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熱中症死で医師法違反? 「密室」に向けられる厳しい目

熱中症死で医師法違反? 「密室」に向けられる厳しい目
岐阜県警の殺人容疑捜索は「その先」があるからか

岐阜市の病院で、80歳代の入院患者5人が相次いで死亡した事案が波紋を広げている。岐阜県警は殺人容疑で病院を捜索、5人が熱中症で死亡した可能性があるとみて、業務上過失致死容疑で捜査している。酷暑の中、冷房もなく寝かされていた高齢患者は気の毒だが、一方で病院の対応が犯罪に当たるかどうかは疑問の残るところだ。当事者意識の薄そうな院長は情けないが、「医↘師法違反に抵触か」などの報道は過熱気味ではないのか。

 〝事件〟の現場は岐阜市一番町の「Y&M藤掛第一病院」だ。病院のホームページには「老人医療を専門に、療養病床を119床有しております」とある。藤掛陽生院長はホームページの挨拶文で「本院にご入院の患者様はご高齢の方が多く、本院がのすみかとなられる事が多く(略)」と述べており、終末期の高齢者が多く入る病院であることがうかがえる。

 「自宅でみるのが難しい高齢者の受け入れ先で、一時的な入院も可能。安く預かってもらえるから助かっていたと語る人もいる」と地元の関係者は語る。ただ、これで病院の評判が良かったと結論付けるのは早い。

エアコンの故障は日常茶飯事だった

 その前に、「熱中症死事件」を時系列に沿って説明しよう。発端は8月20日、病院の3、4階のエアコンが故障したことだ。エアコンは集中制御され、各病室の天井の吹き出し口から出てくる仕組み。全国有数の酷暑の地として知られる岐阜市の最高気温は連日30〜36度超で、20日から27日まで7夜連続で熱帯夜が続いていたというから、病室の暑さは相当だったと考えられる。

 藤掛院長の説明によると、病院↖は業者にエアコンの修理を依頼したが「直るまでに1カ月かかる」と言われ、扇風機9台を各病室に1台ずつ置いたという。重症患者についてはエアコンが効く2階に移した。

 最初の患者が死亡したのは26日午後8時40分頃。84歳の女性だった。続いて27日午前3時5分頃に85歳の女性、午前10時35分頃に83歳の男性、午前11時37分頃に84歳の男性が相次いで死亡。4人はいずれも3、4階に入院していた。当時、病院には約50人の入院患者がいたという。

 27日午後8時半ごろ、相次ぐ死亡を不審に思った関係者が警察に通報。県警岐阜中署の捜査員らが28日午後7時50分ごろ、殺人容疑で病院を捜索したという流れだ。

「殺人容疑というので驚いたが、警察側の説明は『状況が分からない中、広く捜査を行うため』というものだった」と社会部記者。捜索に先立つ28日午後6時38分ごろには当初3階に入院し、2階に移った84歳の男性患者が死亡していたことも明らかになった。男性患者の成年後見人が報道を見て不審に思い、岐阜中署に相談して発覚したという。

 「熱中症死か」「死者5人に」と報道が過熱する中、ツイッターではこの病院に以前務めていた看護師を名乗る人物が「10年以上前からエアコンが壊れていた」「ナースステーションでアイスクリームを食べないでくださいと張り紙をされた」などという内容を〝告発〟し話題に。事実とすれば、エアコンの故障は日常茶飯事だったということになる。病院は一部のエアコンの定期点検をしていなかったといい、岐阜市保健所は定期点検をするよう指導した。

 一方、死亡した5人については目立った外傷はなく持病もあったことから、「カルテに熱中症の症状の所見が書かれていた患者もいたが、熱中症で死亡したと結論付けるのは難しい」(社会部記者)という。藤掛院長も「熱中症で死亡したとは考えていない」と話しており、患者にぜんそくや心不全などの持病があったと強調した。

 都内の大学病院の救急医は「終末期の高齢者は、暑さや寒さを感じる力が弱く体力もない。体温が高くなり、意識レベルが徐々に下がっていく」と解説する。暑さによって体力が奪われ弱って死んでいくが、体温上昇などの予兆があることが多いという。

 別の医師は「年齢や持病などを考えると、エアコンの故障はせいぜい高齢者にとどめをさした程度とみるべきであり、死亡との因果関係を証明するのは難しいと思う」と語る。

県警の強硬な態度の背景に病院の悪評

 ではなぜ、岐阜県警はこれほどまでに強硬な態度で臨んだのか。それには、この病院の過去に原因があるとする声もある。

 「藤掛院長の父親は、90年に所得税法違反で厚生労働省から医業停止処分を受けた。脱税事件を機に陽生院長が病院を継いだのだろう」(社会部記者)。病院の内情をツイッターでぶちまけた前出の元病院看護師の投稿には、病院で2度の脱税事件があったこと、従業員のボーナスも削られるなど〝ドケチ〟な経営をしていたことも暴露されている。

 投稿を裏付けるように、『週刊文春』は陽生院長の妻が後妻であること、高級外車を乗り回す派手な生活で知られていたことなどを報じている。病院を事実上、取り仕切っていていたのはこの後妻で、地元では相当悪評が立っていたようだ。ちなみに、病院の名前「Y&M」は藤掛院長(陽生)と妻の頭文字だ。

 こうした悪評から、「県警が殺人容疑で捜索したのは、その〝先〟があるからではないかという憶測も出た」と社会部記者は明かす。「5人が相次いで死亡というのは衝撃的ではあるが、横浜の病院のように点滴に異物が入れられたわけでもなく、熱中症で死亡したというのは筋が悪い。脱税や詐欺など、この先の展開があるのではないかという見方もある」(同)。

 事件発覚後の囲み取材で、院長が「暑いところが好きな人もいる」と驚きの発言をしたことや、内情を把握しているとは思えない無責任な態度を見せたことも報道を過熱させた。患者の死亡を警察に届けなかったことを問題視して「医師法違反に抵触する」と伝えた新聞もあったが、医療事故に詳しい弁護士は「遺体に警察に報告すべき異状があったとは考えにくく、医師法違反は無理が過ぎる」と首をひねる。だが、報道が警察取材に基づくのであれば、県警は相当、立件に自信をもっている可能性がある。

 全国紙の医療担当記者は「岐阜県警といえば、12年に男児が予防接種後に死亡したことがあった」と語る。病院が警察に通報したことが発覚の契機だったが、「他の県警では病院から届け出があっても調べた上で立件する際に発表する。岐阜県警は事案を即日発表しており、医療に厳しいと感じた」と同記者。その後の厚労省の部会で接種と死亡の因果関係は不明と結論付けられたが、「正直に通報した結果、おかしな医療をしたのではないかと疑われた病院は踏んだり蹴ったりだった」とこの記者は振り返る。

 医療訴訟に関わったことがある関東地方のクリニック院長は「病院という密室に向けられる警察の目は厳しいと改めて実感した」とため息をつく。事件の経過を注意深く見守りたい。

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