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未来の会

第79回 トリメトプリムは妊娠前も催奇形

浜 六郎 NPO法人 医薬ジランスセンター(薬チェッ)代表

hama6はじめに 抗菌剤トリメトプリムは、葉酸拮抗作用を有するため奇形を引き起こす。妊娠第1期に胎児がトリメトプリムに曝露されると神経管閉鎖異常や口蓋裂、尿路奇形、心臓奇形の発症と関連があることは複数の研究により実証されている。とりわけ神経管閉鎖異常は、受胎時あるいは妊娠第1期における葉酸欠乏と関連がある。 日本では、トリメトプリムは、コトリモキサゾール(ST合剤)すなわちサルファ剤(スルファメトキサゾール)との合剤の形でのみ使用可能である。

 今回は、たとえ妊娠前であっても、トリメトプリムを服用すると、奇形が増加し得ることを、巧みな疫学調査で示した、デンマークの研究チームによる論1)を紹介する。本稿は、フランスの情報誌の記事を薬のチェックTIPに翻訳・掲載2) したもののまとめである。

時間差利用-症例-対照研究
 この研究は、原著論文1)では、case-crossover designによって実施したとされているが、実際には、全例、薬剤を使用した人を対象とし、時間差を利用して症例対照研究を実施したものである。この手法は、本誌2016年4月号で紹介した、コリンエステラーゼ阻害剤による徐脈との関連を指摘した論文で用いていた手法と、基本的には同じである。

 妊娠前15か月から出産までにST合剤を服用したことのある母親2699人を対象に、大小さまざまな先天奇形と、ST合剤服用との関係を調査した。奇形を有する子を出産した母親は278人、奇形のない子の母親は2421人であった。

 妊娠開始3か月前の「危険期」と、その1年前の「参照期」の二つの時期にのみ服用して奇形のあった106人を症例群とし、同時期にのみ服用して奇形のなかった888人を対照群として危険期における服用のオッズ比を求めた。

 症例は68人が「危険期」に曝露、38人が「参照期」に曝露、対照群は危険期に460人、参照期に428人が曝露していた。

 「危険期」における曝露で奇形が現れる危険度が統計学的に有意に増大していた。オッズ比は1.66(95%信頼区間:1.10〜2.53)であった。

 「参照期」を別の時期に設定しても同様の結果が得られた。大奇形へのリスクについては統計学的に有意差を認めなかった。

 研究チームは、感染性疾患での似た状況での比較として、ベータラクタム系抗生物質のピブメシリナムの曝露を受けた母親から生まれた子供で同様の分析を行った。妊娠直前に、この抗生物質へ曝露されても奇形のリスクが増すことはなかった。

妊娠可能性のある女性にはST合剤は避ける
 これらのデータを踏まえると、妊娠開始の数週間前の時期に使用された場合のトリメトプリムの葉酸拮抗作用を見過ごしてはならない。もうすぐ妊娠するかもしれない女性においては、他により安全な抗菌療法がない状況だけに、ST合剤の使用を制限すべきである。

 ST合剤による治療が正当化される場合でも、葉酸にはある種の奇形を予防する効果が立証されていることから、葉酸の補充は良識ある手段と思われる。しかしながら、葉酸とトリメトプリムとの併用については、これまで適切に検証されたことはない。

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