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「診療報酬改定の主導権」を奪う経済財政諮問会議

「診療報酬改定の主導権」を奪う経済財政諮問会議
行く末を誰が決めは国生活に直

 「さに青天の霹靂であり、極めて遺憾だ。診療報酬は当然、中医協(中央社会保険医療協議会)で議論すべきである」。2016年12月22日に公表した日本医師会(日医)の横倉義武会長の見解だ。

 この前日に行われた政府の経済財政諮問会議において、18年の診療報酬・介護報酬の同時改定を念頭に、民間議員の高橋進・日本総合研究所理事長が「院内、院外処方の在り方や技術料の在り方などについても、(諮問会議で)しっかり議論させていただきたい」と提案したことへの反論である。

 横倉執行部が警戒感を強めたのは、むしろ、諮問会議後の記者会見における石原伸晃・経済財政政策担当大臣の発言であった。「諮問会議は日本のマクロ経済の司令塔だ。中医協は厚労大臣の諮問機関で、厚労行政や薬価などについて各界からメンバーが入って決められる。いわば現場だから、整合性に齟齬が出るというような指摘、また二重であるというような指摘は全く当たらないと考える」と高橋氏に同調したのだ。

存在意義を問われる日医
 厚労省OBは「諮問会議を取り仕切る石原大臣が(高橋氏の)提案を容認したことで、これまで中医協が握ってきた診療報酬改定の主導権が、諮問会議へと移る流れが出来てしまった。中医協を主導し、診療報酬改定に対して圧倒的な発言力を保持することが日医の力の源泉であっただけに、これを奪われたのでは日医は存在意義を問われる。過去には診療報酬の改定結果が日医会長選に大きく影響してきた。これまで安倍(晋三)首相の方針に追随傾向にあった横倉氏も、今回ばかりは絶対に認められないだろう」と解説する。

 日医関係者は「薬価の毎年改定も、諮問会議の民間議員の発言をきっかけに、中医協の頭越しに流れが作られてしまった。横倉会長は12月26日に電話で安倍首相に真意を確かめ、その内容を即座に公表して流れを止めようとしたのだが……」と危機感を露わにする。

 なぜ、このタイミングでの提案となったのか。医療政策に詳しい永田町関係者は「薬価の毎年改定の実現では官邸首脳、とりわけ菅義偉官房長官の強い意向があったと聞く。医療費膨張に頭を悩ます財務省も、中医協の権限下にある診療報酬改定を手中に収めたいとの思いは強かった。民間議員から提言が出たというのは、機運を逃したくないという諮問会議全体の空気を読んだ、阿吽の呼吸だろう」と推測する。

 別の政界関係者は「安倍政権の厚労省不信が背景にある」と語る。「中医協は診療報酬改定の利害調整の場だ。どうしても、それぞれの所属組織の利益誘導に走りがちになる。中医協汚職が起こった際に、透明性の確保を図るべく基本方針は社会保障審議会の部会で決められることになったが、依然として中医協の性格は変わっていない」と批判。

 続けて「選挙で選ばれたわけでもない医師たちが巨額な医療費を我がもの顔で配分する姿に対して、かねてより疑問の声があった。診療報酬のアップは患者の自己負担増へと跳ね返る。医療費の抑制が国家的課題としてクローズアップされる時代となり、国民に痛みを求めざるを得ない状況になって、いよいよ政府も捨て置けなくなったということだろう」と語った。

 財務官僚OBは「中医協メンバーとなっている日医幹部には、医療の専門知識があることを盾にして不遜な物言いをする人物も少なくなかった。だが、我が国の財政を考えれば医療費の抑制は避けられない。ことあるごとに政府の方針に異論を挟むのでは、まとまる話もまとまらなくなる。薬価の毎年改定や、高額医薬品の値下げも従来通り中医協で検討していたら、いまだ実現していなかったことだろう」と分析。その上で「これからの政策決定はスピードが重要である。決めるところは、国民の負託を受けた国会議員が政治判断を下していくという形に変えていかなければならない」と指摘した。

 これについて、先の医療政策に詳しい永田町関係者が面白い解説をした。「診療報酬改定を経済財政諮問会議が主導することについては、安倍政権はタイミングを図って仕掛けたのだろう。ポイントは横倉氏が次の世界医師会長に選ばれたことだ」との見方である。

 「中医協の権限が弱まるとなれば、普通は、それを止められなかった日医会長の責任論に発展する。日医の会員から大きな不満が出ても仕方がない局面だ。しかし、世界医師会長になる横倉氏を日医会長の座から引きずり下ろすのは現実的には難しい。安倍政権としては、意思の疎通がしやすい横倉氏が日医会長にいる間に、中医協の弱体化を進めてしまおうという腹づもりだろう」というのだ。

次期日医会長選に影響する事態も
 一方、横倉執行部からは「あらゆる手段を講じて、阻止する」といった威勢のいい声も聞こえるが、横倉氏に批判的な地方医師会幹部は「完全に足元を見られている。安倍首相とのパイプの太さをセールスポイントとして日医会長に上り詰め、安倍政権に追随することで日医内の求心力を集めてきた横倉会長の限界だ」と懐疑的だ。

 別の永田町関係者がシビアな見方を示した。「首相は横倉氏に『診療報酬は中医協で議論』と説明したが、諮問会議が何もしないと語ったわけではない。安倍官邸内には再び『医師免許保有者が全員加入しているわけではない日医を医師の代表組織として認めてよいのか』といった意見が出始めている。その真意は別として、現在の日医を揺さぶる材料となることは間違いがない。中医協弱体化の流れを止めることは難しいだろう」というのだ。

 先の地方医師会幹部は「横倉執行部は今頃になって、全員加盟の医師団体の議論を加速させようとしているが、遅過ぎる。このまま諮問会議に診療報酬改定の実権を奪われるのであれば、いくら世界医師会長に就任しようとも次期日医会長選が無風というわけにはいかなくなるだろう」と批判を強める。

 日医関係者からも「現実的には、時の政権が決めた方針を押し戻すことは難しい。今後の勝負は、医療政策の決定に日医がどこまで関われるかに移るだろう」との本音が漏れる。

 今後の診療報酬改定の議論の場が、中医協から諮問会議に移りそうな雲行きだが、医療政策はどこまで変わるのか。

 横倉氏は16年12月22日の見解で「医療に対する経済の論理を強めてはならない。国民に必要な医療を提供するには、財政の立場のみで議論することは言語道断だ。日本の医療を誤った方向へ導いてはならない」と諮問会議で検討することに釘を刺した。

 医療費の行く末を誰が決めるのかは、単に日医という組織が弱体化するかどうかではなく、国民生活に直結する問題でもあることを忘れてはならない。

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