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第165回 ◉ 浜六郎の副作用ノート 去痰剤で逆説的呼吸困難

第165回 ◉ 浜六郎の副作用ノート 去痰剤で逆説的呼吸困難

カルボシステインは乳幼児の感冒やインフルエンザ、気管支炎などに「去痰剤」として多用されている。アナフィラキシーや重篤な薬疹、過敏症として「呼吸困難」など副作用が添付文書上記載されている。添付文書に記載がないが、乳幼児に、抗ヒスタミン剤などとの併用で低血糖をきたしうる1)

フランスとイタリアで、2010年、カルボシステインとアセチルシステインは、2歳未満の幼児には承認が取り消された。根拠は、呼吸が増悪する例が2歳未満で多かったためだ2)。このparadoxical respiratory adverse drug reactions(逆説的呼吸器系害反応)に関する論文を薬のチェック104号3)で解説した。その概略を紹介する。

自発報告害反応のまとめ

カルボシステインおよびアセチルシステインに関して、1989〜2008年における自発報告139例中、呼吸器疾患(気管支炎、細気管支炎、肺炎)の経過中の増悪、急性咳嗽中の気管支漏の増加、粘液嘔吐、呼吸困難、長引く咳、および気管支痙攣など、逆説的呼吸症状が増悪した例で、呼吸困難悪化の症状が現れた前日までに上記去痰剤(粘液溶解剤)が2日以上(200mg以上)使用された例59例を解析した。

結果のまとめ

カルボシステイン30例、アセチルシステイン28例、2剤併用が1例であった。使用期間は平均5.9日。平均用量はカルボシステインの181mg/日(23mg/kg)、アセチルシステイン平均用量182mg/日(27mg/kg)であった。

気管支炎時の呼吸困難の悪化35人、気管支喘息の増加19人、呼吸困難18人、咳の悪化または延長11人、粘液嘔吐8人、肺炎3人、急性気管支炎2人、気管支痙攣1人であった。大部分(51例)で入院または長期入院を必要とし、すべての患者で薬剤が中止された。酸素療法を要したのが18人、12人に抗生物質、9人の喘息発作に副腎皮質ステロイド、11 人に吸入 β2 作動剤が使用された。胸膜肺炎を発症した1例と、肺水腫で死亡した1歳女児を除き、経過は良好であった。

論文著者らの考察

乳児の気道は解剖学的・生理学的に粘液腺が多く、気管支径が小さく、筋肉の発達が未熟であり、去痰剤で気管支粘液流が増加すると、乳児の自然排液能力を超える可能性がある。その結果、咳が長引き、急性気道感染時の呼吸困難が悪化する。総説論文や薬理学教科書では早くから言及されていたのに、この害があまり知られていない点を論文の著者らは強調している。そして、初発症状バイアスが存在するために因果関係の証明は困難である。初発症状バイアスを回避し、薬剤の逆説的害反応を評価する唯一の方法は、別の無関係な疾患で検討することだが、カルボシステインは呼吸器感染症が唯一の適応症であるので不可能であるとした。

去痰剤としての有効性証明も乏しい

両剤は、コクランのシステマティックレビューでは去痰剤としての有効性の根拠は乏しい、もしくは、慢性気管支炎など慢性の閉塞性呼吸器疾患に用いて、再発を軽減するかどうかについては、初期の結果と最近の結果が著しく異なるため、実際の効果はみかけよりもずっと低い可能性があるとされている。

結論:カルボシステインは小児には利益はなく、害だけがある。日本でも小児には中止すべきだ。

参考文献

1)  薬のチェックは命のチェック 2002:2(5):58-69.
2)  Mallet P et al. PLOS One. 2011:6(7):e22792.
3)  薬のチェック 2022:22(104):140-142.

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