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未来の会

日本化薬

日本化薬
ジェネリック医薬品が推奨される中で
売上高の増加はわずか3億円

 「世界的すきま発想。」を謳う日本化薬の医薬品事業は転換点に差し掛かっている。日本化薬と言えば、抗がん剤を中心に33種類、40品目に及ぶ医薬品を持ち、総勢400名のMR(医薬情報担当者)のうち、がん専門のMRが100人という陣容を擁する抗がん剤に特化した医薬品メーカーとして知られてきた。

 ところが、現実には新薬創出加算品は3品目で32億円(2018年3月期)にすぎない。それも4月以降、2品目が新薬創出加算の対象から外れ、19年3月期には僅か8億円へと急減してしまう。

 それに比べ、ジェネリック医薬品の売上は211億円、バイオシミラー(バイオ後続品)でも28億円の売上だから、自らが名付けた「世界的すきま発想」によるスペシャリティの実態は、がん治療主体のジェネリック医薬品(後発医薬品)とバイオシミラーのメーカーにすぎない。

薬価改定の影響で予想売上高は減少

 実は、この医薬品の低迷は売上でも顕著だ。17年3月期の医療品事業の売上は381億円だったが、翌18年3月期には3億円増の384億円と振るわない。ジェネリック医薬品の使用が推奨されている中で、3億円の増加はあまりにも少ない。その上、今期19年3月期は、薬価改定の影響で医薬品事業の売上高は369億円と減収が予想されている。

 日本化薬は1916年に民間爆薬会社として設立された日本火薬製造を母体にスタートする。戦時中に帝国染料製造、山川製薬を吸収合併し、日本化薬となった。現在は帝国染料製造の機能化学品、山川製薬の医薬品、日本火薬製造の爆薬の技術を生かした車のエアバック用部品などのセイフティーシステムの3本柱を中心に事業展開する。

 医薬品を手掛ける化学メーカーは多いが、同社にとっても医薬品事業は戦前の山川製薬時代の1932年、切望されていた解熱鎮痛消炎剤「アスピリン」を国内製造したことで知られ、戦後の48年には抗生物質「ペニシリン」も製造し、国産ペニシリンの約半分を占めたように、由緒ある主要事業である。

 売上高でも機能化学品の677億円に次ぐ475億円を上げ、営業利益では機能化学品の86億円に次ぐ64億円を稼ぎ出している。

 この医薬品事業の中で、特筆されるのは1969年に抗がん剤「ブレオマイシン」を発売したことだ。これを機に、同社は抗がん剤に特化した。

 当時、大手医薬品メーカーはがんが疾患部位ごとに異なるため、抗がん剤領域に手を出さず、感染症向け抗生物質に血眼だった。そんな状況下で、抗がん剤に特化したのは先見の明があったと言えるし、すきま発想が効を奏した好例である。

 だが、2000年代に入ると、ジェネリック医薬品に傾斜していく。03年に「カルボプラチンNK」、05年に「エピルビシンNK」、06年には「パクリタキセルNK」、07年には「レボホリナートNK」、09年には「イリノテカンNK」、10年には「ゲムシタピンNK」、13年には「イマチニブNK」、14年には「ドセタキセルNK」、「オキサリプラチンNK」……と次々にジェネリック抗がん剤を発売する。

 新薬が出来ないからやむを得ずジェネリック医薬品に手を染めたのではなく、完全にジェネリック医薬品メーカーに変貌したのだ。

 もちろん、抗がん剤関連で新薬創出加算の対象品目には抗がん剤のプラチナ製剤「アイエーコール」と「カルセド」がある。

 しかし、アイエーコールはシスプラチンの欠点であった水溶性の悪さを改善し、肝臓がんにも使えるようにした、〝ジャパン・ローカル・ドラッグ〟にすぎない。これを「世界に通用する新薬」と言うには無理がある。

 そもそもカルセドは日本化薬が創出した抗がん剤ではなく、大日本住友製薬が開発した化合物を譲り受けたものだったが、カルセドは今年度から新薬創出加算から外れることになる。

 売上でもジェネリック医薬品への傾斜ぶりが分かる。がん関連の新薬の売上はアイエーコールとカルセドを合わせて19億円(18年3月期)にすぎないが、一方、がん関連のジェネリック医薬品の売上は、51億円のパクリタキセル、31億円のカルボプラチン、18億円のオキサリプラチンなど含め総額は211億円だ。これではどこから見てもジェネリック医薬品メーカーだ。

 これは多くのジェネリック医薬品メーカーが低分子の経口剤に傾斜しているのに対して、日本化薬は注射剤が得意だということにある。経口の錠剤は製剤技術がほぼ確立されているし、工場増設がしやすく、大量生産という規模の競争、価格競争が出来る。一方、注射剤は先発品と同等の衛生管理が求められ、製造コストが掛かる。注射剤に取り組んだ日本化薬の熱意は評価されていい。

