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未来の会

あすか製薬

あすか製薬
稼ぎ頭のAGの売上増が期待できず
後発薬事業は今や八方塞がり

 あすか製薬は今年7月6日、昨年4月まで製造販売していた高血圧症治療薬「バルサルタン錠AA」の4商品、計約1300万錠を「発がん性物質が混入している」として自主回収すると公表した。本製品は中国の華海(ファーハイ)製薬が製造した原薬を使用しているが、その原薬に発がん性物質の「N‐ニトロソジメチルアミン(以下、当該物質)」が混入していることが海外規制当局からの情報で発覚したからだ。当該物質は世界保健機関(WHO)で「人に対して恐らく発がん性が有る物質である」と分類されており、「重篤な健康被害に至る可能性も否定できない」とされている。あすか製薬は慌てて7月5日から自主回収を開始し、翌6日に公表した。

 今回の件は、患者数の多い降圧剤の上、混入物が発がん性物質だったことで、メディアでも比較的大きく報じられた。バルサルタン錠AAは提携先の米アクタビス(現・米アラガン)のジェネリック医薬品(後発医薬品)だった。昨年、アクタビスとの合弁解消を余儀なくされ、販売中止となっているが、あすか製薬の安易なジェネリック志向が引き起こした事件と言える。あすか製薬は、納入先の医療機関や薬局など1315施設の全てを把握していることから回収は順調に進むと話す。

 あすか製薬は、武田薬品を筆頭株主とする帝国臓器製薬と武田薬品のグループ会社であるグレラン製薬が2005年に合併し「あすか製薬」と名称を新たにしたが、2020年には帝国臓器製薬時代から数えて100年を迎える。創業家の山口隆が代表として創業者山口八十八の精神を受け継いでいる伝統ある製薬会社だ。

 当時、帝国臓器製薬はハゲタカファンドといわれるスティール・パートナーズ、さらにダルトン・インベストメントが大株主に登場、MBO(経営陣による株式買い取り)による非上場化と内部留保の100億円を配当として分配することを要求されていたが、これに対抗するため、非上場のグレラン製薬と合併、ハゲタカファンドを撃退した。

来期は営業利益・経常利益とも6割減

 合併から13年。中堅製薬には珍しく、動物用医薬品や臨床検査受託、食品などの事業もあるが、合わせても売上は10%未満だ。主力事業の医薬品では先発薬は難吸収性抗菌剤「リフキシマ」、甲状腺ホルモン剤「チラージン」、高脂血症治療剤「リピディル」などがあり、リフキシマが7・8倍の売れ行きになったといっても、売上はまだ10億円にすぎず、チラージンは9・8%減の49億円、リピディルも2・6%減の42億円と売上を落としている。合併直後の同社を支えてきた抗潰瘍剤「アルタット」、前立腺がん治療剤「プロスタール」なども今や数億円の売上に縮小。様変わりした。

 一方、ジェネリック医薬品にはオーソライズド・ジェネリック(AG、※欄外注参照)の降圧剤「カンデサルタン類」や前立腺がんと子宮内膜症治療剤「リュープロレリン」などがあるが、売上はカンデサルタン類が3・8%増の132億円、リュープロレリンが8・4%増の41億円と伸び、ジェネリック事業が同社を支える構図が見て取れる。

 今のあすか製薬は内科と婦人科、泌尿器科に特化したスペシャリティで、新薬とジェネリックの双方を手掛ける中堅メーカーだ。前期2018年3月期の売上は期初予想の500億円には届かなかったが、前期比0・9%増の489億円と過去最高を記録。営業利益は前期に計上した開発導入に伴う費用が無くなったことや販売管理費の削減の結果、前期比57・4%増の28億円、経常利益も53・5%増の30億円と過去最高益を記録した。

 しかし、この好成績も今期だけだ。19年3月期の見通しは売上こそ横ばいの490億円を見込むが、営業利益は64%減の10億円、経常利益も60%減の12億円と大幅減が予想される。新薬創出・適応外薬解消等促進加算(※欄外注参照)の適用ルールの厳格化やジェネリックの価格見直しを含む薬価改定だけが原因ではない。先発品の売上減と同時に同社の稼ぎの柱であるAGも今後、売上減が続くと見込まれるからだ。好決算発表直後に20年度までの5カ年中期経営計画の見直しを発表した。16年からスタートした同社の5カ年中期経営計画は、20年度(21年3月期)に売上700億円、営業利益は10%の70億円を見込んでいた。だが、好決算だった17年度(18年3月期)でさえ売上は489億円、営業利益率は5・8%の57億円だ。18年度(19年3月期)は売上が490億円、営業利益率は2%の10億円と大幅な減益が予想されているし、その後も低成長が続くと見込まれるため、中期経営計画の見直さざるを得なくなった。

経営眼の無さから提携相手を選び間違う

 あすか製薬のジェネリック・ビジネスは今、八方塞がりに陥っている。同社はジェネリックの拡大策として、09年にジェネリック大手の米アクタビスと提携、合弁会社「あすかアクタビス製薬」を華々しく設立、今回の回収騒ぎとなったバルサルタン錠AAなどアクタビスの後発品を日本で開発、販売する戦略を取った。新会社の代表にはあすか製薬代表取締役の山口雅夫が就任、記者会見で「2015年までに売上100億円、2020年には500億円を目指す」とぶち上げ、あすか製薬社長・山口隆も「米アクタビスの世界60カ国の販売網をフルに活用し新興国にGE薬品と販売して行く」と合弁事業の未来を明るく語っていた。

