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鳥居薬品

鳥居薬品
鳥居薬品 研究開発は親会社のJTが握り 製造・営業だけの薄い

 「JT(日本たばこ産業)の子会社でしょ」と片付ける人もいれば、「新薬メーカーの団体、日本製薬工業協会が入っているビルの大家さん」と失礼なことをいう人もいる。鳥居薬品のことだ。売り上げは500億円程度で中堅製薬メーカーに入るか入らないか程度の規模だが、東証一部上場のれっきとした製薬メーカーである。

 しかし、タバコを中心に食品、医薬品を加えた3本柱にするJTの子会社になって以来、新薬の研究・開発は一部を除き、JTが担当。鳥居薬品はもっぱら製造、営業をする会社になったため、製薬業界でも影が薄い存在になってしまった。せいぜい昨年1月、同社の元労組書記長が労働組合費2600万円を横領、馬券購入に注ぎ込んだとして業務上横領の疑いで逮捕された事件が社会面をにぎわしたくらいだ。兜町の投資家はもちろん、東京・日本橋の製薬業界も注目するのはJTの動向の方で、鳥居薬品には見向きもしない。製薬会社に欠かせない新薬誕生のビッグニュースはJTから出ることになっているので、仕方がない。

 例えば、JTが創出し、2005年に米ギリアド・サイエンシズに導出した抗HIV薬(インテグラーゼ阻害剤)「JTK—303」の配合剤が今年8月に米食品医薬品局(FDA)から承認を受けたときのこと。JTと鳥居薬品は日本での承認を受けた際の独占販売権契約を結んだと発表したが、株価に大きく影響したのはJTの方だった。鳥居株も値上がりしたが、JTほどではなかった。

 なにしろ、鳥居薬品が今も続けている研究・開発はほんの一部で、それも地味なものにすぎない。同社は10年4月に発表した中期経営計画「PLAN鳥居2012」で3年間に110億円の研究開発費を注ぎ込むとしている。しかし、その中身はスギ花粉症の減感作治療(免疫)薬、理化学研究所と共同研究する同じスギ花粉症治療薬くらいで、高リン血症治療薬はJTとの共同研究だし、JTと東レとの3社による透析患者の掻痒症改善薬「レミッチカプセル」の適用追加を目指した共同開発契約は昨年12月に解消されてしまった。見るべき研究がない。すべてJTの研究開発如何にかかっているのだ。この点について、鳥居薬品に取材を申し込んだが、期日までに回答はなかった。

コロコロ変わる親会社  鳥居薬品は明治5(1872)年、鳥居徳兵衛が横浜で創業した欧米の医薬品輸入商「植野屋」が発祥。終戦後の1949年に鳥居製薬を合併し、現在の鳥居薬品に商号を変更。製薬メーカーに脱皮したが、世に送り出された医薬品は、アレルギー診断治療薬「アレルゲンエキス」や尿酸排泄薬「ユリノーム」、蛋白分解酵素阻害剤「注射用フサン」、外用副腎皮質ホルモン剤「アンテベート軟膏・クリーム」など、もっぱらニッチな治療薬である。

 一方で、千葉県佐倉市での佐倉工場の建設や市川市の研究所の増改築、さらに物流センターの開設など拡大に走った80年代に、米メルク(現MSD)に第三者割当増資を行い、子会社になる。しかし、メルクが万有製薬に乗り換えたことで、当時、医薬品事業に進出していたアサヒビールに株式を売却。しかし、アサヒビールも利益が上がらない医薬品事業から撤退し、98年にJTに全株式を売却した。過半数の株式を保有する親会社がコロコロかわり、気の毒な面もあるが、それも鳥居薬品にかる主力品がなかったことが根底にある。

 JTはバブル時代の87年に医薬品事業に参入した。「葉タバコの研究が医薬品開発に応用できるだろうという発想だった」(あるOB)という。93年には医薬総合研究所を設立し、「糖・脂質代謝」「抗ウイルス」「免疫と炎症」「骨」の4分野を研究開発領域に定めていた。そんな折の鳥居薬品買収は、まだ医薬品事業に不慣れだったJTにとって魅力的に映ったようだ。鳥居薬品の研究部門をJTの医薬品事業に吸収。タバコで上げた膨大な利益から毎年300億円程度の研究開発資金を投入してきた。

 アメリカの大手タバコ会社のRJRがナビスコを買収して嫌煙が広がるタバコ事業を縮小して食品メーカーに転身したように、JTもタバコ会社から食品・飲料に加え、医薬事業に進出することで3本柱を構築する計画だった。鳥居薬品にとってはメルクやアサヒビールが親会社でいるよりはJTの方が資金も潤沢だし、なんといっても医薬品事業を成功させようと意気込むだけましだ。その代わり、研究部門はほとんどJTの分担とされたため、鳥居薬品は単なる製造と営業活動をする会社にすぎなくなってしまった。

