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高額薬剤問題で注目される「医療技術評価」

高額薬剤問題で注目される「医療技術評価」
厚労省・日医・製薬会社・大学の代表者がシンポで議論を交わす

 厚生労働相の諮問機関、中央社会保険医療協議会(中医協)で医療技術評価(HTA)導入が検討され、2016年度から試行的導入が始まった。医療における費用対効果の検討は、安倍晋三内閣の「日本再興戦略」にも明記されており、新制度の導入は国の既定路線となっている。こうした状況を受け、医療技術評価国際学会(HTAi)の学術総会が今年5月、都内で開かれ、わが国の新制度が海外にも紹介された。

 一方、東京大学公共政策大学院「医療技術評価・政策学」寄付講座の主催で、医療技術評価に関わるさまざまな課題を討議する場として「医療技術評価シンポジウム」が開かれている。HTAi学術総会のフォローアップとして、第5回シンポジウムが「医療技術の費用対効果評価の試行的導入—今後の取組みと大学の役割─」をテーマに、10月24日に東京大学で開かれ、産官学の代表者が講演に立ち、議論を交わした。

イギリス型は日本になじまない
 医療技術が進歩すると、従来は治せなかった病気が治せるようになるなど、得られるベネフィットは大きくなるが、一方で医療費も増大していくという現象が起きる。最初に講演に立った厚労省保険局医療課企画官の眞鍋馨氏は、「公的医療制度のあるイギリス、フランス、ドイツなどでは、医療技術の経済評価を行って、公的制度でカバーする医療技術の選定などに用いている。最も早く医療技術評価を始めたのはイギリスで、1999年頃から。日本は2016年になって、ようやく試行的導入にたどり着いた段階」と現状を説明した。

 医療における費用対効果の導入では、効果をどう評価するかという問題があるが、これに関しては、QALY(質調整生存年)を基本とすることになっている。これは生存年数に生存期間中のQOL(生活の質)を加味したものである。新たな医療技術によって追加的に得られるQALYを、追加的にかかる費用で割った値が新たな医療技術の費用対効果となる。

 日本医師会常任理事の鈴木邦彦氏は、日本が参考にすべきなのはフランスだと主張した。

 「公的医療制度といっても、イギリスは税方式、フランスとドイツは日本と同じ社会保険方式といったように違いがある。当初はイギリス型を導入するとのことだったが、これは無理があると思っていた。QALYだけにとらわれるのではなく、費用対効果による医療技術の経済的評価と、従来の医学的評価の両方を用いる方式が良い。フランスではQALYより医学的評価が優先されるが、日本に導入するならそれが良いのではないか」

 イギリス型については、エーザイ代表執行役の土屋裕氏も問題点を指摘した。土屋氏は、製薬企業のミッションは健康と医療に貢献することだとし、それを実現させるためにキーワードとして「イノベーション」と「医薬品アクセス」を挙げた。革新的な医薬品を作り出し、それをいかに患者さんに届けるか、ということだ。

 「医療技術評価に最も厳密に費用対効果を用いているのはイギリスで、フランスやドイツは費用対効果を部分的に用いているにすぎない。そして、厳格な費用対効果を導入したことによって、イギリスでは医薬品アクセスに問題が生じている。例えば、承認を得た抗がん剤の4割以上が保険償還されず、使用できない状況になっている」

 費用対効果を採り入れた医療技術評価は重要だが、それによって医療の質が低下するようでは困る。慎重な検討が必要だろう。

新しい分野なので人材育成が不可欠
 また土屋氏は、医療技術評価を導入した場合の具体的な問題点を、企業側の立場から指摘した。「企業が費用対効果分析を実施して資料を提出するのには、相当の期間が必要となる。例えば新薬で薬価申請を行う場合、それに合わせて資料を出すのは難しい。企業には費用対効果分析を行える人材も体制も整っていない」。本格導入までに解決すべき課題である。

 現在の医療技術評価は試行的導入の段階だが、今後、本格的に導入していくためには、体制作りや人材育成が必要となってくる。現在までは厚労省の中で進められてきたが、この体制でやっていくことに鈴木氏は疑問を呈した。

 「このまま厚労省の中でやっていけるのか疑問である。海外のように、しっかりとした独立した組織を作った方が良いのではないか。きちんと議論しておく必要がある」

 これに対し、厚労省はあくまで省内で進めていく考えだ。ただ、どこが担当することになったとしても、新しい分野だけに専門家が不足していることは間違いなく、人材の養成は急務である。

 東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学教授の小林廉毅氏は、医療技術評価のための人材育成について、現状を次のように説明した。

 「医療経済学の国際学会は1990年頃から存在していて、2年に1度、世界の各地で学会が開かれている。医療技術評価に関しては、学際的な教育プログラムができている大学もあるし、データベースセンターを持つ大学もある。日本は遅れを取っていて、大学で教育プログラムを立ち上げていく必要があると感じている。そのために必要なのは、医学系と公共政策、医学系と経済学を組み合わせた新しい仕組みを作っていくことである」

 医療技術評価を実施していくためには、医学的な知識がどうしても欠かせない。新たな教育プログラムと新たな枠組みが必要になってくる。

 小林氏は「新たな教育プログラムを立ち上げても、そこに人が集まらなければ意味がないが、試行的導入が始まったことで、医薬産業や医療界からも、学びたいという学生や大学院生が集まるのではないか」と予測した。

 東京大学公共政策大学院特任教授の鎌江伊三夫氏は「イギリスのNICE(国立医療技術評価機構)が活発に活動している背景としては、優れた教育プログラムや、大学に厚い人材が存在していることが挙げられる。NICEが誕生したときからそうだったわけではないので、やはり人材育成のための教育は重要である」と語った。

 多くの課題を残しながらも、日本の医療技術評価が本格導入に向けて進んでいることは間違いない。現在は企業がデータを提出している段階で、これから第三者による再分析が始まるという。動き出した日本の医療技術評価だが、土屋氏は「費用対効果分析を行うことは大切だが、その目的が、医療費削減に矮小化されてしまうのは大きな問題である」と警鐘を鳴らしている。

 この点について、東大公共政策大学院長の飯塚敏晃氏が次のように述べた。「医療技術評価が必要なのは、利用可能な資源が限りあるものであるため。人、物、金、情報といった資源を、より良いところに投入するのに、費用対効果による評価は一つの基準を与えてくれる」。限られた資源を効率的に使うためにも、医療技術評価の本格導入までに解決すべき課題は多い。

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