
過去にコンタクトレンズ訴訟第一審判決
個人開設の眼科医院が社会保険診療報酬支払基金(以下「支払基金」という)に対して、初診料(と減点査定された再診料との差額)などの支払いを求めて、東京地方裁判所に提起した訴訟の第一審判決が2026年7月2日に下された。結果は、眼科医院の全面勝訴、つまり、支払基金の完全敗訴。事案の概要は、判決文から適宜抜粋・引用すると、次のようなものである。
本件は、保険医療機関である眼科医院(以下「本件医院」という)を開設する原告が、保険医療機関への診療報酬の審査・支払業務を行う被告(支払基金)に対し、診療報酬請求権に基づき、診療報酬2569円の支払を求めた事案である。
(中略)今回の診療について、初診料を算定することができるか、並びに屈折検査及び角膜曲率半径計測が必要な診療と認められるかが争われている。
本件医院は、18年11月9日、本件医院を訪れた成人である患者(以下「本件患者」という)を診療し(以下「前回診療」という)、屈折検査、角膜曲率半径計測、眼圧検査等を行い、傷病名を両近視性乱視、両ドライアイと診断し、コンタクトレンズ及び点眼液を処方した。
〔それから4年以上、ずっと間が空いて〕
本件医院は、23年1月27日、本件患者を診療した(以下「本件診療」という)。今度は、屈折検査、角膜曲率半径計測、眼圧検査、矯正視力検査、眼底三次元画像解析を行い、傷病名を両近視性乱視、両生理的飛蚊症、両後部硝子体剥離、両硝子体混濁、緑内障の疑いと診断した。(中略)本件医院は、23年2月、支払基金に対し、本件診療についての診療報酬として合計1016点の支払請求を行った。
支払基金は、23年3月、以下のとおり査定をした。
ア 初診料288点について、「過去にコンタクトレンズを目的に受診した患者には初診料は算定されず再診料等を算定する」等として、再診料74点に減額査定。
イ 屈折検査69点について、「医学的に保険診療上過剰・重複となるもの」等として、0点と査定。
ウ 角膜曲率半径計測84点について、「本例での算定は、初診内容を通覧して過剰」として、0点と査定。
そこで、本件眼科医院が支払基金に対して、果敢に訴訟を提起したのである。なお、この訴訟では、原告側に代理人弁護士は付いていない。医師である原告と、事務長である原告の妻が、ずっと2人だけで書面を作って、東京地裁に出廷し続けたのである。
相手方は、代理人弁護士を付けている支払基金と、国(厚生労働大臣)であったし、裁判所はというと、東京地裁の中でもいわゆる行政専門部と呼ばれる部署であった。
そのような中で、裁判の素人である原告らは、正論を主張し、丁寧に立証し、完勝したのである。高く称賛されるべきところであろう。
主要な争点とその判決理由
本件医院の主張と、参照された条文は、次のようなものであった。
ア 本件診療は、前回診療から4年以上が経過しており、留意事項通知・初診料(14)が定める1月をはるかに上回るから、初診料が算定されるべきである。
イ 被告は留意事項通知・初診料(15)の適用を主張するが、屈折異常は、変化しながら継続するものであり、数年前の屈折異常の程度と現在の屈折異常の程度は異なるから、本件のように、前回診療後、自覚的に受診をしないでよい状態が4年以上も続いた後に、本件患者が「視力低下」「黒いものが動いて見える」といった自覚症状を訴えて受診した場合には、改めて現状を把握する必要がある。これを、屈折異常が治癒していないから「明らかに同一の疾病である」というのは、医学的常識にそぐわない。
よって、本件診療は、「慢性疾患等明らかに同一の疾病又は負傷であると推定される場合の診療」に該当しないから、留意事項通知・初診料(15)の適用はない。
留意事項通知・初診料(14)
患者が任意に診療を中止し、1月以上経過した後、再び同一の保険医療機関において診療を受ける場合には、その診療が同一病名又は同一症状によるものであっても、その際の診療は、初診として取り扱う。
留意事項通知・初診料(15)
(14)にかかわらず、慢性疾患等明らかに同一の疾病又は負傷であると推定される場合の診療は、初診として取り扱わない。
これに対する支払基金の主張は、次のようなものであった。
さらに、本件患者は、本件診療に係る問診票の「定期検査」の欄にチェックを付している上、検査項目も、眼底三次元画像解析以外は、前回診療と同一の検査であったから、既存疾患の継続管理といえ、実質的に見ても、本件診療は、前回診療における屈折異常(両近視性乱視)の再受診と評価することができる。
(中略)よって、本件診療について、初診料を算定することはできない。
結局、裁判所は、完全に本件医院の主張を正しいものと認定した。
判決理由の概略は、次のとおりである。
(1)判断枠組み
(中略)当該医療機関への二度目以降の受診であっても、当該事案における個々の事実経過に照らして、当該患者が診療継続中とは評価できず、かつ、慢性疾患等明らかに同一の疾病又は負傷であると推定されない疾病又は負傷により受診する場合には、医学的に初診といわれる診療行為に当たり、初診料を算定することができるものと解される。
(2)本件診療における初診料算定の可否
ア 前回診療は18年11月9日であり、本件患者は、問診票において、両目の乾きを訴え、コンタクトレンズを作りたいとしており、(中略)眼科医院は、(中略)点眼薬とコンタクトレンズを1カ月分処方するとともに、コンタクトレンズがなくなる前に再診するよう指示した。
これに対し、本件診療は23年1月27日であり、本件患者は、問診票において、左眼について、視力低下、黒いものが動いて見える、左眼の奥が時々痛くなり見にくくなったような気がすると訴え、眼鏡を作りたいとしており、(中略)診察券の再発行が行われている。
このように、(中略)本件患者が、本件診療まで4年2カ月以上もの間本件医院を訪れず、本件診療においてもコンタクトレンズ処方を希望していたわけではないことからすれば、本件患者が、本件診療に係る問診票の「定期検査」欄にチェックを入れていることを踏まえても、本件患者に対する診療が継続中であると評価することはできない。
また、前回診療から本件診療まで4年2カ月以上もの期間が経過していることに加えて、(中略)傷病名も、両近視性乱視こそ共通しているものの、両生理的飛蚊症、両後部硝子体剥離、硝子体混濁及び緑内障の疑いについては、本件診療において初めて認められたものであるから、本件診療に係る疾病が、前回診療に係る疾病と慢性疾患等明らかに同一の疾病又は負傷であると推定される場合には当たらないというべきである。
よって、本件診療は、医学的に初診といわれる診療行為に当たり、初診料を算定することができるものと認められる。
以上のとおり、裁判所は支払基金の言い訳とも言うべき主張を、見事にすべて退けたものであった。
審査支払機関に対する調停・訴訟の勧め
本件の眼科医院のように、コンプライアンスを貫くべく、全国各地の医療機関が毅然として、審査支払機関に対して、法的手続たる調停の申し立てや訴訟の提起を、大いに勧めたい。


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