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第66回 薬に値しない代物を40年以上売り続ける

第66回 薬に値しない代物を40年以上売り続ける
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行
薬に値しない代物を40年以上売り続ける

 血液製剤やワクチンを製造する化学及血清療法研究所(化血研)が40年以上にわたり、国に承認された内容と異なる方法で血液製剤を製造していた事実が、2015年11月初めに発覚した。この問題は、あらためて製薬業界の腐敗の深さを示しているだろう。

 特にここ1〜2年、業界と大学医学部の癒着やそれから派生した不祥事が目に付くが、腐敗といえば、あのノバルティスファーマの高血圧治療薬「ディオバン」の医師主導臨床研究にまつわる、一大スキャンダルにしてもそうだ。

 『医療詐欺』(講談社)などの著作があり、手厳しい医療行政批判で知られる東京大学医科学研究所の上昌広特任教授は、これを「製薬企業の思惑に、大学教授、メディアが加わって三位一体となり、インチキなクスリで国民の保険料をだましとった」事件と評している。

 こうなると、いつものことだが製薬メーカーのモラルが問われざるを得ないだろう。ところが、あっけらかんとそうした見方を否定する経営者がいる。武田薬品工業会長の長谷川閑史だ。

 長谷川は経済同友会の代表幹事時代、例の残業代をゼロにする「ホワイトカラー・エグゼンプション」を提唱し、『朝日新聞』のインタビューで「長時間労働を招くとの懸念が出ている」などと問われた末に、「日本の経営者は(悪用が懸念されるほど)モラルが低いのか」と反論している(『朝日デジタル』2014年5月22日)。

 別に経営者の「モラル」が問われるのは残業代の支払い問題だけとは限らないだろうが、もし長谷川が本気で経営者の「モラルが低くない」と考えているとしたら、よほどの鉄面皮だ。

 何しろ発言の主は、よりによって「薬九層倍」という語に象徴される、海千山千の製薬業界の団体会長(第13代)まで歴任した男なのだ。

 しかも、『朝日』のこのインタビューを受けた14年5月といえば、ノバルティスファーマの一件が大騒ぎになったのに続いて、武田の降圧剤「ブロプレス」についても、薬効について誇大宣伝しているのではないかという疑惑がすでに持ち上がっていた時期だ。

 長谷川は後にこの問題で、記者会見の場で頭を下げる羽目になるが、こんな放言をしていたところをみると、当時は逃げおおせると思っていたのだろうか。もしそうなら、随分「モラルが低い」「日本の経営者」もいたものだ。

モラルの欠如どころか〝詐欺行為〟
 無論、長谷川武田のやらかしたことで、「モラル」が問われた事例は珍しくない。11年2月に起きた、消炎酵素製剤「ダーゼン」の回収騒ぎ。実に40年以上にもわたって販売されていたこの「薬」は、厚生労働省の薬食審・医薬品再評価部会がプラセボを対照とした二重盲検比較試験を実施したものの、プラセボとの間に有意差を示すことができず、最終的に「再試験の実施は困難」との結論を下された。

 ところが09年度だけでも国内販売実績は驚くなかれ、何と67億円もあったというから、もはや「薬九層倍」どころの次元ではない。何ら薬には値しない代物を「薬」と称して40年以上も売り続けていたのだから、「モラル」の欠如どころか詐欺行為だ。長谷川にとってこの一件は、騒ぎから3年経てば堂々と「モラルが低いのか」などと言い放てるほど、軽い出来事なのか。しかも、「ダーゼン」を売りつけたのは、いかがわしげな場末のニセ薬業者ではなく、日本の製薬業界のトップ企業なのだ。

 こんな所業をやってのけても、武田の「企業イメージ」が落ちたという話題を耳にしないのは、よく指摘されるように、何かといえばすぐ医薬品に頼りたがる「薬信仰」に凝り固まった日本の消費者の愚かさだけでは説明できないように思える。武田は14年だけでも、売上高(1兆6917億円)の約6%に当たる1053億円を広告費・販売促進費にかけている。しかも『東洋経済』(電子版)15年1月27日付によると、「5年間で広告宣伝費を増やした会社ランキング」の1位で、伸び率は実に5倍という。

 これでは、前出の上昌広特任教授が指摘した「三位一体」の一つを占める「メディア」の追及が甘くなるのは理の当然だろう。同じ詐欺行為を宣伝費もろくにかけられない零細業者がやったなら、それこそ倒産するまで「メディア」からのバッシングを受けたのは間違いない。「三位一体」とやゆされるゆえんだ。

社会保障費削減で「痛み」うんぬんを公言
 幸いにも、「ダーゼン」を服用して深刻な薬害の症状が出たという話題は耳にしない。文字通り「毒にも薬にもならない」商品だったのだろうが、「毒」になるケースになると話は違う。

 一例を挙げると、武田が10年に新発売した糖尿病領域のDPP‐4阻害薬「ネシーナ」。本誌でもおなじみの医師・浜六郎氏の著書『新版 のんではいけない薬』(金曜日)では、「免疫に影響し、ホルモン、中枢神経系への影響あり。動物実験で発がんがあり、ヒトでも可能性が高い」と記述されている。

 しかも13年の8月から9月にかけて開催された欧州心臓病学会(ESC)の学術大会で、DPP‐4阻害薬に関する2件の大規模臨床試験結果が発表された。内容を掲載した『The NEW ENG-LAND JOURNAL of MEDICINE』誌(電子版)13年10月3日号によれば、プラセボ対象ランダム化比較試験(RCT)を行った結果、アログリプチン(ネシーナの一般名)は「中央値18カ月の非劣性RCTで心血管イベントを増やさなかった」という。

 「増やさなかった」ということは、糖尿病の大血管合併症の抑制効果が証明されなかったに等しい。「ネシーナ」は発売4年目で売上が前年を下回るなど、必ずしも期待通りの成果を挙げていないようだが、少なくとも消費者は避けた方が無難なようだ。

 長谷川はやはり代表幹事時代の15年1月14日の記者会見で、「痛みを伴う社会保障経費の削減を政府がイニシアチブをとってやらないといけない」とも発言している。この国で医療費がかさむのは「インチキなクスリで国民の保険料をだましと」り、「薬九層倍」で製薬会社が暴利を得ている構造が背景にあるのを自覚しての発言か。押し付けがましく「痛み」うんぬんと公言する資格があるのかどうかすらも分からなそうな長谷川は、究極の「モラルハザード」を体現していよう。

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