SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

第180回 厚労省ウォッチング 子供予算「倍増」、首相発言を巡り政府混迷

第180回 厚労省ウォッチング 子供予算「倍増」、首相発言を巡り政府混迷

岸田文雄・首相は政府の「家族関係社会支出」を国内総生産(GDP)比で倍増を目指すとした自らの答弁を1週間で修正した。首相は再三、将来的に子供予算を倍増させると語って来たが、現行のどの予算を基準にするのかは曖昧なまま。「倍増」の言葉が一人歩きする状況に、厚生労働省幹部は「結果として国民の信頼を損ない兼ねない」と困惑を隠せないでいる。

「家族関係社会支出」は子育てを含む国と地方分の関連予算を経済協力開発機構(OECD)の基準に沿ってまとめた統計値だ。2020年度は約10兆8000億円になっている。

岸田首相が「GDP比倍増」をぶち上げたのは2月15日の衆院予算委員会。家族関係社会支出について「20年度の段階でGDP比2%を実現している。それを更に倍増しようではないかという事を申し上げている」と表明した。

ただ、首相答弁は「総額20兆円超の予算を確保する決意だ」と受け止められ、政官界に「政府は大幅増税に踏み込む」との憶測が広がった。統一地方選前という事情も有り、焦った首相は周囲に「真意が伝わっていない」と漏らした。

22日の同委員会。立憲民主党の泉健太代表の追及に首相は「子供・子育て予算を倍増させ、(GDP比で倍増方針の)防衛力と比べても決して見劣りしないという事を申し上げている」と釈明に追われた。そしてどの予算を「倍増」させるのかを問われると「中身を具体化しないと(倍増の)ベース(になる予算)がハッキリしないのは当然の事だ」と開き直り、家族関係社会支出を基準にするとした15日の答弁を打ち消した。

政府は子供予算の定義に関し、①こども家庭庁の予算(23年度約4・8兆円)、②少子化対策予算(22年度約6・1兆円)、③家族関係社会支出、を例示しているが、どれを基準にするかで「倍増」に要する財源は大きく違って来る。首相は6月迄に「倍増への道筋」を示すとした方針自体は撤回しておらず、最少の①でも約5兆円の追加予算が必要になる。にも拘わらず首相は27日の同委員会で「(政策の)中身を決めずして最初から国内総生産比いくらだとか今の予算との比較でとか、数字ありきではない」と述べ、姿勢を一層後退させた。

「倍増」の基準が不明確な中、木原誠二・官房副長官は21日夜の報道番組で「(少子化対策で)出生率が上がって来れば倍増が実現される」と語った。子供が増えれば児童手当等の対象者数が増え、結果として「倍増」を達成出来るという趣旨だが、厚労省幹部は「子供を増やす対策にカネが必要という議論をしているのに。迷言だ」とぼやく。

関連予算で最も巨費を要するのが児童手当の拡充だ。首相自身も児童手当を経済的支援の中心にすると明言している。しかし、自民党の茂木敏充・幹事長が求める所得制限の撤廃案についてさえも首相は慎重だ。挙げ句、首相は少子化対策を発表した3月17日の記者会見では、育休の給付率を男女とも手取りで10割に引き上げる等と表明、しれっと対策の柱を児童手当から男性の育児参加促進といった働き方改革に差し替えた。

「予算規模ばかりで、費用対効果を詰めてどの政策を優先するかという議論に欠けている」。昨年の出生数が79万9728人で初の80万人割れになった中、厚労省で子育て政策に関わり、現在外部に出向中の幹部は「倍増」を巡る政府の混迷ぶりをこう嘆いた。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top