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第80回 タミフルによる異常行動と突然死

浜 六郎 NPO法人 医薬ジランスセンター(薬チェッ)代表

浜六郎はじめに
 抗インフルエンザ剤「タミフル(オセルタミビル)」を服用後に突然死した男児と、異常行動後にマンションから転落・事故死した2人の中学生の遺族が、医薬品医療機器総合機構(PMDA)に対して副作用被害として認めるよう求めた裁判で、2016年9月6日、最高裁は、上告不受理の判断をし、原告の敗訴が確定した。インフルエンザによる「可能性もあながち否定し去ることはできない」などとしてタミフル服用との因果関係を否定した下級審の判決を支持した。

 筆者は2005年以来1)、タミフル服用後の異常行動死や、突然死の症例報告をし、基礎的研究を点検してきた。疫学調査を実施、解析し、コクラン共同計画に参加しタミフルの効果と害を研究してきた。

 これまでに発表した中で、医学的に訂正を要することはなく、因果関係を支持する証拠がますます集積してきている。最近、発症機序に関する総説論文(英文)を2編書いた2, 3)。これらの事実から、Bradford Hillの因果関係に関する条件を満たすことを指摘する。

因果関係の推論に必要なBradford Hillの条件
 物質Aと事象Xとの因果関係推論のため、Brad-ford Hillが提唱した9項目を米国公衆衛生局長諮問委員会が5点に集約した。関連の、(1)時間性、(2)強固性、(3)特異性、(4)一致性、(5)整合性だ。

(1)時間性:物質Aを使用後に事象Xが生じている。

(2)強固性:危険度(オッズ比OR、リスク比RR、ハザード比HR)が有意で値が大きい、用量反応関係。

(3)特異性:関連の強固性が著しく、例えばORが40〜100以上で、他に原因が(ほとんど)ない。

(4)一致性:上記のような関連性が時間と空間が異なる複数の調査で示されている。

(5)整合性:因果関係があるとした場合に、基礎的、臨床的、疫学的な様々な現象が矛盾なく説明できる。

タミフルと異常行動
 異常行動(精神症状)は添付文書にも記載されており、それだけでも因果関係が認められ、被害救済が認められなければならないものだ4)

 方法論上のレベルが最も高いランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューを実施し、用量-反応関係のある精神症状の増加を報告した。疫学調査中最もレベルが高い前向きのコホート研究3件で異常行動が高まること(時期を限ると4.0〜7.0程度の大きい危険度)から、強固な関連が認められている。

 自発報告では、死亡に至る異常行動が、「リレンザ」での報告はないが、タミフルでは30件が報告され、ORは44.1(p<0.0001)で特異的といえる。

 時間性はどの調査も満たし、強固な関連が複数の調査で認められ、一致性がある。

 さらには、動物実験で、タミフル服用ラットの危険認知能が欠如すること、マウスが異常行動を起こし、MAO-Aを阻害すること、低体温も繰り返し報告され、矛盾することがなく、整合性をも満たす。

 以上の結果により、タミフルと異常行動との因果関係は確立しているといえる。

タミフルと突然死
 2009/10インフルエンザに罹患し死亡した198人のデータを利用し、リレンザ処方700万人とタミフル処方約1000万人中、12時間以内に急変後、死亡した例を比較した。リレンザ処方者では0人だが、タミフル処方者では38人いた。どの年齢でも同じ傾向があり、年齢調整し、統計学的に有意であった。リレンザでは0人であるため、タミフルに特異的である。

 自発報告の突然死を分析すると、リレンザ使用者の1人に対し、タミフルでは61人。リレンザに対する報告ORは21.0(p<0.0001)。ORが極めて高く、関連は強固である。いずれの調査でも時間的関連があり、複数の調査で関連が一致している。

 製薬会社が販売の承認を得る前に実施した動物実験や、市販後因果関係の再検討のために実施した7実験を総合し、用量反応関係が認められた(用量が100mg/kg増加するごとに、死亡オッズが2倍以上に)。その機序として、呼吸が停止した結果で心停止が生じることが証明されており、臨床症例や疫学調査の結果とも一致しており、整合性がある2)