 ところが、5年後の2014年にこの合弁事業に事件が起きた。米アクタビスが米アラガンの買収を発表し、新社名を吸収したアラガンに変更、新会社のアラガンはジェネリック部門をイスラエルのテバに売却してしまった。その結果、あすか製薬は販売する商品を失い、米アクタビスとの合弁を解消せざるを得ず、昨年4月にあすかアクタビス製薬を吸収合併。アクタビスのジェネリックは販売中止に追い込まれた。合弁事業で100億円の売上を狙ったあすか製薬の夢は脆くも挫折。しかもこの時点で「あすかアクタビス製薬」は債務超過に陥っており、債務超過が「あすかアクタビス製薬」消滅の理由の一つでもあった。そもそも米アクタビスはこれまでに何度も買収を繰り返してきた製薬会社で、13年にはアイルランドの製薬会社を買収して法人税の安いアイルランドに本社を移転した、したたかな製薬会社だ。その上「買収で株価を上げる製薬会社」という悪評もある。危うい会社を提携相手に選んだ経営眼の無さは株主らによって厳しく追求されるべきだろう。

 経営眼の無さの他に、東日本大震災の際の「信頼失墜事件」もある。あすか製薬は旧グレラン製薬の西東京工場(東京・羽村市)を閉鎖し、いわき工場(福島県いわき市)に最新鋭の第三製剤棟を建設して製剤事業を集約した。しかし、東日本大震災で第三製剤棟の製造ラインが一部損壊する被災を受けた。製造ラインを最新鋭の工場に集約するのは経営上必要だし、自然災害は避けようがない。だが、ここで事件は起きた。同社が誇る甲状腺ホルモン剤「チラーヂンS」の社内在庫が1カ月分しかなかったことが発覚したのだ。チラーヂンSはあすか製薬が国内で98%のシェアを占める独占製品だ。これを知った厚生労働省は驚愕、急ぎ日本医師会、日本内分泌学会などの関連5学会などと連携し、医療機関に長期処方の自粛と「チラーヂンS」を在庫に持つ薬局からの提供を呼び掛けた。一方でドイツのサンド社から同様の製品「レボチロキシンナトリウム製剤」の緊急輸入で急場をしのいだ。当時を知る幹部は、俄に信じられなかったと話す。第三製剤棟は2週間後に部分操業に漕ぎ着けたが、製薬会社は医薬品の供給義務を負っている。「社内在庫は1カ月分しかありませんでした」では済まない。製薬会社としての信用信頼は一気に失墜した。

アテが外れ武田からのAGは望めず

 あすか製薬が武田薬品のAGを発売できた理由は、あそか製薬の筆頭株主が武田薬品という関係であり、今後もずっとあすか製薬が販売をして行くものと思われた。今日では、ごく普通に捉えられているAGだが、国内ではサンドや日医工サノフィが先陣を切るものの当時はそれほど注目されることはなかった。一躍広まったのは、あすか製薬が14年に武田薬品の「ブロプレス」のAGを「カンデサルタン錠あすか」の名前で販売したことからだった。翌15年、あすか製薬は武田薬品のカンデサルタン配合剤「ユニシア配合錠」のAGを「カムシア配合錠あすか」として、翌々年にはもう一つの配合剤「エカード配合錠」のAGを「カデチア配合錠あすか」として販売した。

 承認審査は年2回であることからAGは特許切れ前に承認申請をし、特許が切れる時に合わせて発売する。通常、ジェネリックは特許切れに合わせて承認申請するから、AGは最低でも6カ月先行独占販売できる。また、AGということで医療機関からも信頼され、ジェネリックの中で独占的シェアを占めることができる。事実、132億円を売り上げるあすか製薬のカンデサルタン類は同社のジェネリック全体の売上の半分以上を占めるまでになっていた。

 ところが、同社の見通しが甘かったのか、武田薬品の裏切りかはさて置き、武田薬品はテバと合弁会社「武田テバ」を設立し、武田薬品のAGを武田テバから発売すると発表。その上に長期収載品も武田テバに譲渡した。あすか製薬の経営陣にとって、筆頭株主の武田薬品から闇討ちを食らった形だ。今後、武田薬品のAGの販売は望めず、ジェネリック・ビジネスは八方塞がりになった。三菱UFJ銀行などの大株主は武田薬品の裏切り行為をどのように見ているのだろうか。武田薬品とテバ製薬の発表直後、あすか製薬の株価1495円は一気に20%安の1188円まで下げた。

 もちろん、あすか製薬は米アクタビスが米アラガンを買収した頃から、新薬開発を事業の柱に据えた。イタリアのアルファ・ワッサーマンから肝性脳症による高アンモニア血症治療剤を導入、「リフキシマ」として開発、販売したのを皮切りに、日本の製薬ベンチャーのノーベルファーマとの間で産婦人科領域の包括的業務提携契約を結び、希少疾患薬の開発を目指した。フランスのHRAファーマから子宮筋腫治療薬候補を導入、米バイオベンチャーから初期段階の化合物を導入するオプション契約を締結……。あすか製薬は研究開発費50億円の半分を新薬開発につぎ込んでいる。だが、この研究開発費を稼ぎ出してきたのがAG事業だ。合弁解消や販売中止が続く現状から見て、ジェネリック事業で新薬の開発費を稼ぐのは困難である。

 今、あすか製薬は三菱UFJキャピタルから資金提供を受ける形で子宮筋腫治療薬の共同開発、さらに武田薬品からも子宮筋腫治療に有望とされる物質を導入するなど、新薬開発に活路を開こうと模索をしているが、明日が見通せないのが現状だ。2020年に創業100周年を迎える名門製薬会社の底力に期待すると共にⅤ字回復を期待したい。(敬称略)

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