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第168回 浜六郎の臨床副作用ノート ◉ 抗肥満剤ウゴービで自殺事象増

第168回 浜六郎の臨床副作用ノート ◉ 抗肥満剤ウゴービで自殺事象増

GLP-1作動剤の肥満症用剤セマグルチド(ウゴービ®皮下注)は2023年3月に承認されたが、24年3月から販売される 。ウゴービは、糖尿病用剤としてのセマグルチド0.5mgの約5倍に相当する2.4mgを週1回皮下注射して、中枢性に食欲を落とす結果体重を減らす 。アイスランドからウゴービ使用後の自殺の報告を受け、EUや米国など、各国規制当局はその因果関係を検討中である。 

薬のチェック誌1)では、すでに欧米で抗肥満剤として用いられているリラグルチドと、日本でも承認されたウゴービの2剤について、ランダム化比較試験(RCT)のデータを用いて自殺との関連を検討したので、その概略を報告する。 

RCTのメタ解析で、有意に自殺事象増加 

RCT中の自殺事象の件数は、公表論文に加え、米国の添付文書や規制当局(FDA)の承認時の文書を参照し、試験製剤使用中の自殺事象を抽出した。

リラグルチドの成人RCTでは、リラグルチド群3384人中6人(2.0%)、プラセボ群1941人中0人、同思春期のRCTでは、それぞれ、125人中1人(自殺完遂)と126人中0人であった。

ウゴービのRCTは、成人、思春期、心不全の肥満者を対象にRCTが10件以上実施され論文として公表されたが、ほとんどの論文で自殺事象の記述がない。自殺事象が論文に記述された唯一のRCTは思春期の肥満者を対象とした試験である。自殺念慮がウゴービ群133人中0人、プラセボ群67人中1人である。ところが、FDAの資料によると、試験開始前の自殺念慮の既往歴は、プラセボ群(10.4%)がウゴ—ビ群(3.0%)よりも有意に多く(プラセボ群のウゴービ群に対するオッズ比3.8、p=0.029)、ウゴービ群に著しく有利な偏りがあった。

FDAの情報から、自殺念慮の既往歴が明らかな成人の3件のRCT(STEP1-STEP3)ではウゴービ群2116人中5人(0.24%)、プラセボ群1260人中2人(0.16%)と判断できた。しかし自殺念慮の既往歴のリスク比は0.610(p=0.0614)であった。背景因子の偏りを補正し、プラセボ群の自殺事象として2ではなく、2×0.610=1.22を用いた。

リラグルチドの成人(6/3384対0/1941)、同思春期(1/125対0/126)、ウゴービ成人3試験(5/2116対1.22/1260)をメタ解析した結果、統合オッズ比6.88(95%CI:1.03, 291.6)、P=0.0412(Fixed effects条件付最尤法)、I2=0%を得た。

SELECT試験:自殺完遂データが公表されず 

心血管疾患を合併した肥満者1.7万人を対象にウゴービを使用したRCT(SELECT試験)の開始後初期に、自殺完遂者が3人、未遂者が1人いたことがFDAの文書で判明している。しかし、23年11月に公表された論文には、背景因子としての自殺関連の既往歴はもちろん、試験中の自殺事象のデータも全く記載がない。米国FDAもSELECT試験の自殺事象データを公表せず、早々に自殺との関連はないと否定したが、公表を要する。SELECT試験の遮蔽不全の問題はMedCheck2) No.28参照。

観察研究でRCT結果の否定は不可能 

24年1月に出版された観察研究論文では、他の糖尿病用剤や他の抗肥満剤と比較してセマグルチド使用後の自殺念慮の発症率が少なかったとして、自殺念慮との関連を否定した。しかし、セマグルチドが糖尿病用なのか肥満症用なのか区別ができていない欠陥調査である。したがって、RCTのメタ解析による約7倍におよぶ有意な自殺事象との関連を否定する根拠にはなりえない。

実地臨床では

ウゴービを肥満症に用いると、自殺行動・自殺念慮を増やす。本来良性疾患である肥満症に自殺行動を増やす危険な薬剤は使うべきでない。


参考文献

1)薬のチェック2024:24 (112):35-38(予定)
2)https://medcheckjp.org/english/

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