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未来の会

第110回 平成晩年の政治は北朝鮮と改元と総裁選

第110回 平成晩年の政治は北朝鮮と改元と総裁選

 天皇譲位を翌年に控え、節目の年となる2018年。平成時代もあと1年余だが、北朝鮮による核の脅威はかつてなく高まり、東アジア情勢は緊迫の度合いを増している。

 政界では安倍晋三首相が3選を目指す自民党総裁選が9月に行われる。新天皇と共に始まる新時代の舵取りを巡り、自民党内では派閥の動きが活発化している。世界が注視する北朝鮮情勢を絡めた権力闘争が始まっている。

 「土俵の上での戦いなら、安倍首相が断然優位だろう。でも、今回は土俵外の要素も影響してくるだろうから、予想外の事態だって起こり得るのだ。それがどう響いてくるのかは、誰にも見通せない」

北朝鮮次第? 安倍首相の総裁3選

 自民党幹部は、横綱・日馬富士の引退に発展した大相撲の混乱になぞらえて、総裁選の行方を語った。土俵外の要素とは、日本を取り巻く世界情勢、天皇譲位と改元、依然として国民の疑念が消えない森友学園問題の三つだという。

 総裁選に影響する世界情勢は北朝鮮問題に他ならない。北朝鮮は17年末、大陸間弾道弾(ICBM)となる「火星15型」の発射実験に成功した。米国ジョンズ・ホプキンズ大の研究グループ「38ノース」の研究報告によれば、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発も本格化させているという。

 ICMBに関しては「実用化にはほど遠い」との見方もあるが、国際社会の警告に耳を貸さず、着々と核ミサイル開発を進めているのは事実であり、周辺国の脅威になっている。放置すれば、世界の政治・軍事力学を一変させる可能性もあるのだ。

 自民党内では「北朝鮮情勢がどう変化しようとも、総裁選での安倍首相の優位は変わらない」との見方が主流だ。安倍支持派の若手が語る。

 「米国と北朝鮮の武力衝突に発展すれば、日本は国内の態勢固めが急務になるのだから、指導者を代えるような余裕はない。現在の緊張状態が続いても同じ事だろう。武力ではなく、外交で結着への道筋が付くなら、それは『圧力の最大化』という安倍外交の賜物だから、評価は上がる。北朝鮮問題は総じて安倍さんにプラスに働く」

 当然、異論もある。安倍首相と距離を置くグループの幹部が語る。

 「米国のトランプ大統領が『ロシア疑惑』の追求をかわそうと、軍事オプションを強行すれば、東アジアは大混乱に陥る。韓国や米軍ばかりでなく、日本でも死傷者が出る可能性がある。経済も混乱する。平和を享受してきた日本人には耐えられないことだ。党内だって、戦争を避けられなかったリーダーのすげ替えに傾くはずだ」

 外交的な解決に道筋が付いた場合でも、「安倍降ろし」の可能性は否定出来ないという。節目となったのは17年11月の米中首脳会談だ。

 「トランプ大統領は中国から2500億㌦の商談を提示されて上機嫌になり、日本が米国などと共に牽制しようとしていた中国の経済圏構想『一帯一路』になびいてしまった。韓国は日本からすっかり離れ、中国に取り込まれている。安倍首相が描いた日米韓連携は揺らぎ、米中韓連携が強まっていると見るべきだろう。北朝鮮問題が米中主導で進めば、安倍首相の存在はかすみ、党内での求心力も衰える」

 日本政府が17年12月、「一帯一路」に関する民間経済協力のガイドラインを策定したのも、米中接近への警戒感の表れだと、この幹部は分析している。

 安倍支持派と非安倍派の言い分は物事の裏表であり、決して交わることはない。ただ、双方とも北朝鮮問題が予測不能なファクターの一つだと見ていることは確かだ。

 「朝鮮半島の問題は重要だ。しかし、我が国が天皇陛下の譲位と改元という節目を迎えることを忘れてはならない。その時節に、皇室ともゆかりのある朝鮮半島で多くの血が流れることは避けなければならない。凶事と改元を結び付けるようなことがあっては、国家の尊厳が損なわれる」

 昭和天皇崩御から元号・平成の選定までの詳細を間近で見ていたという自民党長老は、しみじみと語った。竹下登内閣の官房長官として、平成の文字を掲げた小渕恵三元首相の姿が目に焼き付いている。戦争で多くの仲間を失った昭和という時代を生き抜いて、新時代を迎えられたことに感慨ひとしおだったという。

 「派閥の数勘定も権力闘争も大いに結構なのだが、今回は特別だ。国家の来し方、行く末、有り様についてまっとうな議論をぶつけ合う格調の高い総裁選でなければいけない。誰が総裁になるのかではなく、どんな国を目指すのかという志と、その中身が問われる。そういう機会にしなければならない。何十年に1回のことなのだから」

国民の5割は総裁3選に否定的

 改元に向け、世代交代を進めるべきだとの思惑も非安倍派の間でじわじわ広がっている。皇室との折り合いを欠いてきた安倍首相を交代させる好機だと見ているのだ。

 自民党中堅が語る。

 「安倍政権で株価は上昇し、有効求人倍率も過去最高を記録した。しかし、地方では、自治体が軒並み財政難で苦しみ、シャッター街に活性化の兆しは乏しい。経済の数値は良好なのだが、国民の満足度はむしろ下がっている。それは、政策が国民の実情とかけ離れているからだ。安倍首相は自分の役割を十分果たされた。次の仕事は次世代への引き継ぎではないのか」

 1月の通常国会でも激しい論戦が予想される森友学園問題の影響も見逃せない。財務省が特例を乱発していたことや、「土地の価格交渉はしていない」と嘘の証言をしていたことなどが17年秋の特別国会で次々に明らかになり、国民の大多数が「納得出来ない」と疑念を深めているからだ。

 自民党の国対関係者が語る。

 「リクルート事件や金丸事件のような大スキャンダルでもないのに、いつまでたっても出口が見えない。森友問題はかなり異質だ。衆院解散・総選挙で事態が少しは落ち着くかと思ったが、効果はなく、むしろ悪化している。公文書という証拠が残っていないから、安倍首相の答弁も歯切れが悪く、何かを隠しているような印象を持たれてしまう。野党にねちねちとやられ続ければ、内閣支持率にも影響する。支持率が下がれば、総裁選にも当然響いてくるんじゃないか」

 衆院選に大勝し、株価高騰で内閣支持率もまずまずの安倍首相だが、各種世論調査では、総裁3選への反対が5割を占め、賛成は3割にすぎない。長期政権に対する国民の目線は存外厳しい。内外共に波乱の予感が漂う戌年が始まる。

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