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未来の会

段階的に施行されている改正動物愛護法の中身

段階的に施行されている改正動物愛護法の中身

法改正で一歩前進するも繁華街のペットショップは生き残る

2019年に改正動物愛護法が成立して以来、段階的に施行されている。改正の内容をまとめると、主に①数値規制(飼養管理基準の厳格化)②虐待の罰則強化③幼齢犬猫の販売制限④マイクロチップの装着の義務化の4項目になる。

 ①については21年6月から施行されている。犬の場合、寝床や休息場所になるケージの大きさはタテ体長の2倍以上×ヨコ:体長の1・5倍以上×高さ:体高の2倍以上とする事。運動スペースはケージサイズの床面積の6倍以上×高さ:体高の2倍以上を確保し、運動時間は1日3時間以上は運動スペースに出し運動させる事が義務付けられた。体長30㌢の場合、1畳程の広さで1〜2頭が飼育出来る事になる。又、従業員1人に付き、繁殖犬は15頭迄、販売犬は20頭迄飼育可能とする。生涯出産回数は6回迄、メスの交配は6歳迄になる。但し、満7歳時点で生涯出産回数が6回未満で有る事を証明出来る場合は交配が7歳迄になる。既存の業者に対しては、繁殖犬の飼育上限は、22年は25頭、23年は20頭、24年は15頭迄という段階的な規制になっている。

 次に②の虐待の罰則強化について。動物を濫りにに殺したり傷付けたりする行為には従来は2年以下の懲役又は200万円以下の罰金とされていたが、現在は5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に厳罰化されている。併せて、動物の虐待や遺棄に関しては100万円以下の罰金とされていたものが、現在は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金とこちらも同じく罰則が強化された。

 ③の幼齢犬猫の販売制限について。8週齢規制が導入された。8週齢規制とは生後56日(8週)に満たない犬猫の販売を禁止する規定である。従来迄は生後49日(7週)とされていたものから1週間延長された。但し、日本犬である柴犬、秋田犬、北海道犬、甲斐犬、紀州犬、四国犬については「天然記念物の保存」を理由に、ブリーダーからの販売に限り8週齢規制の適用対象外とする事が動物愛護法の付則に盛り込まれた。この規制は21年6月から運用開始されている。

 そして④によって飼い主が分かる様、犬や猫にマイクロチップの装着を義務付ける改正動物愛護管理法が22年6月に施行された。繁殖を行うブリーダーやペットショップ等の業者には販売用の犬や猫にマイクロチップを装着し、犬や猫の名前や性別、品種、毛の色の他、業者名を国のデータベースに登録する事が義務付けられた。又、犬や猫を購入する際、飼い主も氏名や住所、電話番号等を登録する事が義務付けられた。既に飼っている人や保護団体等には装着が努力義務になっている。

保険所に代わるペットの引き取り業者が現れる

 今回の法改正が動物虐待を阻止する大きな進歩であるという評価の一方で、ペット先進国にはまだまだ及ばず効力にも疑問が残るといった意見も散見される。

  先ず、①の業者の飼養環境に関して異論を唱える人は稀であろう。ペット2匹に付き一畳のスペースを用意する程度の事に異を唱える業者がいたとすれば、それは即ち自身で「動物に苦痛を与える業者」である事を宣言している様なものである。

 頭数制限に関してはブリーダーから異論が出ている。1人に付き15頭の飼養が少な過ぎるという。繁殖業者は犬が15匹、猫が25匹。販売業者は犬が29匹、猫が40匹。これを少な過ぎるというのである。この規定は1人に可能な適切な世話を出来る労働分配を仮定して設けられたものだ。この規定に反するという事は労働基準法の基準を上回る労働時間を強いる可能性が有る。頭数に制限を設ける事に反発する業者の中には薄利多売での生体販売に陥っているという事情が有るのだろう。

 飼養環境の規定や従業員1人当たりの頭数制限によって多くのブリーダーが対応出来ずに13万頭以上のペットが行き場を失うという意見が有る。目標値に達する迄3年間掛けて段階的に施行される。十分な猶予が設けられている事から多くのペットが行き場を失う様な事は杞憂に他ならない。

