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未来の会

第65回 長谷川が吐き散らす「妄言・放言」集

第65回 長谷川が吐き散らす「妄言・放言」集
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行
長谷川が吐き散らす「妄言・放言」集

 誰が運営しているのか不明だが、「名言DB:リーダーたちの名言」というインターネットサイトがある。松下幸之助や本田宗一郎、アンドリュー・カーネギーといった経営者のみならず、徳川家康や吉田松陰などの歴史上の人物なども含め、内外の4915人、5万3811もの「名言」が羅列してある(11月17日現在)。「名言」の選考基準はこれも不明ながら、それなりに面白く読める。

 そしてそこには、武田薬品会長の長谷川閑史の「名言・格言」もしっかり登場している。だが読み進むうちに、もし本当にこれが本人の肉声であるならば、むしろ長谷川閑史の「妄言・放言」とでも改題するべきではないかという疑問を誰しも禁じ得なくなるのではないだろうか。

命を扱いながら「リスクはつきもの」
 まず仰天するのは、以下の「名言」だ。

 「ある程度、すべての事業判断にリスクはつきものです。100%安全だったならば誰でもやるし、そんな案件は市場に出てくるわけありません」

 「何もしないでジリ貧になるよりも、リスクがあったとしても前に進む方が、経営者として必要だと思う」

 冗談ではない。これがいやしくも国内薬品メーカーのトップ企業の会長、日本製薬工業協会の前会長で現常任理事が吐く言葉なのか。確かに一般論として、商品にせよサービスにせよ「100%安全」をうたうのは困難だろう。顧客自体、そんな文句を聞かされたら、どこかうさんくささを感じるかもしれない。

 だが、そもそも製薬とは、人間の生命と健康に一番直結する商品だ。仮に経営者が、建前にせよ「100%安全」とあえて言わなければならない場面があったとしても、それが社会の許容範囲外とは必ずしも断じがたいはずだ。少なくとも、人前で軽々しく「リスク」などと口にできないのが、業界人の常識以前の矜持ではないのか。

 武田のホームページには「経営の基本方針」として、「230年を超える歴史を通じて、『いのち』の大切さを見つめ続けてきたタケダには、高い倫理観と強い使命感が培われてきました」とある。ならばその「いのち」とは、「リスク」が厳然とあるのに「つきもの」とされて、自社製品を「市場」に出す方が優先されるような存在なのか。

 昨今の武田の行状を見るに付け、こうした長谷川の「名言」を本気になって実行に移しているような気がしてならない。武田が23億7000万㌦という史上最大規模の和解金を支払う結果となった、糖尿病治療薬「アクトス」に関する米国での製造物責任訴訟にしてもそうだ。すでに2011年6月の段階で、フランスの医薬品規制当局が独自の疫学調査により、「アクトス」の投与群は非投与群に比べて膀胱がんリスクが有意に高いことが確認されたとし、新規患者への投与を禁止している。

 それでも長谷川にとっては、「リスクはつきもの」だから「前に進む」ために、「アクトス」を販売し続けるということなのだろうか。前臨床試験の段階で、「アクトス」の成分のピオグリタゾンを投与した雄のラットに膀胱がんリスクが上昇したという結果が出ているが、自社の調査は済ませているはずの武田は、「前に進んだ」としか考えられない。いったい米国の数千人とされる原告たちは、そうした長谷川の「名言」を知ったらどのような感情に襲われるだろう。

 さらに「名言」録は続くが、「部下にやれと言いながら、俺は別だよというのは武田では通用しません」とあるのに至っては、仰天以上に噴飯物だ。

 15年度の薬事業界最大の事件であるにとどまらず、「日本の医薬品業界のトップ企業が起こした医薬品メーカーのコンプライアンスの根幹に関わるという問題の中身においても、『史上最大の企業不祥事』」だと言える」(郷原信郎弁護士)、高血圧治療薬「ブロプレス」をめぐる誇大広告の一大スキャンダル。武田は厚生労働省より業務改善命令を受け、社内処分を実施したという。だが長谷川は、3月の記者会見で神妙に頭を下げてはいたものの、自身の権力支配がびくともしなかったのは周知の事実だ。

 莫大な広告費という毒が回ったか、メディアも格別の追及は控えたが、本来ならとっくに責任を取ってトップが職を返上しても十分いいくらいの悪質さだ。それがいまでも院政を敷いていられるのは、それこそ「俺は別だよ」を地で行っている典型だ。「武田では通用しません」というのではあるまい。社会では決して「通用」しないはずのことが、武田では「通用」するのだ。

「異質」入れても「創造性」喚起されず
 「大切なのは異質なもの同士の出合いだ。異質なもの同士がぶつかり合い、創造性が喚起されることだ」——。

 何のことだろう。周囲にイエスマンだけを残し、能力に関係なく自分とは「異質」だと感じた社員を排除し、いかに腰が落ち着かなく、いかに常識外れの高額な年俸が支払われていると指弾されようとも、英語を話す外国人で周りを固めたのは、どこの誰なのか。それとも「異質」とは、外国人のことを指しているのか。そんな連中が経営陣の大半を占めるようになっても、武田に何か格別の「創造性が喚起され」るようになったという話を、寡聞にして知らないが。

 「このタケダという会社が230年培ってきた経営の考えである、誠実をモットーとするタケダイズムは、どんなにグローバル化しようと大事にします」——。

 武田は昨年、「肥満治療薬」と称し、体重減少率が公表でたった2%の「オブリーン」を販売しようとしたものの、中央社会保険医療協議会で「それなら少し走る程度とさして変わらない」「脂質吸収抑制効果を証明する臨床データがない」などと叩かれ、薬価収載できないままとなるという業界最大手にしては惨め過ぎる醜態をさらした。

 しかし、こんな「治療薬」でも消費者に売りつけようとする企業のいったいどこに、「誠実」さがあるのか。これが、「史上最大の企業不祥事」を引き起こした企業トップの発言というから、もはや絶句するしかない。

 人格面で抑制力を失い、権力欲の権化に成り果てると、人間とは自身の吐く言葉がかくも現実と乖離していくものなのか。

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