 なにしろ、タバコの収益は大きい。ウォール街には「悪徳ファンド」という投資信託がある。カジノ企業やタバコ会社などに投資するファンドだ。マスコミには省エネを実現する企業に投資する「エコファンド」や環境改善に取り組む企業に投資する「環境ファンド」など、世のため人のために役立つファンドが持ち上げられるが、配当は悪徳ファンドの方が圧倒的に高い。「悪徳」といわれるだけにタバコメーカーは収益も大きく、医薬品事業への投資資金にも余裕がある。

JTの医薬品事業はお寒い状況  ともかく、鳥居薬品にとっても嗜好品だけに売り上げが落ちないJTが親会社であることは安心できる。実際、鳥居薬品はJTの子会社になった途端、それまで続けていたタバコアレルギーを検査する試薬の製造販売を中止。健康のためよりも会社の利益や存続のためにこびる姿勢は医療関係者のひんしゅくを買ったほどである。

 だが、JTの医薬品事業はお世辞にも成功しているとはいえない。全世界で1兆6000億円を売り上げるタバコ事業に対して医薬品事業の売り上げは474億円(12年3月期)にすぎず、135億円の営業損失を出している。連鎖架空取引で破綻した冷凍食品メーカーの加ト吉(現テーブルマーク)を吸収した食品部門もまだ売り上げは3594億円だが、それでも20億円の営業利益を出している。それに比べ、医薬品部門は進出して以来、四半世紀が過ぎたが、いまだに赤字どころか、中期経営計画でうたった「後期開発品の迅速かつ円滑な上市による収益基盤の確立」からも程遠い。

 もちろん、お先真っ暗というわけではない。前述したように、ギリアドに導出した「JTK—303」が今年8月にFDAから承認された。同じ抗HIV治療薬の「エムトリバカプセル」と「ビリアード錠」との配合剤だが、ギリアドは単独でのHIV治療薬としても承認を求めていることから、さらに希望は広がる。国内でも承認に向けて準備中だが、JTにとっては初めての自社創製の新薬誕生となった。

 加えて、日本を含めた全世界での開発販売権を英グラクソ・スミスクライン(GSK)に譲った抗ウイルス薬のMEK阻害薬もGSKがFDAに承認申請している。JTは新薬にできると見通せなかったのだろうが、創薬技術力はあると評価できる。

 だが、今後については不安が残る。JTが「大型商品になる」と最も期待していた脂質異常症治療薬「JTT—705」はスイスのロシュ社に導出したが、今年5月にロシュはフェーズⅢで優位性が確認できなかったと開発中止した。JTは国内でフェーズⅡの治験を続けているが、開発断念に追い込まれるだろうとみられている。

 では、ほかの新薬候補はどうかといえば、米ケリックス・バイオファーマシューティカルズ社から導入し、鳥居薬品と共同開発中の高リン血症薬「JTT—751(クエン酸第二鉄水和物)」がフェーズⅢの段階だ。

 これ以外のパイプラインは、例えば、ロシュが開発中止したJTT—705と同様のコレステリルエステル転送蛋白阻害の機序をもつ脂質異常症治療薬「JTT—302」も、2型糖尿病薬「JTT—851」もまだフェーズⅡの段階だ。腎性貧血治療薬や自己免疫・アレルギー疾患薬などはフェーズⅠにすぎない。将来、新薬に育つかどうかさえ分からない上、今後も研究開発費を投下し続けるしかない。JTは13年3月期も医薬品事業は195億円の営業損失を見込んでいる。当分赤字が続きそうだ。

リスクを恐れない研究開発が必要  今日、2兆円超の売り上げ、株式時価総額5兆円のJTを育てたのは旧大蔵省出身の涌井洋治前会長というより、5月に会長に退いたプロパーの木村宏前社長と、彼の部下として腕を振るった小泉光臣社長である。タバコが衰退産業といわれる中で、99年にRJRナビスコから米本土以外の海外販売権を買い取り、07年に2兆円を超える金額で英ギャラハーを買収、販売シェアで世界第3位のタバコ会社に成長させた。

 しかし、タバコ以外の事業はいわば、素人だ。それでも食品事業は黒字化に成功したが、規模はまだ小さい。医薬品事業に至っては赤字続きだ。鳥居薬品に松尾紀彦社長を送り込んだが、親会社の会長、社長はタバコ部門一筋の人であり、松尾社長も医薬品に精通しているともいえない。

 第一、医薬品の研究開発を担当するJTの新薬に抗HIV薬くらいしか目玉になる医薬品がないのでは、鳥居薬品の売り上げは伸ばせない。医薬品開発はカネも時間もかかる。JTの木村会長、小泉社長がギャラハーを買収したように、医薬品でもリスクを恐れず研究開発投資に徹しない限り、画期的な新薬は生まれないし、鳥居薬品の成長もない。

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