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「控除」が無い「給付付き税額控除」?

「控除」が無い「給付付き税額控除」?

消費税「0%」の旗は降ろせず、「1%」案採用の流れ

高市早苗政権が掲げる、中低所得者向けの支援策「給付付き税額控除の導入」と、それ迄の繋ぎとしている「飲食料品の消費税率ゼロ」に関する社会保障国民会議の議論が、「夏前」を予定する中間取り纏めに向けて大詰めを迎えている。

 消費税減税については「0%」ではなく「1%」とする流れとなっているが、効果への疑問や税率を元に戻せるのかとの懸念の声は政府内からも絶えない。一方、給付付き税額控除の方は給付の個々の金額や全体規模が不明確なままだ。手厚くすれば数兆円単位の恒久財源が必要となるだけに、「広く薄く」蒔く形に止まる可能性が強まっている。

 米国のトランプ大統領の訪中に同行したベッセント財務長官は5月11日、急遽日本に立ち寄り、片山さつき財務相や高市首相と会談した。ベッセント氏は片山氏との会談後、円安が続く為替について記者団に「過度な為替の変動は望ましくない」と述べつつも、「日本経済の基盤は非常に強く、為替に反映されていくと思う」と語り、突然の訪日の意図を探ろうとする記者団を煙に巻いた。

 イラン情勢を見通せず、原油価格が高止まりする中、日本では首相の「責任有る積極財政」「財源の見えない消費税減税」が市場から材料視される様になっている。原油高による物価の上昇に見舞われ、国の借金が1100兆円を超す日本では国債利回りの急進が続く。5月18日には10年国債の利回りが29年半ぶりの高水準となる2・800%迄上昇した。にも拘らず減税に突き進む政権の姿勢に国債が売られ、金利の上昇、円安を招く「市場からの警告」とも捉えられる現象が再々繰り返されている。

 日本は世界最大の米国債保有国だ。日本の金利急騰に伴って日本の投資家が円資産に入れ替える為に米国債を売り、米国債の価格急落、米金利の上昇に波及する事を米国政府は強く警戒している。ベッセント氏の訪日は、円安に歯止めを掛けるべく利上げは徐々に進める様求めつつも、米国債売りに繋がり兼ねない野放図な減税政策には釘を刺す事が目的だったのではないか——。大統領が中央銀行に利下げを迫る国でもある。高市首相が米側の「脅し」に公然と逆らうのは極めて難しいと見られる。

 とは言え、先の衆院選で「私の悲願」と迄言った、「飲食料品の消費税率ゼロ」の旗を降ろす事は出来ない。給付付き税額控除導入迄の2年間に限って税率ゼロとする場合、失われる税収は年約5兆円なので計約10兆円だ。それでも高市政権の主要な面々は、恒久財源なら増税が不可欠でも期間限定であれば「搔き集める事で何とかなる」と考えている節が有る。穴が空く税収分を埋める財源としては、補助金の削減や租税特別措置の見直し、外国為替資金特別会計の剰余金等に手を付ければいい、との声が上がっている。

 只、「0%」はレジのシステム改修に1年程度掛かるといい、政府内では下火になりつつある。その点、税率「1%」への引き下げなら、6カ月程度に圧縮出来るという。5月20日の党首討論で国民民主党の玉木雄一郎代表から消費税減税の開始時期を問われた首相は、「AS SOON AS POSSIBLE(出来るだけ早く)という事で頑張っていく」と応じた。又、レジの改修については「システム変更を一番早く出来る方法も(国民会議で)検討頂いている」と述べ、早期実施が可能な「税率1%」の採用にも含みを残した。

 官邸関係者の1人は「今国会中に(減税の)法案提出まで行けば、来年から減税出来る。『税率1%』が選択肢になった以上、減税見送りはもう無い」と口にする。時限的な減税で、大規模の赤字国債発行を伴わないなら米国の虎の尾を踏まずに済むとの見立ても有る。消費税減税法案の今国会成立、2027年の施行を睨み、政府内からは7月17日迄の通常国会の会期延長論が早くも出始めている。