判決は科学性水準がダブルスタンダード 
 以上のように、異常行動後の事故死や突然死は、臨床的、疫学的、基礎医学的な面で、科学的根拠があり、因果関係が確立しているといえる。この状況にもかかわらず、なぜ裁判所が「関連がない」と言い切り、原告が敗訴になったか、触れておきたい。

 一般に、Aの曝露と事象Xとの因果関係の議論では、「関連あり」が全て否定されて初めて関連なしが主張できる。そして、公正な裁判とは、原告の「関連あり」とする根拠と「関連なし」とする被告の根拠を同じ基準で判定すべきであるが、タミフルの裁判では一貫してダブルスタンダードが用いられた。

 国が被告になった裁判で、国の関係者および関係組織における「関連なし」とする「意見」や、極めて低レベルの報告を全面的に採用し、「関連あり」とする原告に対しては、異常行動も突然死も「高度の蓋然性の証明」で足りず、Bradford Hillの全条件を満たす根拠でさえ、不足とする。

 科学的証明が一定のprobability(蓋然性)の証明の積み重ねでなされることは、前述の因果関係の推論の条件をみれば明らかであるが、それでも足りず、「一点の疑義も許されない自然科学的証明」という無理難題を原告には要求し、被告国の、EBMでいう最も低レベルの「権威者の科学的根拠によらない意見」を根拠に判断した。数ある例の一部を以下に示す。

(1)可能性もあながち否定し去ることはできない

 名古屋地裁は「インフルエンザ自体によるものであったとしても矛盾するものではない」「インフルエンザ自体による可能性もあながち否定し去ることはできない」と判断したが、これではタミフルを否定できない。

(2)インフルエンザ脳症では12時間以内死亡なし

 PMDA側の臨床医の証人水口雅医師が報告した発熱後半日以降にショック状態に陥った1例を「薬剤が関与していないインフルエンザ脳症による突然死例」の有力な証拠とし、たった1例で「タミフルの服用と突然死との間の因果関係が否定されることを裏付ける有力な根拠といえる」とし、100人以上に上る疫学的、実験的根拠もあるタミフルよる突然死を否定した。

(3)ラット呼吸停止はタミフルでなく酸性液のため

 木村-櫨論文の、成熟ラットに用い、用量依存性の呼吸停止後-心停止を認めた実験を否定し、「死亡は酸性液(PH4)のため」とした国側証人大野氏の意見を採用。前述毒性試験の用量依存性の死亡増加も採用せず。

(4)明確な実験結果を全く考慮せず

 低体温が10件以上の実験で再現され(Onoら)、その機序としてニコチン性アセチルコリン受容体遮断作用によるとした実験結果(Murakiら)や、異常の機序として、ドパミンなど興奮性アミンの代謝酵素MAO-Aをタミフルが阻害し、しかも結合部位も特定した実験報告(Hiasa-Kuzuharaら)などについては、何ら検討することなく、無視した。

科学と、行政/司法との乖離は克服可能か
 筆者はこの裁判ですでに20編以上の意見書、鑑定意見書を書き、英文論文も13編公表してきた。冒頭に述べたように、因果関係は確立しているといえる。しかるに、その科学的根拠と、国の安全対策関連の諮問委員会や行政(医薬食品局)、さらに司法の判断は、極端に乖離している。その克服を今後の課題としたい。


参考文献
1) 薬のチェック速報版、No49,59,61-63など多数 
http://www.npojip.org/contents/sokuho/1.html 
2) ‌Hama R, Bennett C. The mechanisms of sudden-onset type ‌adverse  reactions to oseltamivir. Acta Neurol Scand. 2016 Jun 30.
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ane.12629/epdf
3) ‌Hama R. The mechanisms of delayed onset type adverse ‌reactions to oseltamivir. Infect Dis (Lond). 2016;48(9):651-60.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4973146/
4) 津田敏秀、名古屋高裁に提出された意見書(2015.4.16付)

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