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未来の会

第139回 武田/モデルナ社ワクチンの安全性を巡って

第139回 武田/モデルナ社ワクチンの安全性を巡って

虚妄の巨城
武田薬品工業の品行

第139回 武田/モデルナ社ワクチンの安全性を巡って

武田薬品は2021年12月16日、米ノババックス社が開発した新型コロナウイルス感染症ワクチンについて、厚生労働省に承認申請した。武田薬品側によれば、国内試験の中間成績で同感染症に対する「強固な免疫反応」の誘導が証明され、安全性についても重篤な有害事象は認められず、忍容性も良好だったとしている。武田薬品は承認が得られ次第、ノババックスから技術移管を受け、ワクチンを生産する予定だ。

 期せずして同日、厚生労働省は、武田薬品が輸入し国内で流通させている米モデルナ社のワクチンについて、3回目の追加接種(ブースター接種)に関する一部変更の申請を特例承認した。これ迄の2回の接種に関しては米ファイザー社のワクチンが多く使用されてきたが、厚生労働省は「(3回目の)追加接種では初回接種時に用いたワクチンの種類に拘わらず、ファイザー社又は武田/モデルナ社のワクチンのいずれかを使用することが可能」としている。

 このように、今後武田薬品は、従来のモデルナ製ワクチンの輸入に加え、新たにノババックス製ワクチンを国内生産する二段構えで臨む。事実上、国内の医薬品メーカーで唯一、ワクチンを独占的に扱う形となるわけだが、あまり表面化してはいないものの、モデルナのワクチンについては安全性が懸念されている。

mRNAワクチンの接種と副反応の発生状況

 3回目の追加接種については、これを承認した当事者である厚生労働省の医薬・生活衛生局薬品審査管理課が「審議結果報告書」を公表したが、この中の「安全性について」という項目には「心筋炎・心膜炎」と題して、ファイザーとモデルナのワクチンであるmRNAについて、米国内の見逃せない情報が記述されている。

 「2020 年 12 月 18 日〜2021 年 10 月 31 日の期間に、本剤は 3 億1768万回、1億7710 万例で接種され、心筋炎又は心膜炎の報告は 2630例2804 件で、心膜炎の有無を問わない心筋炎1807 例1824 件、心筋炎の有無を問わない心膜炎 974例 980件、心筋炎を伴わない心膜炎は823例、心筋炎と心膜炎の両方が報告されたのは151 例であった。医学的に確定された症例は、心筋炎1446 例(うち死亡は 26 例)、心膜炎 774 例(うち死亡は3 例)であった。これらの死亡例の因果関係については、評価不能が 11 例であり、それ以外の症例を 5段階(『明らかに関連あり』、『多分関連あり』、『関連あるかもしれない』、『多分関連なし』、『関連なし』)で評価した結果は、『関連あるかもしれない』が 12 例、『多分関連なし』が6 例であった」—というのだ。

 つまり全体から見れば微小で、かつ曖昧な表現ではあるが、問題なのは、「医学的に確定された」心筋炎と心膜炎の29の死亡例中、「評価不能」を除いた18例全てが「関連なし」とは断じられていない事だ。無論、「関連あり」とも断じられてはいないが、少なくともmRNAワクチンと死亡の因果関係がファジーではあれ完全には否定されていない。

 それでも「審議結果報告書」では、mRNAワクチンの引き続きの使用を結論付けている。理由は、「本剤の既知及び潜在的なベネフィットは心筋炎・心膜炎に関連する潜在的なリスクを上回ると考える」からだ。だが、これでは例え少数であれワクチンとの因果関係を完全に否定出来ない死者が出ようが、全体に「ベネフィット」があれば構わないという理屈になる。

 おそらく米国のみならず日本でもこうした行政の発想と、それに乗っかった形の武田薬品の責任が問題になると思われるのは、モデルナのワクチン接種後に死者が出ているからだ。

モデルナ社ワクチン接種後の死亡例の評価

 21年12月3日、厚生労働省の「第73回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会」等が合同開催した会議で配布された「副反応疑い報告の状況について」という資料には、21年5月22日から11月14日までの間に、モデルナのワクチンが2度に亘り計3176万8352回接種されたが、死亡例が53件あったと記されている。

「死亡として報告された事例について」という項目によると、「武田/モデルナ社ワクチン」接種後の53件の死亡例の死因は、出血性脳卒中が9例、虚血性心疾患 が8例、心筋炎関連事象が4例、心不全3例、不整脈3例、敗血症2例、肺炎2例という具合。 1例だけなのはアナフィラキシー、虚血性脳卒中、脳ヘルニア、心室破裂等が16あり、不明は10例だ。

 同会議で配布された別の資料「新型コロナワクチン接種後の死亡として報告された事例の概要(モデルナ筋注、武田薬品工業株式会社)」によると、「専門家の評価」として因果関係については、「ワクチンと死亡との因果関係が否定できないもの」が0件。「ワクチンと死亡との因果関係が認められないもの」が1件で、後の52件は「情報不足等によりワクチンと死亡との因果関係が評価できないもの」とある。

 米国より更にファジーな表現ながら、52件について「因果関係が認められない」と断定出来なかった事は、逆に言えば「因果関係がある」という可能性を完全に排除出来なかったという事だろう。このまま3回目の接種をしても問題は無いのだろうか。

「死亡は偶発」で通るのか——安全性論議の今後

厚生労働省は米国内の事情を考慮してか、21年12月3日に「米ファイザーと米モデルナ製の新型コロナウイルスワクチン接種後、若い男性で通常より高い頻度で報告されている心筋炎や心膜炎の症状について、通常の注意喚起から『重大な副反応』に警戒度を引き上げ、医師らに報告を義務付けることを決めた」(『共同』21年12月3日配信記事)という。

 既に、ニュージーランド当局は12月20日、米ファイザー製新型コロナウイルスワクチンの1回目を接種した26歳の男性が心筋炎で死亡した事例について、「因果関係を認定したと発表した」(『ロイター』21年12月20日配信記事)と報じられている。同じmRNAワクチンのモデルナとそれを流通させている武田薬品にとって、無視出来ない発表の筈だ。

 当の武田薬品は21年8月、ワクチンに異物の混入が発見され、混入のリスクが否定出来ないとされた対象ロットの使用を見合わせる不祥事を引き起こしたが、更に、対象ロットを接種したと思われる2人が死亡した。それでも武田薬品は「現時点では接種との因果関係は確認されていない」として、「偶発的に生じたものと考えられる」との見解を示している(『共同』21年9月1日配信記事)。

 ここで言われている「因果関係」とは、ワクチンそのものについてなのか、「異物の混入」についてなのか判然としないが、果たして武田薬品は今後もモデルナのワクチンを何の躊躇も無く提供し続けるのだろうか。ワクチンの「安全性論議」は国内外で高まっており、少なくとも時間の経過と共に、武田薬品が「偶発的に生じた」と弁明出来る余地は狭まっていくように見えるのだが。

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