 但し、政府にとって「本丸」は消費税減税ではなく、29年からの実施を目指す給付付き税額控除だ。こちらは国民会議で大枠が固まった。

対象は「中低所得の現役勤労者」

5月27日、同会議実務者会議議長の小野寺五典自民党税制調査会長は実務者協議の場で「給付付き税額控除のイメージ」を示した。早期実施や実務を担う自治体の負担軽減の為、「控除」は当面見送り、「給付」に一本化してスタートする。支援の対象は世帯単位でなく個人単位とし、働いて社会保険料を納めている「中低所得の現役勤労者」とする。「控除」を見送る以上、「控除無しの新たな給付金制度」となる為、政府内には「給付付き税額控除」の名称を変更すべき、との声も出ている。

 子育て世帯や社会保険料等が掛かり始める「年収の壁」を超える人には給付を加算する。高齢者も就労し、税・社会保険料から年金等を差し引いた「純負担率」が現役並みの中低所得者であれば支援の対象とする。財源が限られる中、日本維新の会は子育て世帯に絞った重点支援を主張、これに対し中道改革連合は、救済から漏れる低所得者が極力出ない様訴える等、実務者会議の中でも意見が割れていたが、結局「対象から漏れた人の不満は強い」として、幅広い層を支援する方向だ。

 対象となる「中低所得層」の所得下限としては、給与所得控除の最低保障額「74万円超」や厚生年金に加入出来る「年収約106万円超」等を例示した。給付は①所得税非課税の人は定額、②所得税が掛かる人は所得が増えるにつれ給付を増額、③所得が一定水準に達すると増額を打ち止め定額に、④以降は所得が増えるにつれ給付を減額し、所定の水準に達すれば打ち切り——の4段階とする。働く中低所得者の手取りを増やして就労促進を図る事を最大の目的としている。預貯金等の資産は当面考慮しない。

 しかし、一方で新たな給付金制度の具体像は依然曖昧だ。肝心の給付額のみならず、給付額や給付を打ち切る所得水準を何処で線引きするか——等については未定となっている。

巨額の恒久財源は何処から見出すのか

 更に新たな給付金制度は毎年度の事業で、巨額の恒久財源が不可欠となる。1人4万円を支給する場合、「飲食料品の消費税率ゼロ」と同じ、5兆円程度掛かる、との試算も有る。救済対象を広げるなら更に莫大な費用が必要となる。

 恒久財源となれば、外為特会等の税外収入や税収の上振れ等では対応出来ない。かと言って、赤字国債発行は国債価格の一層の下落に直結する可能性が有る上、米国の意向も無視出来ない。高市政権は6月5日、中東情勢への対応として全額を赤字国債で賄う総額3兆1135億円の26年度補正予算を成立させた。「25年度予算に計上していた赤字国債の内、発行不要となる見通し分の枠」を活用するとして、首相は「市中への発行総額を増やさずに対応出来、マーケットに影響を与える事無く実行可能」と言う。

 それでも今後は防衛費積み増し分の財源調達も迫られる。そうした状況で厚労省幹部が懸念するのが社会保障への切り込みだ。関係者の間では公的年金積立金の運用上振れ分や、低所得の年金生活者の年金に税で上乗せしている「年金生活者支援給付金」を流用する案すら囁かれている。だが一方で、「低所得の人に給付をしておいて社会保障を削るなら、何の為の新制度なのか」(自民党厚労族)という疑問も強く、先行きは見通せない。

 十分な財源を見出す事が出来ない場合、新たな給付金制度は多くの人を対象とする分、少額の支援に止めざるを得なくなる。そうなった場合、「就労意欲を高める」という政策目的の達成が危うくなり兼ねない。又、「本当に消費税率を元に戻せるのか」との懸念も一層強まる。厚労省内では「ゼロや1%から(現在の飲食料品への税率の)8%に戻せるとはとても思えない」等と表情を曇らせる職員が少なくない。そうなれば、国家予算の中でも最大規模の社会保障費に手を付けずに乗り切るのは不可能と見られている。「それなのに財源の議論に厚労省はタッチ出来ていない。蓋を開けたら外堀を固められていた、というのでは目も当てられない」厚労省関係者はそう言って、天を仰いだ。社会保障負担抑制の為にも、今後、予防医療体制へのシフトが待たれる。

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