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第70回 また一つ加わった「グローバル経営」の失敗例

第70回 また一つ加わった「グローバル経営」の失敗例
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行
また一つ加わった「グローバル経営」の失敗例

 武田薬品工業は3月16日、100%の子会社である米国の医薬品販売会社・武田ファーマシューティカルズ社が、米オレキシジェン・セラピューティクス社との間で、肥満症治療薬の「コントレイブ」に関する販売提携を解消すると発表した。

 武田のプレスリリースでは、「両社間の提携解消に合意いたしました」とあるだけで、部外者にはいったい何が起きたのか知る術もない。要するに武田側が当初の見込みに反して肥満症治療薬の売り上げが伸びず、販売から手を引いたということなのだ。同時にそれは、武田の会長である長谷川閑史が何かにつけて吹聴しまくっている「グローバル経営」の失敗例が、また一つ加わったということを意味しよう。

 武田ファーマシューティカルズが、オレキシジェン・セラピューティクスから「コントレイブ」の米国とカナダ、メキシコにおける開発・販売権を獲得したのは、2010年9月のこと。

 だが以後、両社の前途を暗示するかのように、初めから異例のトラブル連続となる。そもそもこの時点で、「コントレイブ」はFDA(米食品医薬品局)の認可すらも受けていなかった。それでも武田側は米国での肥満症治療薬に並々ならぬ期待を抱いていたようで、オレキシジェンとの提携を急ぐ。

 ところが11年2月、FDAの内分泌代謝諮問委員会は、13対7で「コントレイブ」の承認を推奨したものの、当のFDAはこれを認めず、待ったをかける。どうしても長期服用による心血管リスクが懸念された模様で、オレキシジェンに追加試験を命じた。

肥満症治療薬をめぐる国内外の迷走
 14年9月になってようやくFDAから承認が得られたものの、市販後の臨床試験実施という厳しい条件付きだった。ところが何を思ってか、オレキシジェンは販売後の15年3月になって、FDAの許可も得ずに「主要心血管イベントを半減した」との中間解析試験を前倒しで発表してしまう。当然、FDAは激怒し、「早期のデータ公表で試験の完全性が損なわれた」として、次の安全性試験を実施するよう命じた。

 これによって武田との関係も完全にギクシャクするが、それでも「コントレイブ」が売れていれば、まだ話は違っていたかもしれない。

 ところが、「契約一時金は5000万㌦、マイルストーンペイメント(医薬品の開発の進捗に伴い発生する新規化合物発明企業への支払金)は最大10億㌦を超えていた」(本誌11年7月号既報)という大盤振る舞いにも関わらず、15年第四半期のロイヤリティー収入が260万㌦ほどだった。これでは、いくら販売費をかけても割に合わないと判断されたのだろう。

 しかも武田ファーマシューティカルズは2009年11月、米アミリン・ファーマシューティカルズ社との間でも、2種類の肥満症治療薬の独占開発・販売権を獲得したものの、そのうち一種が「期待できる有効性を確認できず」という理由で、わずか4ヵ月後に開発が中断。残りの一種も試験中止となり、12年末には両社の提携も早々と解消されている。こちらは新製薬の完成にすらたどり着けなかったが、結局、武田は米国で肥満症治療薬に関し、連続して失態を演じたことになる。

 ただ、米国は成人男性の実に3分の2が肥満・体重過多とされ、本来であれば糖尿病や心臓病、高血圧等の原因ともなる肥満症の治療薬にとっては、一大市場であるはずだ。それでも他社の製品も含めて思ったほど治療薬の販売が伸びていないのは、新製品の認可が現在も続いてはいるものの、有効な製品がまだ多くはないためとされる。

 武田は当初、この肥満症治療薬を収益の柱にしたいと考えていたらしいが、今回の件で事実上、米国での販売からの撤退となるのは間違いない。そしてオレキシジェンにしろアミリンにしろ、「グローバル経営」などと公言する割には、どこか見込みの甘さが感じられるのは否めない。

 そもそも武田は「グローバル」どころか、肥満症治療薬に関しては国内でも大失態を演じている。当初、武田が「販売後10年で売り上げ額140億円」と豪語し、肥満治療薬としては約20年ぶりの認可となった、「オブリーン」のことだ。製造販売の承認は受けたものの、13年11月の中央社会保険医療協議会の総会で、収載保留となるという異例の事態を起こしている。当然だろう。その効果が、疑わしいからだ。

 総会では何人かの委員から、「脂質吸収で有意差が出ないのに、なぜ体重が減少するのか」、「体重が2%減少するだけでは納得いかない」といった疑問が出たようだが、米国の「コントレイブ」ですら、試験での体重減少率は5%(非糖尿病患者の肥満・体重過多者4500例以上)とされる。5%という数字が、薬剤としていかほどの意味があるのかどうか別にして、「オブリーン」の2%は約200人を対象に、1年間実施した試験の結果という。

 だが、どう考えても2%程度なら、強度の不安などの精神的要因や適度の運動でも達成されるのではないか。しかも約20年ぶりというものの、開発したのはオランダの製薬会社だ。武田は、「体重が2%減少するだけ」の「薬」ですら、もはや開発を外資に頼るようになってしまったのだろうか。

特許切れ医薬品の割合が50%も
 折しもこの3月段階で、武田薬品の売り上げに占める特許切れ医薬品(長期収載品)の割合が50%になった模様だ。すでに他社の多くはその割合を40%以下に納めて特許品に軸を移しているが、肥満症治療薬をめぐる国内外の一連のお粗末な迷走ぶりは、ヒット商品を出せない武田の前途の不確かさを象徴していよう。

 確かなのは、長谷川が経営の最高執行機関として11人のメンバー中日本人がたったの2人だけという「タケダ・エグゼクティブ・チーム」」なるカタカナ文字の組織を作るような、上場企業としては異例極まる運営が、「グローバル」がどうのこうのと吹聴しようが、体重減少率わずか2%程度の「新薬」しか国内で売り出せなくなった武田にとって、早急に解決すべき課題の解決とはさほど関連がなさそうだという点だろう。それにまだ気付いていなそうな長谷川のズレぶりは、重症と言わねばならない。

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