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消費増税再延期で「社会保障と税の一体改革」は破綻

消費増税再延期で「社会保障と税の一体改革」は破綻

医療供体制抜本的見直しをめぐる駆け引格化へ 「消費税増税が2度も延期されたことで、誰もが『3度目もある』と疑っている。社会保障と税の一体改革は破綻した」。厚生労働省幹部が悩ましげに語った。

 「安倍(晋三)首相は『赤字国債を財源に社会保障の充実を行う無責任なことはしない』というが、本当にアベノミクスによる果実だけで対応できるのか。それは、とても安定財源といえる代物ではない」との批判である。

 これについて、別の厚労省幹部は「目的税化された消費税とは異なり、成長の果実が全て社会保障費に回ってくる保証はない。そうでなくとも安倍首相は参院選を前にして、保育士や介護職員の待遇改善など次々とお金のかかる新たな政策を打ち出している。こうした政治銘柄の政策が優先されるとなれば、一体改革のメニューなどなし崩しに中止となる」と続けた。

「骨太方針」で患者負担増を暗示  厚労官僚たちが頭を抱えるのは、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2016」に「『経済・財政再生計画』の枠組みの下」という文言が残ったことだ。厚労省中堅は「この表現が社会保障費の伸びを年5000億円に抑える財政再建目標の堅持を表している」と解説し、「財務省がギリギリのところで頑張ったということだろう。しかし、赤字国債は発行しないで、どこまでやり繰りできるのか」と疑問を投げ掛ける。

 冒頭の幹部が続けるように語った。「大きな改革が予定されていない来年度予算を大胆に絞り込めといわれても、やりようがない。消費税増税の先延ばしによって子育て支援策だけでも1000億円の穴があくのに、『5000億円に抑制する』というのは至難の業だ。高額医薬費の価格の引き下げも、消費税増税に伴う臨時の診療報酬改定がなくなってしまったので難しくなった。もはや『打つ手無し』というのが正直なところだ」

 財務官僚OBは「社会保障は給付と負担のバランスだ。増税が駄目なら、保険免責制度や高額療養費制度の上限額の引き上げなど、これまで与党内で抵抗の強かった患者の負担増や保険料アップを飲んでもらうしかない。当然、そうした議論を始めることになる」と突き放すように語った。

 これには、自民党厚労族の中堅議員が危機感を隠さない。「安倍首相も首相周辺も、当面の景気の落ち込みを避けようということで頭がいっぱいなのだろうが、消費税増税をしないのなら『5000億円への抑制方針』も撤回すべきだった。このまま突き進んでいけば、来年の5000億円の抑制目標は達成できず、その翌年にまとめてということになる。といっても、簡単に状況は変わらないだろう。結局は医療や介護の自己負担増と2年後の診療報酬改定や介護報酬改定がターゲットになり、大幅引き下げを求められることは間違いない」との恨み節だ。

 永田町関係者の見方はさらにシビアだ。「消費税増税の先延ばしによって、霞が関と医療関係団体との戦争が始まる」との指摘である。「首相の決断で先延ばしが決まったということは、財務省にとってどんなことがあっても社会保障費を抑制しろというミッションが与えられたようなものだ」と解説する。

 さらに続けた。「首相サイドや財務省の腹積もりは、診療報酬の引き下げなどという小手先の抑制策ではなく、医療提供体制の抜本的見直しにあるようだ。骨太の方針は素案段階では、医師の地域偏在・診療科偏在対策について『規制的手法も含めた』としていた。日医(日本医師会)などの反発を受けて、とりあえず『実効性のある対策を検討する』と表現ぶりこそ改めたが、決してトーンダウンしたわけではない。安倍政権は、基本的に日医が本気で刃向かって来ることはないと足元を見ている」というのだ。

 これについて、前出の財務官僚OBは、「骨太の方針の社会保障改革はさまざまなことが書かれているが、とにかく地域医療構想を全都道府県で完成させなければならないというのが首相官邸の思いだろう。医師が自由に診療科を選べ、無計画に開業できる現在のルールを見直さない限り、医療の無駄はなくならない」と解説を加える。

 「厚労省の有識者会議で『医師過剰』の推計や、開業条件として医師が不足する地区や診療科での一定期間の勤務を義務付ける案がまとめられたのも、その一環だ。戦後の医療政策は日医を中心とする医療界の発言力の前に改革は阻まれてきたが、もはやひるんでいたのでは少子高齢社会に対処できない。官邸も財務省も増税再延期をチャンスとしてタブーに挑戦するだろう」との見立てだ。

 一方、「足元を見られている」とやゆされた日医は警戒感を示し、全国医学部長病院長会議との医師偏在解消策検討合同委員会が取りまとめた「医師の地域・診療科偏在解消の緊急提言」に基づき対応すべきとの立場をとっている。日医の横倉義武会長は5月の記者会見で「医師の異動をフォローアップし、キャリアを支援するのは出身大学の責任」などと語った。

 だが、組織内には「安倍政権に恭順の意を示してきた横倉会長が、首相官邸の意向に逆らえるのか。遠巻きには声を上げるだろうが、どこまで政治交渉できるか疑わしい」(地方医師会関係者)と不満の声も少なくない。

 こうした中、思わぬ造反が勃発した。石井正三常任理事が、横倉氏を批判して6月25日投開票 の日医会長選に出馬したのだ。

日医劇を官邸と 石井氏に近い地方医師会の幹部は、出馬の背景について「横倉会長は安倍政権批判を禁じる。だからといって、代替案を提言する力もない。ただただ安倍政権が決めた方針に追随してきたのが実態だ。これに不満を持つ先生方の声なき声を統合していこうというのが、石井先生の思いだ。石井会長になれば、日医としての独自提言を政府・自民党にどんどん申し入れていくことになるだろう」と説明する。

 こうした石井陣営の動きに、横倉派の地方医師会幹部は「石井先生と横倉会長とでは実績があまりにも違う。横倉会長だからこそ、自民党との関係を築けてきたことを忘れてはいけない。ここで会長が交代するようなことになれば、日医はますます政府・自民党から相手にされなくなる」とけん制した。

 日医内の内紛劇ともいえる状況に、中立派のベテラン医師が皮肉混じりにつぶやいた。「社会保障、とりわけ医療が大きな転換期にあるからこそ、路線対立が生まれるのも当然だが、日医がもめるのを一番喜ぶのは首相官邸であり、財務省だ。ぼやぼやしていたら自由に診療科を選ぶことも、開業することもできなくなってしまう」

 日医会長選の行方にかかわらず、7月の参院選以降、医療界と首相官邸、財務省、厚労省との間で激しい駆け引きが繰り広げられそうだ。

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