SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

太田胃散

太田胃散
ブームに乗ってダイエット食品市場に参入するも
誇大広告で消費者庁から大目玉

 消費者庁は2017年11月、機能性表示食品(科学的根拠を基に機能性を表示することが出来る食品)の販売会社16社に対し、景品表示法違反(優良誤認)として是正の措置命令を出した。対象となった16社の19品目は、いずれも皮下脂肪と内臓脂肪を減らすのを助ける機能を持つとされる「葛の花由来成分イソフラボン」を含む機能性表示食品である。16社のほとんどが健康食品の通販会社だが、その中に混じっていたのが、誰でも知っている太田胃散だった。何やら怪しげな健康食品を売っていたかのようなのである。

美辞麗句や肥満写真が並ぶ宣伝文句

 太田胃散が販売していたのは「葛の花イソフラボン 貴妃」と「葛の花イソフラボン ウエストサポート茶」の2品目だが、確かにその宣伝文句がすごい。たるんだ腹部の肉をつまんだ写真と共に「気になるのはウエストにたっぷり溜まった脂肪や体重……」「失敗続きのダイエット」「ウエストが閉まらない」という言葉。細身のウエストにメジャーを巻き付けた写真に「そんなあなたに……」「体重やお腹の脂肪を減らす」と表記し、いかにダイエットに効果があるかとばかりに美辞麗句が並ぶ。読む方が赤面しそうなのである。

 機能性表示食品制度がスタートしたのは2015年4月。いかがわしい健康食品があふれることから、きちんと健康に役立つ成分が含まれるという証明を届け出ることで、機能性表示食品として販売を認めることになった。あやふやな健康食品を売るのではなく、効果があるならきちんと根拠を届け出て、正々堂々と売れ、というわけだ。

 さっそく、健康食品ブームに乗って、通販会社を筆頭に医薬品メーカーや食品メーカー、飲料メーカー、ドラッグストア等々がこぞって参入。テレビやネット、スマホに機能性表示食品の広告があふれ、ドラッグストアの店頭にも商品が山積みになっている。

 人気はダイエット効果を謳う機能性表示食品。中でも、皮下脂肪と内臓脂肪を減らすのを助ける機能を持つとされる葛の花由来成分イソフラボンを含む機能性表示食品が人気の的。イソフラボンを含む機能性表示食品を扱う販売会社は、ここぞとばかり宣伝に力を入れた結果、製造が注文に追い付かないと悲鳴を上げているともいう。

 この盛況ぶりに目を付けて参入したのが太田胃散だ。17年1月に「葛の花イソフラボン 貴妃」を発売し、3月から「葛の花イソフラボン ウエストサポート茶」を販売。自社ウェブサイトや楽天市場で宣伝を繰り広げていた。

 秋の七草である葛の根は解熱、鎮痛作用があることから漢方薬の「葛根湯」の原料になっている。しかし、誰も注目しなかった花の方にはイソフラボン(テクトリゲニン類)が含まれていて、内臓脂肪と皮下脂肪を減らす効果があるといわれている。

 この花に含まれるイソフラボンに目を付けたのが、機能性表示食品やトクホ(特定保健用食品)など健康食品・化粧品の製造・販売で日本一のODMメーカー(委託者のブランドで製品を生産するメーカー)、東洋新薬(本社・福岡県福岡市)である。同社は「葛のめぐみ」と名付けた粉末商品を作り、有効性試験を行い、16年3月にトクホの許可を取得した。

 しかし、自社では売らず、有効性試験結果を生かして健康食品を扱う会社に対し、葛の花由来イソフラボン含有の機能性表示食品として販売することを提案。研究レビューを提供し、代わりとしてイソフラボン含有の機能性表示食品の製造を一手に請け負っている。

 これは機能性表示食品を売りたい会社にとっては好都合だった。ネットやテレビで宣伝して売るだけで済むと、26社以上が東洋新薬から葛の花由来イソフラボン商品の提供を受けて、機能性表示食品市場に参入した。中でも、派手な広告を展開していたのが16社で、消費者庁から是正の措置命令を受けたという経緯である。

お詫びの社告を出さなかった太田胃散

 実は、消費者庁の調査は16年末から始まっていたが、表面化したのは17年5月。大手ドラッグストアのスギ薬局(愛知県大府市)が突然、大手新聞3紙に「当社販売の機能性表示食品の表示に関するお知らせ」という社告を出したのだ。

 続いて、健康食品の「すっぽん皇帝」で知られる通販会社、テレビショッピング研究所(東京都)も大手新聞2紙に「葛の花サプリメントについてウェブページ、カタログ広告で『きつい運動をしなくても』『食事制限をしなくても』などと表現し過度の期待を抱かせる表示をしていた」と、お詫びの社告を出した。その後を追うように、10社が同様のお詫びの社告を出した。

 それというのも、機能性表示食品制度では事業者が自己責任で成分の臨床試験を行って機能性を示すか、研究レビューで科学的根拠を届け出て機能性を謳うのだが、この業界に付き物なのが誇大広告だ。

 むしろ、機能性表示食品制度を利用して、政府から認められた優良な機能性食品であるかのように消費者に誤認させる輩も出てくる。それを防止するため、景品表示法が改正され課徴金制度が導入された。これまで誇大広告を摘発しても、勧告だけでは誇大広告が止まらないことに業を煮やし、課徴金を課すことになったのである。

