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未来の会

第142回 自民党役員人事は権力闘争のトリガー

第142回 自民党役員人事は権力闘争のトリガー

 「ポスト安倍」を巡る自民党内の攻防が日増しに激しくなっている。焦点は任期1年で毎年秋に実施されてきた党役員人事と、それに呼応する内閣改造だ。

 9月8日で田中角栄・元首相が持つ幹事長の通算在職記録を塗り替えて歴代最長となる二階俊博・幹事長の去就が最大の見所となる。「留任」でも「退任」でも、二階幹事長の処遇を起点に「ポスト安倍」を巡る権力闘争が本格化しそうだ。

二階退任なら〝仁義なき戦い〟勃発?
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二階氏の処遇はいかに

 「幹事長人事が闘争のトリガー(引き金)になる」

 自民党中堅は少し物騒な表現を使った。新型コロナウイルスの感染拡大に世の中の関心が集中する中、自民党内では第2次安倍晋三政権発足後、長い間封印されてきた本格的な権力闘争が始まろうとしていると言うのだ。

 「安倍首相は二階さんを幹事長からはずし、岸田文雄・政調会長を据えたいんだと思う。岸田さんもそれを望んでいる。でも、二階さんは留任の腹づもりだ。下手にはずせば、二階さんは安倍首相と敵対する石破茂・元幹事長に急接近し、〝仁義なき戦い〟の勃発だ。二階さんを敵に回さずに退任させる妙案を探しているんだと思う」

 国会閉会後、安倍首相はメディアへの露出を控え、当初は率先して説明に当たってきた新型コロナへの対応についても、西村康稔・経済再生担当相兼新型コロナ対策担当相に任せっきりだ。

 あまりに出番が少ないので、一部では「体調悪化説」も流れ、「首相官邸内で吐血」との報道まで登場した。自民党中堅によれば、雲隠れに見える現状は「党役員人事と今後の政局分析という深謀遠慮の時間」なのだという。

 安倍首相の日程を探ると、妙な動きがあるのは確かだ。その1つは、7月22日の二階幹事長との会食だろう。4連休前日のその日、安倍首相は東京・銀座の高級ステーキ店で二階幹事長と会食した。メンバーには、プロ野球・ソフトバンクの球団会長である王貞治氏や俳優の杉良太郎氏、洋画家の絹谷幸二氏ら二階幹事長と懇意な各界の重鎮が並んだ。主催はもちろん二階幹事長だ。

 このメンバーでの会食を安倍首相は一度、公務を理由に断っている。再設定に応じたのは、互いの腹を探り合う好機と捉えたからに他ならない。

 9月中にも行われる党役員人事を巡り、安倍首相と二階幹事長は春先から水面下の駆け引きを続けている。最大の焦点が二階幹事長の処遇である事は言うまでもない。

 二階幹事長が、安倍首相が嫌悪する石破元幹事長の派閥パーティの講師を引き受け、菅義偉・官房長官を呼び掛け人の1人に取り込んだ派閥横断の議員連盟結成に動いたのも、秋以降の政局の布石とみられている。

 安倍首相の周辺が語る。

 「安倍首相は通算在職日数で史上最長という勲章と共に二階幹事長を勇退させ、名誉職的な副総裁で処遇したい考えだ。だが、二階幹事長は実権のある幹事長職に固執している。ギリギリのせめぎ合いが続いている」

 安倍首相は昨年、自身の後継含みで岸田政調会長の幹事長就任を想定していた。しかし、コロナ対策等で失点し、国民的な人気ももう一つの岸田政調会長への期待感は急速に萎んでいるという。

 「ワンポイントで気の置けない仲間である甘利明・税調会長や下村博文・選対委員長が浮上するかもしれない。その場合は、安倍首相が岸田政調会長を捨てたという事だろう」

 安倍首相周辺からはこの所、岸田政調会長を突き放した言動が目立つ。ただし、党内では「〝岸田本命〟という本音を隠すためのカモフラージュ」(石破派関係者)との見方も多く、幹事長の有力候補である事は間違いない。

 その岸田政調会長は8月4日、麻生太郎・副総理兼財務相らと東京都内で会食し、党内での支持拡大の動きを活発化させている。岸田政調会長は7月下旬に安倍首相と会食した他、6月以降、二階幹事長、細田博之・元幹事長ら各派閥の領袖らとの会合を重ね、党内の基盤固めを着々と進めてきた。

 岸田派幹部は「岸田が幹事長になれるのなら、それが1番だ。しかし、政治には時々の流れがある。そうならない場合に、どうやって総裁への道を固めるかを考えている」と胸の内を語る。

国会議員票の岸田と国民人気の石破

 一方、ポスト安倍で、岸田政調会長の最大のライバルとみられる石破元幹事長は月刊誌のインタビューで総裁選について「浅学非才で任に堪えないのでできないなんぞと言える立場か」と不退転の決意を表明した。

 また、竹下亘・元総務会長、二階幹事長、菅官房長官の名前を列挙し、「ふるさとや地方に対する愛情が強い方々だ」と親愛の情を示した。「幹事長退任なら石破を担ぐ」と噂される二階幹事長を持ち出して、安倍首相らをけん制した格好だ。

 日本経済新聞が「次に首相にふさわしい人」を尋ねた7月の世論調査で、有効回答の26%を占めて1位になったのは石破元幹事長だった。岸田政調会長は5%で5位に甘んじている。

 興味深いのは自民党支持層の内訳だ。トップは22%を占めた石破元幹事長で、同じ質問で聞いた2019年5月以降の調査で、初めて安倍首相を上回った。岸田政調会長は7%だった。

 ポスト安倍レースを俯瞰すると、岸田政調会長は最大派閥の細田派等の支持を取り付け、国会議員票で優位に立つ。一方、石破元幹事長はコロナ対応での安倍政権への批判票も取り込み、国民的な人気で優勢を保っている。

 石破元幹事長が二階幹事長や菅官房長官らに盛んに秋波を送るのは「地方(選挙区)」という切り口で、岸田政調会長の固めた「派閥」を切り崩そうとの思惑があるからだ。

 岸田政調会長が幹事長に就任すれば、選挙での「公認権」を握って「地方(選挙区)」を押さえ込む形になり、石破元幹事長の派閥分断策は封じられる。幹事長人事の重さはこの辺にもある。

 かつての闘争本能が騒ぐのか、自民党長老はこう言い放った。

 「誰が幹事長になっても長期政権の終わりの混乱は避けられないだろう。野党が低迷しているのだから、ここは思い切った政策論争、派閥抗争も含めた大政局をやって、新たな党内活力に結び付ければいい」

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