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未来の会

「浜六郎の臨床副作用ノート」第139回 ◎ アデュカヌマブの科学無視承認

「浜六郎の臨床副作用ノート」第139回 ◎ アデュカヌマブの科学無視承認

 アデュカヌマブは、アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβに対するモノクローナル抗体である。米国では、2020年11月の独立専門委員会によるほぼ満場一致の「エビデンス不十分」との結論を無視し、FDA(食品医薬品局)は本年6月に迅速承認した。その承認の危うさについては、本誌8月号でも取り上げられている1)。2019年3月の独立評価委員会の中間解析でfutility analysis(無益性解析)「継続しても効力証明見込みなし」との結果を受け入れて、メーカーは試験を中止した。それがなぜ承認されることになったのか、「薬のチェック」2)で検討した結果の概略を紹介する。

試験を完了できない人がプラセボ群の1.8倍

 アデュカヌマブのランダム化比較試験(RCT)は、基本的に同じ計画の2つのRCT(301試験と302試験)からなり、両試験ともプラセボ群と低用量群、高用量群で比較された。FDAとメーカーは、試験中断後もデータを集め、様々な操作を加えて再検討した。試験が計画通り実施できなかった不適合者(ITT集団から計画書適合集団=per protocol population:PP集団を減じた人数)のオッズが、プラセボ群に比し低用量群1.5倍、高用量群1.8倍(p<0.0001)に達した。バランスの悪さは別にして、通常はPP集団で主解析を実施するものだが、FDAとメーカーはPP集団ではなく、78週終了者で主解析のCDR-SB(臨床認知症全般評価尺度)による認知機能の評価を実施した。そのために、PP集団からのプラセボ群の除外は高用量群の2.5倍に達した。

301試験は差なし、302試験でわずかの差

 その結果、302試験の高用量群のみ、かろうじて有意に認知機能の低下が少なかった。しかし、301試験では高用量群もプラセボ群と全く差がない。ほとんど同じ試験で、試験計画不適合者の出現割合の用量依存性なども同じ傾向がみられるのに、高用量群の主アウトカムのみが異なるという矛盾した結果となった。両試験を合わせると、有意差はなくなると推測されるが、データは示されていない。

害は明瞭:脳の浮腫と出血

 アデュカヌマブが結合したアミロイドβは異物であり、排除・修復のため炎症反応が起こり、浮腫、出血が起こる。MRI画像でこれがとらえられ、ARIA(アミロイド-関連画像異常)と呼ばれる。プラセボ群では3%(浮腫)〜10%程度だが用量依存性があり、高用量群では40%を超える(オッズ比は6〜20)。症状も頭痛や吐き気、めまいなど高頻度である。

 ARIA出現のためにCDR-SB(臨床認知症全般評価尺度)評価の対象から除外された人の割合は、高用量群はプラセボ群の約4倍であった。

 PP集団に入らなかった人、さらには最終評価集団に入らなかった人の認知機能は、どのような経過をたどったであろうか、全く闇のなかである。

米国厚生省の監察官が調査を開始

 米国の独立情報誌パブリックシチズンなどによる強い要望を受け、米国政府内に設けられた独立監視機関(Inspector General)が、審査の過程でFDAとメーカーとの間の「不適切な親密な関係」の有無を調査すると8月4日に発表した。これを受け、アデュカヌマブを使わない病院や、医療保険ではカバーしないという保険システムが現れている。日本でも承認申請がなされているが、承認は不適切である。

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