 消費者庁の調査に慌てたスギ薬局やテレビショッピング研究所は、命令されるより先に社告を出して謝罪。課徴金を少しでもお目こぼししてもらおうという発想だ。

 だが、太田胃散はお詫びの社告は出さなかった。既に17年6月に販売を停止したというのが主な理由である。消費者庁も随分と舐められたものだ。しかし、消費者庁は太田胃散と、やはり社告を出さなかった3社に、再発防止と共に消費者に対する景品表示法違反があった旨の周知徹底を命じた。新聞紙上に謝罪広告を出せ、という命令だ。

 いち早く謝罪の広告を出した12社が購入者に商品と引き換えに購入額を返金すると公表しているのと比べて、太田胃散はより悪質だというイメージが付く。

 そもそも葛の花由来イソフラボン成分は、ただ摂取さえすれば体内脂肪を減少する、という機能ではない。東洋新薬が用意した各社の届け出でも記載されているが、適度な運動とバランスの取れた食事が体内脂肪や皮下脂肪を減らす基本要因で、葛の花由来イソフラボン成分はあくまで体内脂肪を減らす効果を助けるとされている。

 消費者庁の大元慎二・表示対策課長が「違反事実と届け出内容とは直接リンクしない。葛の花由来イソフラボンはトクホの許可を取得しているように、一定の効果を助ける効果がある」と話す。

ところが、措置命令を受けた16社はことごとく適度の運動とバランスの取れた食事を無視する広告に走ったという。中には、運動をしなくても葛の花イソフラボンを摂れば体内脂肪、皮膚脂肪が減ると謳う広告もあった。太田胃散はその誇大広告をしていた1社だった。

 実際、富士フイルムも葛の花イソフラボン成分を含む機能性表示食品を販売しているが、同社の広告では「BMIが高めの方へ」とか「お腹の脂肪・体重を減らすのを助ける」と届け出と同じ内容に留め、「適度の運動とバランスの良い食事食生活に加えて葛の花由来イソフラボンでサポート」と補助効果であるとする文章も載せている。

 また、太田胃散と同様にジーンズのボタン、ファスナーが閉まらない写真を載せているが、太田胃散の写真では明らかにボタンが閉まらない状態なのに比べ、富士フイルムの方はもう少しでボタンが閉まるという写真だ。太田胃散のジーンズのボタン、ファスナーが明らかに閉まらない写真は、優良誤認させる誇大広告という判定である。

 太田胃散は初代の太田信義が明治時代初期にオランダ人医師、ボードウィンの処方を基に胃腸薬「太田胃散」を販売したという老舗である。現社長の太田美明氏は5代目の社長だが、創業以来138年間、胃腸薬一筋のOTC医薬品(大衆薬)メーカーで、缶入りの粉末を分封にしたり、錠剤や内服液にしたりして時代に合わせて飲みやすく変えたくらいしか変更はない。

 むしろ、新聞広告や鉄道の沿線に看板を出し、ラジオ、テレビ広告で知名度を上げ、宣伝で売ってきた稀有な大衆薬メーカーといえる。

胃腸薬だけに頼れない状況に

 この太田胃散が胃腸薬以外に進出したのが健康食品だ。03年に事業企画室(現ヘルスケア営業部)を新設し、健康食品に進出したという。大衆薬の中で風邪薬と共に最もポピュラーなのが胃腸薬で、大手製薬から中小製薬会社まで胃腸薬に進出し、競争が厳しい上、少子高齢化で人口減による売り上げ減の不安もある。

 もっとも、「最近は中年男性より、若い女性の飲酒機会の方が多くなり、女性の飲み過ぎ、食べ過ぎで胃腸薬の利用者は減らない」という調査結果もあるにはあるが、事業の伸長に不安は残る。

 太田胃散の知名度が抜群といっても、胃腸薬だけに頼るわけにはいかないだろう。加えて、健康食品はほとんどがネットやテレビ広告で売られている。広告なら昔から得意だという意識もある。

 健康食品の中でも期待したのが機能性表示食品であり、葛の花由来成分イソフラボンである。開発したメーカーが製品を提供してくれるし、届け出に必要な研究レビューも提供してくれる。健康食品業界では「太田胃散は得意な宣伝で売れると飛び付いた」と言われている。

 ところが、得意なはずの広告で躓いた。胃腸薬のように地道な広告に徹すれば良かったのに、競争の激しい機能性表示食品で、かつ、競争相手も同一のメーカーから購入する商品があふれる葛の花由来イソフラボンの宣伝合戦に乗ってしまった。「葛の花イソフラボン 貴妃」や「葛の花イソフラボン ウエストサポート茶」を摂りさえすれば、ジーンズのファスナーが閉まると、誇大広告に走った末、消費者庁から大目玉を食ってしまった。

 医薬品メーカーが優良誤認させる広告をしていたというのは致命的である。看板の太田胃散も優良誤認させる胃腸薬ではないのか、という疑問さえ招きかねない。医薬品メーカーとして「患者のために」「病気を治すことこそ使命」というアイデンティティーに立ち返らなければ、太田胃散には先は見えない。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top