれないが、数にかまけるよりも水際対策に力を注ぐべきだ」と手厳しく指弾した。

 加藤氏は「あまり極端に規制し過ぎたら、今度は『人権侵害だ』と必ず逆の批判が出る」とのスタンスを貫く。クルーズ船を巡っても、船内の集団感染という特異な状況を海外へ積極的に発信しなければ「日本は感染者が急増した危険な国」といった誤ったイメージが出回り、かえって国益を損なうとみている。

 「ここで手柄を挙げたいとは思わない」と周囲に語る加藤氏。左右両陣営からの批判を乗り越えた先に、「ポスト安倍」への道筋が見えてくるのかもしれない。

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