バイオ薬導入先の韓国企業にFDAが警告

 だが、抗がん剤の世界は大きく変わってきている。ロシュ(スイス)の「アバスチン」のような抗体医薬に、さらに小野薬品工業の「オプジーボ」のような免疫療法製剤が登場している。ジェネリック医薬品の推奨で競争も激しく、価格が下がり利幅は減っている。

 日本化薬はこれまで通りのジェネリック抗がん剤だけでは将来的には不安だと売上増や利益増を求めて飛び付いたのがバイオシミラーだ。今のところ、売上に計上されているのは2剤だが、「インフリキシマブ」の売上は21億円で、今年度は36億円の売上を見込んでいる。もう一つの「フィルグラスチム」も6億円の売上で、2剤だけで同社の新薬の売上を超えてしまっている。

 さらに、「トラスツズマブ」と「リツキシマブ」が承認されたことにより、同社のバイオシミラーの売上は大きく伸長が期待されるが、実はこのバイオシミラーは日本化薬の開発ではない。韓国の製薬大手、セルトリオンが開発したバイオシミラーである。

 韓国では新薬を創出する技術がないと諦めて、代わりにバイオシミラーの開発に国費を投じてきた。各財閥グループが補助金狙いで製薬業に進出し、話題をさらったが、セルトリオンも国からの資金を受けてバイオシミラー開発に力を入れてきた製薬会社である。既にリツキサンは欧米でも承認済みで世界のトップランナーを走っている。

 バイオシミラーは培養タンクなどの設備に巨額の投資が必要になる。そのため、セルトリオンは何としても日本国内で大きな売上を上げる必要があり、日本国内で大きな販売網とMRを擁する日本化薬を共同販売相手として選んだ。この共同販売事業で、日本化薬が予想通りの実績を上げられるかどうか疑問である。

 その上、医療関係者の間では「バイオシミラーは同じ成分であっても別ものだ」という声がある。事実、バイオ技術による製造だから、同じものを作っているつもりでも、全く同じものとは言えない。DPC(診療群分類包括評価)対象病院がより安い価格で手に入るから使っているが、日本ではジェネリック医薬品のように普及が進むかどうか危ぶまれている。

 その上、セルトリオンへのロイヤリティーもあり、日本化薬の利幅は薄い。その上、米食品医薬品局(FDA)が1月に、そのセルトリオンの韓国・仁川工場に対して警告書を発行していたことが明るみに出た。

 この問題をいち早く国会で質問したのは立憲民主党の川田龍平・参議院議員である。川田参院議員は、医療経済研究・社会保険福祉協会の医療経済研究機構の17年度版「薬剤使用状況等に関する調査報告書」の中から『諸外国ではまだバイオシミラーに対して大きく信用を置いていない』と指摘する報告内容を引用し、FDAが警告したセルトリオンのバイオシミラーの承認に対する懸念を指摘した。

 これに対し、医療費抑制のためにバイオシミラーの普及を進める安倍内閣は「FDAの警告は出荷停止、回収を求めるものではなく、日本国内の承認には問題はない」と突っぱねたが、医薬品にとって最も必要な信頼や安心にまた一つケチが付いた格好だ。

期待のミセル化に付きまとう不安

 では、日本化薬の開発状況はどうなっているのだろうか。

 同社の開発状況を見ると、乳がんと胃がんを対象疾患にする「パクリタキセル内包高分子ミセル」と、乳がん、肺がん、大腸がん、多発性骨髄腫を対象にする「カンプトテシン類内包高分子ミセル」の「ミセル化抗がん剤」がフェーズⅡに並ぶ。ミセル化とは高分子でパクリタキセルのナノ粒子を内包させることで、抗がん剤ががん細胞を直接、攻撃できるようにする仕組みだ。

 例えば、パクリタキセルは疎水性が必要な化合物で、注射液として使うためにはひまし油とアルコールを使う。しかし、この時に過敏反応を時々起こしたり、アルコールにショック反応を起こしたりすることがある。それを防止するために、ステロイド剤や抗ヒスタミン剤を投与する必要がある。

 パクリタキセルは日本化薬で最も売れる抗がん剤だが、今、パクリタキセルにアルブミンを結合させて可溶化した「アブラキサン」に取って代わられつつある。このアブラキサンはミセル化技術でひまし油とアルコールのフリー化(不要化)で対抗する抗がん剤で、シスプラチンを改良したアイエーコールと似ているが、日本化薬にとってはミセル化も含めまだまだ期待の抗がん剤だ。

 実は、ミセル化抗がん剤は、16年に転移・再発乳がんを対象にしたフェーズⅢの国際臨床試験まで進んだ。だが、臨床試験を実施した結果は無増悪生存期間に有位差を達成できなかった。追加試験を計画している最中と言われたが、そんな事情もあり、期待のミセル化にも不安が付きまとう。

 加えて、業績でも低迷が見通せる。19年3月期の売上予想は、対前年比2億円増の477億円としているが、営業利益は薬価引き下げで31億円と半減すると見込まれ、見通しは暗い。欧米の投資家からも「医薬品事業は今が売り時だ」と言う声が聞こえそうだ。

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