 次に②に関しては、もっと強化すべきと言う声も有るが、数値を伴った明確な罰則強化で動物への虐待行為に対する抑止効果が上がった事は間違いない。

 ③については、これ迄も生体販売は56日を超えてからと規定されていたが、附則によって49日と読み替えられていた。その附則を削除した事から56日(8週)以降の販売が正式に施行された。8週齢まで母犬及び兄弟犬と共に生活させる事で成長後の問題行動の予防(社会性の習得)、母犬による免疫力の向上、流通過程での感染症の防止に繋がる。

 そして④については、マイクロチップの装着よって捨て犬(猫)や迷子犬(猫)の一部は解決するのかも知れない。むしろ、マイクロチップの装着を義務付ける事で飼育放棄をしない様に予防する効果を発揮する事が主な目的であろう。マイクロチップのデータは飼い主が自主的に内容を更新しない限り住所も連絡先も更新されない。よって、いざそのデータを必要とする時にそのデータが役立つとは限らない。それでも、飼養放棄の一定の抑止力になるのかも知れないので法に規定された事は現状の改善にはなる。19年の迷子や飼育放棄の動物は8・5万匹もいるのだから。

 20年度の調査では、保健所での引き取り数は約7万匹いるが、殺処分に至るペットは約2万匹になっている。保健所に収容されたペットの7割以上が元の飼い主に返還されたり、動物愛護団体や新しい飼い主に引き取られている。

 犬猫の殺処分ゼロを達成する事も不可能ではない。都道府県単位では殺処分ゼロを達成している所も有る。併せて、自治体の境界を越えて広域的な譲渡活動も行われる様になった。

 ペットを取り巻く環境は急速に改善されているとは言え、営利のみを追求する悪徳ブリーダーは後を絶たない。薄利多売で過剰に生体が供給されると当然売れ残りが増えてしまう。以前は売れ残ったペットを保健所が引き取って殺処分をしていたが、現在は保健所が引き取りを拒否出来る様になった。保健所が引き取らない事から闇の殺処分業者が暗躍する様になり1匹数千円で引き取り殺処分を勝手に行っている。勿論、その様な行為は動物愛護法違反に当たり、今回の法改正で5年以下の懲役又は500万円以下の罰金が科される。罰則の強化のみならず、法が形骸化しないよう警察が積極的に取り締まる必要が有る。又、今後の課題として売れ残ったペットや飼養放棄のペットの引き取り業者の取り締まりだけでなく、その業者に依頼した飼い主やペット販売業者を対象とした罰則規定も必要であろう。

世界中でペットショップが消滅

ドイツやスウェーデンでは法律で生体販売が禁止されている訳ではないが、「アニマル・ウェルフェア」の思想が浸透している事から「命」の売買には否定的である。「アニマル・ウェルフェア」とは「飢え、渇き及び栄養不良からの自由」「恐怖及び苦悩からの自由」「物理的及び熱の不快さからの自由」「苦痛、傷害及び疾病からの自由」「通常の行動様式を発現する自由」という5つの自由を尊重する思想である。イギリスでもルーシー法というペットの第三者販売を全面的に禁止する法律が20年4月に施行された。既に6カ月未満の犬猫の販売は禁止され、子犬と母犬が一緒に居る環境を飼い主に販売時に見せる事を義務付ける様になった。フランスは24年から店舗での犬猫の販売が禁止される。アメリカでもペットの店頭販売を禁止する州が増え続けている。

 さて、これらの国でのペット購入方法は大きく分けて3つ有る。1つは認可された優良ブリーダーに予約して購入する方法。2つ目は友人等から譲渡を受ける方法。3つ目は動物愛護団体等に里親登録をして譲渡を受ける方法である。

 日本に於いても「アニマル・ウェルフェア」の思想を啓蒙するべきである。行政のみならず、民間団体、民間企業が協業して国民の動物愛護に対する意識改革に取り組む事が望まれる。本来、動物愛護は生命尊重、友愛及び平和の情操の涵養を目的としている。

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